3本の鉛筆は前回の19回で止めてもよかったのですが、
銀色の鉛筆のその後の顛末について書こうかなと思います。
私は合格した大学に行く為に故郷を離れました。そして、学校の有る土地で下宿生活を始めました。
下宿には14人程の女子大学生が暮らしていました。
当時は花の女子学生、女子大生等と言ったものでした。今を盛りのうら若い乙女が集っていました。
ぴーちくぱーちく雲雀の子…などといいますが、親元を離れて自由闊達、様々に青春を謳歌していました。
もう、男女の差などあまり感じない年代になって来ていましたから、女性と言っても明るくて活動的、
溌剌としている人が何人もいました。少子化の傾向で、私の家もそうですが、男子のいない家も多く、
そういう家庭では長女が長男のように育てられている場合が多かったのです。
女子と雖も確りしなければ成らなかったのです。
私の下宿の友人にも長女は何人か居て、皆それなりに十人十色の様相を見せていました。
その中にNさんがいました。
Nさんとは学科が一緒だった事もあって、1回生の時にはよく登下校と一緒でしたが、
サークルも同じだったので、自然何時も共にいる時間が長くなりました。
又、下宿でもよく部屋を行き来して、あれこれと関わりあったものです。
ここで、共に語り合ったと書けなかったのは、
ある程度の価値観が出来上がってから出会った2人だったからです。
多分、共に考え方の違いがあったのでしょう、
2回生に成った頃には何となく2人の間にぎくしゃくとした亀裂が生じていたものです。
そんな話はさて置いて、このNさんは、知り合った初めの頃にはよく私の部屋に顔を出したものです。
其れは、大学で初めての課題か何かのレポートを書いていた時だと思います。
何時もの様に私の部屋にやって来たNさんは、書き物をしている私の机の上のペンケースに、
あの銀色の鉛筆を見つけ興味を持ったようでした。
「こんな鉛筆あるの?」
そう言って見入っていましたが、書き物に忙しかった私は云とだけ言って彼女の様子には無頓着でした。
その後。触っていい?とか、いい鉛筆だねとか、何の鉛筆とか何とか、
彼女が言葉を重ねて来るので、如何やら好みの鉛筆で興味を引かれているらしい事に気付きました。
この鉛筆好きなの、と聞くとはにかんだ様に頬を染めて微笑んでいました。
彼女はそうとも何とも言わないのです。
私にはこの彼女の行動や表情が謎でよく分からなかったので、?、何だろうと疑問に思っただけでした。
その内、何回か部屋に来ていた彼女は、私がこの鉛筆について如何とも彼女に言い出さないので、
「Junさん、この鉛筆小さくなったら私にくれない?」
と言ったものです。
嗚呼、そうか、彼女この鉛筆が欲しかったのだと、この時漸く私も合点したのですが、
シャープペンシルが主流の時代、鉛筆に興味を持つなんて変ってるなと思ったものでした。
父から貰った鉛筆も3本目になるとそう愛着が無く、この時まで長くペンケースに在った事もあって、
私は彼女がそんなに気に入ってるのならと、いいよ、と譲る事を承諾しました。
はっきりしませんが、父に貰った銀色の鉛筆のもう1本が、多分手付かずで未だこの時私の手元に在った気がします。
短くなれば棄ててしまうだけだから、そんな気持ちでOKしたのですが、彼女にするととても嬉しい事のようでした。
其れからそう日にちが経つ事も無く、目出度く銀色の鉛筆は彼女の元に貰われて行きました。
ところで、Nさんはファッションにとても興味のある人でした。
後日、その年の暮れに近い頃に、彼女は街で新しいジャケットを購入して来ました。
彼女にすると、デザインと価格を考慮してまあまあの線で妥協して、気に入って買ったジャケットだという事でした。
その色が、シルバーでした。
ポルシェなどのアルファベットがワッペン等の様に飾り付き、大層男の子受けするジャケットでした。
あー、そうですね、今になって思うと彼女は銀色が好きだったんですね。
私は当時、ボーイッシュな人なんだなと、ジャケットのデザインにばかり気を取られていたものです。