Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

青い事典、まとめ10

2016-10-06 08:44:30 | 日記

 数日して、祖母は良いことを思いついたという感じで、にこにこして私を呼びました。

「お祖母ちゃん考えたんだけど

と、オブラートの効用をもう一度説明した後、

嫌な目にあう時は、物事は何でもまず大抵は見る事から始まるから、嫌な事を見なければ嫌だと思わないんだよ。

嫌な事に出会った時に、人生にはオブラートが無いから、ほら、オブラートってこんな風に透けているだろう。

祖母はオブラートを透かして私に見せてくれます。

オブラートは透けているけど、向こう側がよく見えない。

すっきりくっきりという具合に向こう側の物はよく目に映らない。

これだよ、人生のオブラートという物は。

分かりましたか?

私は祖母のいう、意味するところがさっぱり分かりませんでした。幼かったですからね。

 つまり、と祖母は言います。私に分かっていないという事がよく分かっていたんですね。

これから出会う世の中の事は、全てこのオブラート越しに眺めればいいんだよ。

そうすれば嫌な物がすっきりくっきり目に映らないから、そう嫌な思いもせずに人生を過ごす事ができる。

そうしなさい。

うんうん、これは良い事を思いついた、という具合に祖母は手を打っていました。

 そんな話を私は思いだして、Fさんに話すのでした。

それって、とFさんは言って黙りました。そして、いい事なのかなと考えていましたが、

私の絵と同じように、妙な考えだと思ったようでした。

 今から思うと、物事すっきり見た方がよいに決まっています

物事の真実が分からなくなってしまいますからね。

ただ、昔のようにお日様に照らされている月に例えられるように、受け身の生き方が主流であった明治の女性には、

こういう生き方が世を渡る術、理想に思われたのかもしれません。

辛い現実が多い女性達だったんでしょうね。

 それでも、家の祖母は祖父に可なり大切にされていた人で、所謂上げ膳据え膳、

料理の一つもさせてもらえないような、家事などさせないお雛様で置かれた人だとか、それでさえこうです。

そして、祖父は祖母の宝物でした

人は自分の宝物を必ず持っている、そんな話も祖母はしてくれました。

「自分の宝を見つけたら、決して離してはいけないよと、

大事に懐に仕舞って、一生大切に持っていなさい。決して人に渡してはいけないと。

また、人の宝は取ってはいけない、それはその人の宝物だから

と、教えてくれたものです。

 

 

 

 

 

 


青い事典、まとめ9

2016-10-06 08:05:52 | 日記

 私は病気になると、大抵は風邪でしたが、処方されるお薬に粉薬が多かった時期がありました。

幼い頃はシロップ入りの飲み薬でしたが、ある程度の大きさになると粉薬に変わったのです。

シロップ瓶では処方量が入り切らなくなる頃だったのでしょう。

 ところが、粉薬の苦い事、『良薬口に苦し』と言われても、子供には全く飲みたい物ではありません。

それで、嫌がっていた私に、祖母が自分の薬を包んでいたオブラートを貸してくれました。

こうやって包んで、と、口に入れて水で飲む、と、飲ませてくれました。

口中に粉薬が溢れて苦く咽るという事無しにすっきりとお薬が飲めます。

私は一発でオブラートのフアンになりました。

早速、祖母は母に言って、薬屋さんで私の分も購入するよう指示しました。

そして、オブラートの効用についてにこにこして話してくれるのでした。

「オブラートというのは便利な物だ。こんな苦いお薬を包んで苦くなく飲み込ませてくれる。

そして、幼い私の顔をしげしげと見て、

「お前も、これから人生で嫌な事、苦々しい事に出会うだろうから、…」

と、必ず粉薬のように苦々しい嫌な事に出会うと言い、それは必ず飲み込まなければいけないお薬のような物だ

そんな時にこのオブラートのような包みこんでくれる物があれば、嫌な思いをせずに済むのに、

人生にオブラートって無いからねぇ。

と、考え込んでいました。

 私は、そんな粉薬のように苦い嫌な物が私の人生に必ず待ち構えていると思うと、とても嫌でしかめっ面をしたものです。

それ程に、当時の粉薬の苦さは子供の口に格別な不快感をもたらしていました。

苦いだけでなく咽るという現象も、これから薬を飲むという時に、恐怖に似た嫌悪感を私にもたらすのでした。

よく、(薬を)さあ飲むぞ!、と気持ちが定まるまでは、

もうちょっと待って、とか、今はいい(嫌)、と言って、嫌々をして口を開けなかったものです。

 人生にオブラートか、想像もつかない出来事とそれを阻止するスーパーマンのようなオブラート

私も祖母の横で夢想してみるのでした。