数年ぶりにCD紹介を書く。(そんなに書いてなかったことに愕然としつつ、、、)
蘇永康の北京語新譜「28」。タイトルの意味は、1985年に芸能界入りして満28年になったこと。2011年「和那誰的」以来3年ぶりの新譜リリースだ。
香港製作で7曲北京語・3曲広東語という構成になっている。私は彼の広東語の発音と響きが好きなので、北京語曲及びアルバムには少し点が辛くなってしまいがち さて、どうかな?
蘇永康の北京語は、この世代の香港人としては比較的上手いと言われている。数年間だがシンガポール華人と結婚していたので、北京語を日常的に話していた時期もあった。
1曲目を聴き始めたとき、「さすがにあの頃ほどの発音じゃないか…」という気もした。しかし、聴いているうちに耳になじんで、曲そのものに引き込まれていく。
ゆったりしたバラードは、丁寧に歌いつつ伸びやか。声が途切れる瞬間の息づかいも音楽の要素。蘇永康のバリトンを十分に引き出す音域とメロディ、いい曲を書いてもらってる
アコースティックギターに乗っていくフォーク調「有愁必抱」は方大同(カリル・フォン)の曲。2009年に「So I Say」を提供されたときは、方大同の世界を壊さないように頑張ってた感があったが、今回は蘇永康の世界との間で巧く折り合いがついた。ほどよく甘く響く声で大人の味わい。
自身の作曲「我的偶像」は林夕が詞を書いた。偶像=アイドルとは、つまり今年結婚する彼女のこと ライブなどで歌う欧米の曲のエッセンスが感じられる。自分の好きなメロディを書くとこうなるのね
もう1曲林夕が詞を書いた「分手天才」は雷頌徳(マーク・ロイ)の作曲。バラードだけど、端々に蘇永康独特のグルーヴ感が出る。
3曲の広東語曲の最初は、昨年没後20年だった陳百強(ダニー・チャン)の「有了你」をモチーフに、雷頌徳が新たなメロディを加えて作ったオマージュ。懐かしいフレーズと、蘇永康の堅実なボーカルが融合。
藍奕邦(ポン・ナン)提供の「潮流」は、エコーをかけたミキシングが清涼感を与えている。強い絆を信じる歌詞も印象に残って、チャートでは1位まで上がった。
最後を締めるのは先行オンエアでヒットした「某某」。語りかけるような広東語ボーカルは、蘇永康の真骨頂だ。
ミュージシャンクレジットに長年おなじみの名前を見ると、それもまた嬉しい。ギターには倪方來、Joey Tang(建明)、Soh Tak Wah(蘇徳華)、コーラスにPatrick Lui(雷有暉)等々。
YouTubeで東亞唱片オフィシャルチャンネルが発信するMVにも、有名人が続々。レーベル社長でもある任賢齊(リッチー・レン)、香港のベテラン女優・呉君如(サンドラ・ン)、映画「インファナル・アフェア」等の俳優・杜汶澤(チャプマン・トー)、台湾の人気タレント・陳建洲。芸歴の長さは人脈の広さにつながっている。
パッケージは黒地の紙製。モノクロ写真の表紙を開けると1曲目・2曲目の歌詞があり、左に開くと3曲目・4曲目、真ん中の5曲目・6曲目の次は右に開くとまた真ん中に7曲目・8曲目があり、最後は開いた右側の9曲目・10曲目。
さらに開いたところにCDがある。開いた紙には細い山道、大きなカーブ、平原の中の一本道など、様々な“道”。CDの下には十字路。こういう凝り方も、わりと蘇永康らしい。
そしてレポート用紙に書きなぐったような、長い謝辞。自筆原稿をそのまま印刷したらしい。。。ところどころ読めない(笑) その小汚い字にまた親しみが湧いたりして
発売記念の台北ライブが6月に行われたが、行けなかった・・・無理して行けばよかったな・・・
好きな歌を歌い続けられるのが、何よりの幸せ。続けることで、若い頃には出せなかった何かが、どこかに出てくる。それは声の深みだったり、豊かさだったり、包容力だったりする。
蘇永康が、やはり蘇永康であることを再確認した「28」。iTunesでも買えます