安倍首相は祖父岸信介元首相のことが念頭にあるに違いない。東条内閣の閣僚であったことで、岸は巣鴨プリズンに収容された。岸は死を覚悟したこともあったという。その思いを振り切って生きたのは、日本を侵略者として決めつけた、東京裁判史観を認めることができなかったからだ。「終戦直後は幾度か死を決した。而して之を決行しなかった理由決して死を恐るるからでもなく、又、徒に生を執着したからではない。今次戦争の起こらざるを得なかった理由、換言すれば此の戦は飽く迄吾等の生存の戦いであって、侵略を目的とする一部の者の恣意から起こったものではなくして、日本として誠に止むを得なかったものであることを千載迄闡明することが、開戦当初の閣僚の責任であることを痛感したからである」(『岸信介の回想』)。この文章は楠精一郎の『列伝・日本近代史 伊達宗城から岸信介』でも紹介されているが、安倍首相のその思いを共有しているはずだ。しかし、そこまで言い切るには、まだまだ機が熟していない。準備を怠るべきではないにしても、まずは経済を優先させ、国民を明るくすることから手を付けるべきだろう。対米関係についても、気を抜くわけにはいかない。一歩一歩先に進む以外にないのである。今の安倍首相の着実な政治は、国民に安心感を与えている。長期政権のレールを敷かなければ、全てが始まらない。ここは忍耐が求められるのである。
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