創作日記&作品集

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「わたしなりの枕草子」#305

2012-02-03 07:26:49 | 読書
【本文】
関白殿、二月二十一日に③
君など、いみじく化粧(けさう)じ給ひて、紅梅の御衣(おんぞ)ども、「劣らじ」と、着給へるに、三の御前は、御匣(みくしげ)殿(どの)、中姫君よりも大きに見え給ひて、「上」など聞こえむにぞよかめる。
上もわたり給へり。御几帳引き寄せて、あたらしう参りたる人々には見え給はねば、いぶせき心地す。
さしつどひて、かの日の装束・扇などのことを言ひあへるもあり。また、挑み隠して、「まろは、何か。ただあらむにまかせてを」などいひて、
「例の、君の」
など、憎まる。
夜さり、まかづる人多かれど、かかるをりのことなれば、えとどめさせ給はず。
上、日々にわたり給ひ、夜もおはします。 君たちなどおはすれば、御前、人ずくなならでよし。
御使、日々に参る。
御前の桜、露に色はまさらで、日などにあたりてしぼみ、わろくなるだに口惜しきに、雨の、夜降りたるつとめて、いみじく無徳なり。いと疾(と)う起きて
「『泣きて別れ』けむ顔に心劣りこそすれ」といふを聞かせ給ひて、
「げに雨降るけはひしつるぞかし。いかならむ」
とて、おどろかせ給ふほどに、殿の御方より、侍の者ども、下(げ)種(す)など、あまた来て、花の下(もと)にただ寄りに寄りて、曳き倒(たふ)し、取りてみそかに行く。
「『まだ暗からむに』とこそ仰せられつれ。明け過ぎにけり。不(ふ)便(びん)なるわざかな。とくとく」
と倒し取るに、いとをかし。
「『言はば言はなむ』」とか、
「鼠がことを思ひたるにや」
とも、よき人ならば言はまほしけれど、
「彼の花盗むは誰ぞ。あしかめり」
といへば、いとど逃げて、引きもて往ぬ。なほ殿の御心はをかしうおはすかし。枝どもも濡れまつはれつきて、「いかに便なきかたちならましと思ふ。ともかくも言はで入りぬ。

【読書ノート】
君など=姫君達は。「劣らじ」=負けないわ。「上」=奥方。
上も=北の方。貴子。伊周、定子の生母。あたらしう参りたる人々=私たち新参の女房には。いぶせき=(どんなお方かと)気にかかる。
かの日の=供養当日の。挑み隠して=競争して隠し。何か=何も(支度など)。「例の、君の」=あなたったら、いつもの調子ね。
まかづる人=(里に)退出する女房。かかるをり=準備に忙しい時だから。
無徳=形無し。『泣きて別れ』=泣いて別れたという顔(古歌)に比べると(この桜は)見劣りがする。いかならむ=(桜は)。おどろかせ給ふほどに=お目覚めになる時に。
『まだ暗からむに』とこそ~=侍が下(げ)種(す)に言っている。不(ふ)便(びん)なるわざかな=まずい事になった。
「『言はば言はなむ』」とか「鼠がことを思ひたるにや」とも=咎めるのなら咎めなさい」(古歌を引用)とか「鼠のまねでもしているのですか」と、機転の利いたことを(言いたかった)。よき人ならば言はまほしけれど=よき人なら言いたかったけれど、(侍どもには通じそうもないので、)。枝どもも=(そのままだと)。
道と桜の造花。桜に固執していたのでしょうか。意外とナイーブなのかも。