創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#303

2012-02-01 07:23:25 | 読書
【本文】
二百六十段
関白殿、二月二十一日に①
 関白殿、二月(にぐわち)二十一(にじふいち)日(にち)に法(ほ)興(こ)院(ゐん)の積善寺(さくぜん)といふ御堂(みだう)にて一切(いつさい)経(ぎやう)供養(くやう)せさせ給ふに、女院もおはしますべければ、二月(にぐわち)一(つい)日(たち)のほどに、二条の宮へ出でさせ給ふ。
ねぶたくなりにしかば、何事も見入れず。
つとめて、日のうららかにさし出でたるほどに起きたれば、白う新らしう、をかしげに造りたるに、御簾よりはじめて、昨日掛けたるなめり、御室(おほむし)礼(つらひ)、獅(し)子(し)・狛(こま)犬(いぬ)など、「いつのほどにか入りゐけむ」とぞをかしき。
桜の一丈ばかりにて、いみじう咲きたるやうにて、御階(みはし)のもとにあれば、「いととく咲きにけるかな、梅こそただ今はさかりなれ」と見ゆるは、造りたるなりけり。すべて、花の匂ひなどつゆまことにおとらず。いかにうるかさりけむ。「雨降らばしぼみなむかし」と思ふぞ口惜しき。
小家(こいへ)などいふもの多かりける所を、今造らせ給へれば、木立など、見所あることもなし。ただ、宮のさまぞ、気(け)近うをかしげなる。
 殿わたらせ給へり。青(あお)鈍(にび)の固紋(かたもん)の御指貫(さしぬき)、桜の御直衣(のほし)に紅(くれなゐ)の御衣(おんぞ)三つばかりを、ただ御直衣に引き重ねてぞたてまつりたる。
 御前よりはじめて、紅梅の濃き・薄き織物、固紋・無紋などを、ある限り着たれば、ただ光り満ちて見ゆ。唐衣は、萌(もえ)黄(ぎ)・柳(やなぎ)、紅梅などもあり。

【読書ノート】
最も長い段です。胸突き八丁です。頑張らなくちゃ。
 「枕草子」中最も長大な一段。九九四年二月二〇日(二一日は誤り)。「関白殿」は道隆。当時四十二才。一族の盛時の様子を記しています。作者は出仕後半年にも満たない時期のことです。
女院=東三条女院藤原詮(せん)子(し)。道隆の妹。一条帝の生母。三十三才。歴史上の人物です。
二条の宮=道隆が中宮のために造営した新宅。次ぎにその印象を記述。
御室(おほむし)礼(つらひ)=室内のしつらえ、装飾や調度の配置。入りゐけむ=入って座りこんだのだろう。本物の動物に例えての表現。
御階(みはし)=中宮のおいでになる御殿の中央にある階。匂ひ=色合い。うるかさり=手間隙かけた。
多かりける所を=(取り払って)。宮=御殿。気(け)近う=親しみやすく。御衣(おんぞ)=下着。ただ=(出袿(いだしうちき)をせず)直に。
御前よりはじめて=中宮様を初めとして。ある限り=おそばに侍っている女房が皆着ているので。(部屋中が)。