創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#306

2012-02-04 07:33:05 | 読書
【本文】
関白殿、二月二十一日に④
 掃司(かもんづかさ)参りて、御格子(みかうし)参る。主(との)殿(も)の女官、御きよめなどに参りはてて、起きさせ給へるに、花もなければ、
「あな、あさまし。あの花どもはいづち往ぬるぞ」
と仰せらる。「
「暁に『花盗人あり』といふなりつるを、なほ、枝など少しとるにやとこそ聞きつれ。誰がしつるぞ、見つや」
と仰せらる。
「さも侍らず。まだ暗うて、よくも見えざりつるを。白みたる者の侍りつれば、『花を折るにや』と、後ろめたさに、言ひ侍りつるなり」
と申す。
「さりとも、みなはかう、いかでか取らむ。殿の隠させ給へるならむ」
とて笑はせ給へば、
「いで、よも侍らじ。『春の風』のして侍るならむ」
と啓するを、
「『かう言はむ』とて隠すなりけり。盗みにはあらで、いたうこそ、風流(ふり)なりつれ」
と仰せらるも、めづらしきことにはあらねど、いみじうぞめでたき。
 殿おはしませば、「寝くたれの朝顔も、時ならずや御覧ぜむ」とひき入る。おはしますままに、
「かの花は失せにけるは。いかで、かうは盗ませしぞ。いとわろかりける女房達かな。睡(い)汚(ぎた)なくて、え知らざりけるよ」
とおどろかせ給へば、「
「されど、『我よりさきに』とこそ思ひて侍りつれ」
と、忍びやかにいふに、いと疾(と)う聞きつけさせ給ひて、
「さ思ひつることぞ。『よに、こと人出でゐて見じ。宰相とそことのほどならむ』とおしはかりつ」
といみじう笑はせ給ふ。
「さりけるものを、少納言は、春の風に負(お)ほせける」
と、宮の御前のうち笑ませ給へる、いとをかし。
「虚言(そらごと)を負(お)ほせ侍るなり。『今は、山田もつくる』らむものを」
などうち誦ぜさせ給へる、いとなまめき、をかし。
「さても、ねたく見つけられにけるかな。さばかりいましめつるものを。人の御方には、かかるいましめ者のあるこそ」
などのたまはす。
「『春の風』は、そらにいとかしこうもいふかな」
など、またうち誦(ず)