ここで、読者の皆さんが気付かれたように、異星人である2人に名前を付けたい。
女性の方はシル、彼女にはテレパシーがあって人の心を読む事ができた。同族間ならテレパシーで会話もできる。
種族の中で彼女の能力が際立って優れていたのは、異星種間の混血が進み、多種族のDNAを多く獲得していたからだった。
彼らはもちろん、地球近くの宇宙空間に宇宙船を配備していた。
その船の仲間はこのシルの能力を非常に高くかっていたので、何かしらこの星の地上での出来事に当たる時には、
事有る毎に彼女を引っ張り出してとても頼りにするのだった。
さて、男性の方はミルという。人の発する光 、いわゆるオーラを見る事ができた。
その瞳も丁度海松色(みるいろ)をしていたので、場所によってカラーコンタクトで対処していたが、
本来の人のオーラを見る時には、やはりこのミル色の瞳で直に見なければならなかった。
ミルの見るオーラはその人の人となり、本質的な性質を見通すのに役立っていた。
彼に見える光は金銀から無色透明で輪郭は虹色の輝きから始まって真っ黒と、
其れなりにくすんだ色にも何回か出会った事がある。
目に見えて人の善悪が分かるので、はっきりとした悪人には最初から関わりあう事はしない。
が、特に必要な場合はそれも辞さずにしなければならない。
と、2人の紹介が済んだところで、話を元のお札販売所の側に戻そう。
ミルはもちろん、地上の人間の感情表現について調べに行ったのだが、
泣くと言う行為には2通りの感情表現があった。
悲しみか喜びか。?どちらだろうと思いながらシルの元に戻って来た。
その話をシルにしながら、2人で夢子を観察してみる。
夢子は遂にあふれる涙を流れるままにして、時折沈んだ中にも微笑みを浮かべたり、
堪え切れないように含み笑いをしたり、キラキラ歓喜に瞳を輝かせたりしていた。
夢子の中では様々な記憶が交錯していた。
嬉しくて楽しかった目くるめく日々、愚かにも失態をしてしまったバツの悪い時、
そんな悲喜交々の記憶が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えていく。
夢子の顔にこのような様々な感情の波紋が浮かんでは消えていく間、
傍らの初子は以前のんびりとにこやかに上を見上げてぽかんと口など開けていた。
「太陽っていいなぁ。ほんとに私は太陽が好き。」
太陽みたいな人っていいねぇ、初子は夢子に語り掛ける、
よく言うじゃない、君は僕の太陽だって、あれって分かる。
そんな事を臆することなく恥ずかしげもなく満面笑みで彼女が言うものだから、
夢子の方は遂に怒りが堪え切れなくなって来た。
『人が傍で悲しんでいるのに、少しは空気を読んでよ。』
確かに今日、泣いたり悲しんだりしているのを初子に悟られないようにして来た自分だが、
夢子だって自分の様子を彼女に気付いて慰めてもらいたいという願いはあった。
そこで、ぐしぐしと涙を手で拭ってみる、一寸含み笑いをして確りと初子の顔を見てみた。
流石ににこやかな初子も、夢子の頬が濡れているのに気付いた。
あれっ、彼女は空を見上げてみる、空には急に雲が寄せ始めていたが、雨にはまだ間があるようだ。
それに確かに今まで雨は降って来なかった。雪だって、と、…風花のような細かい白いものがゆるりと風に舞い始めた。
そうか、雪になるのね、初子は脱いで手に持っていた外套を羽織ると、
夢ちゃん、頬が雪で濡れているよ、目も赤いし、疲れているんじゃない、もう帰ろうか?
と夢子を案じた。
『如何いう神経なんだか、本とにこの人、何だか…、変。』
夢子にすると、初子は何だか鈍感が過ぎて、浮世離れした人間にしか思えなかった。
今までも、へぇ~えと、一般の人と彼女の間隔のずれを感じる事がままあったけれど、
それはそれで彼女の感覚に触れているのが面白可笑しく楽しかった。
しかし今日ここに至っては、悲しみから怒り、期待から肩透かしと、夢子の失望感は疲労感へと変った。
もうこんな人と付き合うのは止めようかなと思い始めた彼女だが、
でも、失恋して直ぐだし、他に話す親しい友人も今はいないから。
そう思うと、
次の彼が出来てから彼女とサヨナラした方がいいな。と決断するのだった。
『初ちゃんだって、その内失恋でもすればいいんだわ。』
私その時には絶対相談になんか乗ってやらないから。
夢子は自分とは違ってもし初子が失恋したなら、彼女が周囲に盛んにその顛末、
自分の張り裂けるような悲しみを明け透けにアピールするタイプだろう事を知っていた。
そんなの私知らないって言ってやろう。
フフフと笑いながら、その時の初子の顔を想像した夢子はにこやかに彼女を見た。
あら、何だか元気がないと思っていたけど、夢ちゃん元気が出たんだ。良かったね。
この時、初子に嬉しそうににっこり笑ってそう言われると、夢子の意固地になった気持ちも緩んでしまう。
一応、元気が無い事には気が付いていたんだわ。
夢子もやっぱり初子は友達だなと思い直した。
「ねえ、夢ちゃん、今日何だか変だったけど、何かあったの?」
そう初子が言い出すので、
そうだ、ここって反応が遅いんだっけ、と、他の友達からも聞いていた初子の性格を思い出した。
内心相談しようか如何しようかと思う夢子だが、元々初子に富士雄と交際している事を内緒にしてあったので、
今更その事を初子に言うと、また、何故友達の私に内緒にしていた、もっと早く相談してよと煩くなるに違いない。
その後、友情や本来の人の在り方ついてもとくとくと講釈されそうで、
そんな点でも初子の性格の気真面目で疎ましい事が今更ながらに思いやられた。
此処は黙っていようと夢子は思った。
一寸横目で初子を見ながら、慰めて欲しい気持ちを引っ込めると夢子はううんと首を振って、
「何にもないよ。」
と密やかに答えるのだった。