Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

初詣、5

2017-01-17 16:28:11 | 日記

 あゝあー、ここで紅の布地の掛けられた長椅子に腰かけていた2人が溜息を吐いた。

シルとミルである。

『この星の人間って、如何してこうも正直じゃないんだろう?』

ねえと、2人で頷く。

付き合っているなら付き合っている、別れたなら別れた。悲しいなら悲しい、嬉しいなら嬉しいと、

お互いに正直に言えばいいのに。何をもごもご口の中に籠らせて、心に秘密を抱え込んでいるのか。

2人の異星人には理解できない事であった。

 彼女達2人の光、ネオンカラーのイルミネエーションを見ているだけのミルでさえ、

2人の心の葛藤、喜怒哀楽、愛憎、協調や対立、そして反発を感じる事が出来た。

ましてやテレパシーで彼女達の心の内が手に取るように分かるシルになると、

げんなりして溜め息どころではなかった。

絶え間なく荒波にさらされた大海の小舟のよう、酷い船酔いに似た気分の悪さを感じた。

これは精神的な嫌悪感である。肉体的な物より始末が悪かった。

 脳裏にくらくらっと来るものを感じたシルはその場で放心状態になってしまった。

自己防衛本能が働き、暫く精神の安静に入ったのである。 

「あ、あれ、シル。」

1人この場に取り残される形になったミルは困った。

  ミルは困った、ミルは困った、困ったミルは船に向かってSOSを発信した。

 

  さて、こちらは初子と夢子である。当然目の前のシルミルの騒動は目に入る。

目の前で外人さんカップルがじたばたしている。そんな事を目の端に捉えて見てはいるけれど無頓着な初子。

 何だか女性の方は具合が悪いようだ、もしかすると女性は妊娠していて体調が悪いのではないか、

もしそうなら、あの男性の方は女性を如何するのだろうか?

外人男性の責任を問うように真偽の程を確かめようとして、かなり真剣な眼差しで2人を見つめる夢子。

目の前の2人のカップルを眺めていながらそれぞれの心中は別に、それぞれの思いで彼女達の会話は続く。

 「何だか初子、ちょっと変!」

え、そんな事無いよ、慌ててそう答える初子だが、元々、心に裏表の無い彼女である。

内に秘密を抱えるとやはり挙動不審の感がある。

夢子もその事がよく分かるので、もっとあれこれ初子に聞きたいと思うのだが、目の前の男女2人の事も気になる。

前と横、意識を分散しながら初子に問いかけるのはやや辛い。

 と、ここで、少し前から舞始めた風花の白い物の数が急に増した。太陽は雲に隠れたようだ。

雪の粒は細かいながらも風に吹き寄せられ、一瞬吹雪の様に彼女達を取り巻いた。

空かさず、ここでお札販売所の小屋の影から第3の外人さんが現れた。

 その人影は男性のようだ。綺麗なプラチナブロンドで元からいた男性よりは背が高い。

一瞬、初子や夢子の方に不安な一瞥をくれたが、

具合の悪そうな女性と介護する心配そうな男性の傍へと急いで近付いて行った。

彼が長椅子の2人の場所に着く頃には空に太陽も戻り、また日差しは復活して辺りに太陽光線が降り注ぐ。

周囲は暖かく明るくなった。

 「ほんとに、初子、鷹夫さんと…」

ここ迄言いかけた夢子はぷつりと言葉を途切らせた。

そしてその瞬間、夢子の目は大きく見開かれたと思うと、煌くような輝きがその瞳から発せられた。

彼女の瞳が発する視線の先は新参者の銀髪の男性である。 

また、視線だけではなく、彼女の体からも一気に狂おしい程に輝く眩しいオーラが、間一髪を入れずに発せられた。

 太陽光と夢子の清涼なオーラ、その2つが相まって、周囲に清々しい森林浴にも似た効果を及ぼしたようだ。

周囲の不純な物質を洗い流し、辺り一帯の大気が一気に浄化したようだった。冬の参道は一気に息吹が甦った。

 ううん、

シルの意識が戻った。

彼女は我に返って言葉を発した。

「私、如何したんでしょう?」

あれ、副長、如何してここに?シルはいつの間にか副長のチルが目の前に来ていたので驚いたのだ。

 副長のチルは知性派であった。艦内随一の切れ者と評判が高く、次期艦長への昇進は疑いようもなかった。

彼は冷静沈着で滅多に宇宙船から地上に降りて来ない。

気が付いたばかりのシルだが、今いる自分の場所が風景からも地上だと直ぐに見当がついたので、

自分の目の前にチルがいる事が酷く不思議だった。

 もしかすると、シルは言う。

私また発作に襲われたんでしょうか?

確かに、発作と取れない事も無いシルの自己防衛本能だった。

 


初詣、4

2017-01-17 15:55:53 | 日記

 ここで初子は夢子の様子や言葉の調子から、何かあったのだとピンと来た。

『もう、何も無いなんて嘘ついて。』

そう思うと、どうやら富士雄さんと分かれたらしいと気付く。

そう、初子は夢子と富士雄が付き合っていた事を知っていたのだった。

実際に彼女は2人を喫茶店で見かけた事もある。高校時代の友人から話のタネに聞いた事もあった。

そして、何より、富士雄さんの友人と初子はこの時お付き合いしていたのだ。その彼から2人の情報はよく入って来た。

さっき初子が富士雄の名を口にした時、夢子が顔を背けて無言だった事から今までの流れで、

彼女にも2人の別離は推察できた。

 鷹夫から、2人は何だか合わないらしいとは聞いていたけれど、そうなんだ、結局上手く行かなかったのか。

初子にとっても自身の彼との事を考えると、夢子達の仲が上手く行かなかった事はかなり残念だった。

その内ダブルデートしようかと彼が言っていたのに…。

彼女はつい苦い顔をしそうになった。

しかしこの時夢子が彼女の方へ顔を向けたので、慌てて真顔になり夢子と目が合った。

夢子の方も、初子が何やら含み笑いをしていたような気がして、ピンと来るものがあった。

 「そういえば初子、鷹夫さんとはどうなったの?」

えっ、初子はいきなり自分の方へ話題が転じたので驚いた。

 そうそう夢子に、昨年の夏に海でまた彼に会ったって言ってたわね、私。

初子は夢子に彼との再会の事を話してあったが、その後付き合っているという事までは話していなかった。

これは彼女が夢子にわざと隠していたからではない。

社会人になるとそうそう彼女達が会う機会が無かったせいだった。

事実、彼女が鷹夫との再開の話を夢子に電話で話してから、

10日程して後、彼の方から初子へ交際の申し込みがあったのだった。

 鷹夫の方は今県外にいて、2人は遠距離恋愛をしていた。

2人が友人にこの事を話さなければ、地元の友人達が2人の仲を知る由もなかった。 

この正月休みに会う約束はしてあったが、約束の日は明日3日の事だった。

明日になれば、案外2人を見かけたという友人知人も増えている事だろう。

初子はぼんやりとそんな事を考えていた。

そして彼女はふと我に返ると、そうねえと言葉を濁らせた。

 『そうねえ、如何したものかしら。』

彼女達の仲が壊れたと聞いて、傷心の彼女の手前、

私達も今付き合っている、そして案外仲良くやっていると言う、

有のままの事実を言うのが、初子には何だか気が引けて来る。

 それに、このままずーっと上手く行くとは限らない。

将来、夢子達のように私達2人の仲も壊れてしまうかもしれない。

そう思うと、ここで夢子に交際宣言するのも気が乗らない初子だった。

 『ここは暫く黙っていた方がよさそうね。』

初子は鷹夫との仲を夢子には暫く内緒にしておく事にした。

そうすると明日は、彼と何処で会えばよいだろうか、彼女はそんな事を考え始めた。