Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

3本の鉛筆、20

2017-01-15 19:45:11 | 日記

 3本の鉛筆は前回の19回で止めてもよかったのですが、

銀色の鉛筆のその後の顛末について書こうかなと思います。

 私は合格した大学に行く為に故郷を離れました。そして、学校の有る土地で下宿生活を始めました。

下宿には14人程の女子大学生が暮らしていました。

当時は花の女子学生、女子大生等と言ったものでした。今を盛りのうら若い乙女が集っていました。

ぴーちくぱーちく雲雀の子…などといいますが、親元を離れて自由闊達、様々に青春を謳歌していました。

もう、男女の差などあまり感じない年代になって来ていましたから、女性と言っても明るくて活動的、

溌剌としている人が何人もいました。少子化の傾向で、私の家もそうですが、男子のいない家も多く、

そういう家庭では長女が長男のように育てられている場合が多かったのです。

女子と雖も確りしなければ成らなかったのです。

 私の下宿の友人にも長女は何人か居て、皆それなりに十人十色の様相を見せていました。

その中にNさんがいました。

Nさんとは学科が一緒だった事もあって、1回生の時にはよく登下校と一緒でしたが、

サークルも同じだったので、自然何時も共にいる時間が長くなりました。

又、下宿でもよく部屋を行き来して、あれこれと関わりあったものです。

 ここで、共に語り合ったと書けなかったのは、

ある程度の価値観が出来上がってから出会った2人だったからです。

多分、共に考え方の違いがあったのでしょう、

2回生に成った頃には何となく2人の間にぎくしゃくとした亀裂が生じていたものです。

 そんな話はさて置いて、このNさんは、知り合った初めの頃にはよく私の部屋に顔を出したものです。

其れは、大学で初めての課題か何かのレポートを書いていた時だと思います。

何時もの様に私の部屋にやって来たNさんは、書き物をしている私の机の上のペンケースに、

あの銀色の鉛筆を見つけ興味を持ったようでした。

 「こんな鉛筆あるの?」

そう言って見入っていましたが、書き物に忙しかった私は云とだけ言って彼女の様子には無頓着でした。

その後。触っていい?とか、いい鉛筆だねとか、何の鉛筆とか何とか、

彼女が言葉を重ねて来るので、如何やら好みの鉛筆で興味を引かれているらしい事に気付きました。

 この鉛筆好きなの、と聞くとはにかんだ様に頬を染めて微笑んでいました。

彼女はそうとも何とも言わないのです。

私にはこの彼女の行動や表情が謎でよく分からなかったので、?、何だろうと疑問に思っただけでした。

その内、何回か部屋に来ていた彼女は、私がこの鉛筆について如何とも彼女に言い出さないので、

「Junさん、この鉛筆小さくなったら私にくれない?」

と言ったものです。

 嗚呼、そうか、彼女この鉛筆が欲しかったのだと、この時漸く私も合点したのですが、

シャープペンシルが主流の時代、鉛筆に興味を持つなんて変ってるなと思ったものでした。

父から貰った鉛筆も3本目になるとそう愛着が無く、この時まで長くペンケースに在った事もあって、

私は彼女がそんなに気に入ってるのならと、いいよ、と譲る事を承諾しました。

はっきりしませんが、父に貰った銀色の鉛筆のもう1本が、多分手付かずで未だこの時私の手元に在った気がします。

短くなれば棄ててしまうだけだから、そんな気持ちでOKしたのですが、彼女にするととても嬉しい事のようでした。

其れからそう日にちが経つ事も無く、目出度く銀色の鉛筆は彼女の元に貰われて行きました。

 ところで、Nさんはファッションにとても興味のある人でした。

後日、その年の暮れに近い頃に、彼女は街で新しいジャケットを購入して来ました。

彼女にすると、デザインと価格を考慮してまあまあの線で妥協して、気に入って買ったジャケットだという事でした。

その色が、シルバーでした。

ポルシェなどのアルファベットがワッペン等の様に飾り付き、大層男の子受けするジャケットでした。

 あー、そうですね、今になって思うと彼女は銀色が好きだったんですね。

私は当時、ボーイッシュな人なんだなと、ジャケットのデザインにばかり気を取られていたものです。

 

 


3本の鉛筆、19

2017-01-15 11:53:54 | 日記

 さて、以下は夢であったか現実であったか、記憶は曖昧ですが、

話が打ち切りになって2、3日してからの事です。

教室の入り口近くで、私が同級生の女子2人位と雑談していると、ふいに父が入り口から入って来て私に話しかけました。

 「この鉛筆だけど…」

そういってあの銀色の、削られて使用されそれ成りに短くなった物を私に見せます。

 私が、お父さん、如何したの?と聞くと、何でも学校に用があって来たという事でした。

「この鉛筆お父さん使ったんだけど…」

と、私が言った様に父成りに何か書いてみたが、思うように行かなかったという事でした。

 この鉛筆向こうは要らないと言うから、もう使ったし父が貰ってよいかと聞くので、

私は向こうが要らないと言うんだから、私も要らないし父の好きにすればと答えます。

この私の返事で、父は神妙に何か決心したような顔付で頷くと教室から出て行きました。

この間本の1分も無かったと思います。

 その後、2、3時間して、私が教室の何時もの席に座っていると、後ろの席のBさんが話し掛けて来ました。

Junさんのお父さん、さっき教室に来てJunさんと話してなかった。

そうだよねと言うので、私はそうだと答え、学校に用が有ったんだってと答えます。

学校に用って?彼女は気になるようでしたが、私がさぁと答えると、その後は話し掛けて来ませんでした。

 暫くして、本を読んでいた私はふと気が付き、振り向くと、何時の間にかまた父が教室に来ていました。

父は振り向いた私の後ろの方で、黒い学生服の男子数人と話していました。

 私が父に気が付いた時、制服の中の男子の誰かが、父に私の方を見るよう促したので、

父は私の方に向き直りました。そして、お前気が付いたかい、と私に話掛けて来ました。

 此処で父は初めて私に、お前作家になったらどうだ、と言うのです。

将来作家にならないか、そんな事を言うのです。

遂に此処で父の本音が出たのだなと、私は積年の疑問を確信します。

 私は、クラスの後ろの男子数人や、和んだ自習時間の教室の様子、学校にいるという事を慮って、

何と答えたのでしょうか。えーっとか、将かそんなとか、考えてみるわとか、

その時、父に返事をした言葉をよく覚えていないのです。

 実際に、以上、この間夢であったのか、現実であったのか、私自身全く確信が持てないのです。

何故でしょう?

 教室風景が違和感なく何時もの昼間の其れであった事、如何にも普段ありそうな雰囲気の中に自分が居た事。

そこに普段は決して見ない筈の父が登場した事、かなり時間経過があるのに、父が2度も教室に現れた事。

この現か夢かの両立が、私の記憶を確固としたものにする事を妨げているのです。

 確りとした現実では、その後父から真新しい銀色の鉛筆を2本程貰いました。

あの鉛筆を会社で使ってみたがとても良かったから、会社用に買い、私にも父が買って来たという事でした。

父はその2本の銀色の鉛筆を私に渡す時に、

前述の夢か現実かと判断に迷っている出来事の中で言ったと同じ事を言いました。

 お前作家にならないか?将来だけど。

そこで私は父に答えて言ったものです。

 お父さん、作家だなんて、三文文士と言うくらいよ。成功しなければとても儲からない職業なのに。

私が学者に成りたいと言った時にだって、あんな儲からない職業と言っていたじゃないの、

それに輪を掛けて成功しそうにない、成功しなければ儲からない職業に、無理な事を、夢の様な事を言うのね。

 その様な事を私は言って、…如何なんでしょうか、その時私は父を失望させたのでしょうか。