Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 133

2021-03-26 09:24:41 | 日記
 私は呆気にとられていたが、はっと気付くと畳の縁に歩み寄り、そこから身を乗り出す様にして戸の格子の隙間に指を掛けた。私は目を凝らし、身近な隙間から木戸越しに玄関を覗いてみる。そこは物音も無く静まり返っていた。玄関に去った筈の、そこには従兄弟の影も形も無かった。

 ふうん、私は思った。何だかやはり今日は不思議な日だ。今目の前を横切った従兄弟がもういない。玄関に物音も無かった様なのに。常とは違う、私の現在まで獲得してきた日常の状態とは違う、変な事ばかりが起きる日だ。私は首を傾げた。

 私が居間に目を戻し、元の場所に戻って来た時、私は突如気付いた。『あれ!、暖かい!?。』自分のいる部屋が、自分の周囲の空気が、この時期の普段の気温になっていたのだ。そうして、私は自身の体が何かから解放され、ふわりと緩んだ様に感じ、常日頃の様な平々凡々とした安らぎを覚えた。

 私は、思わず冷たかった方の片手を取り自身でその状態を探ってみる。先程に比べると冷たく無い様だ。試しにと、私はその異変のあった方の手の指を動かしてみる。と、気温は暖かいのに悴んだ様に指が動かない。私は一瞬緊張した。そんな馬鹿なと思う。冬じゃ無いのだ。氷の季節じゃ無いのだ。気温の高くなった今頃、あの雪の季節の様に指が凍える訳無いじゃないか、と思った。

今日の思い出を振り返ってみる

2021-03-26 08:50:25 | 日記


マルのじれんま 2

 「まぁ、この話は追々するとして、君は紫苑さんという地球人の男性の事が気に掛かっているんだろう?。」つるつるとした頭に手をやりながら、恥ずかしそうに頬など染めて、ドクター・マル......

    今日は良いお天気です。昨日は曇でも気温が高く、桜の開花が進んだそうです。
    昨日は買い物に出て、今日も外出予定です。留守の時の家が心配でもあります。今のところ、ご近所から何も話を聞いた事がないので、無事何も問題なかったのだろうと思っています。
    以前、小学校の友人から、その人がパートから帰ると、玄関駐車場の支柱が壊れていたという話を聞きました。車に衝突されたとか。その時は、友人のご近所の方達が犯人を押さえていて下さったのだそうです。恵まれた友人で幸せ者です。
    一方、こちらは旧市街、もし夜に音がしても、高齢所帯が多いせいか、無用心に思われるのか、ぼぼ誰も外に出てきません。案外と無用心な地域です。昼間はそんなこと有りませんように。            

うの華3 132

2021-03-25 09:36:40 | 日記
 彼は一瞬の内に、無言の儘、部屋を一飛びで飛び越す迄に大きく開脚するというその姿勢の儘で、顔だけを私の方に向けると開いた襖の空間、私の目に映る向こうの部屋の宙をさっとばかりに横切って行った。その瞬時、私と視線が合った彼の瞳は、何とも不思議な色を私の胸の内に残していった。

 それは、私にはさっぱり理解出来無い彼の眼差しだった、一体彼は何を考えていたのだろうか?。私にはさっぱり読めない彼の心情に思えた。

 階段の部屋の中央に来た時、彼の瞳はこの居間での私の存在に気付いた。直後、彼は確かに震撼し、彼の体全体がはっと驚きの色を呈した。が、それはそれと分かるか否かという瞬時の間に消え去った。そして平時に戻った彼は、その後も私の瞳から自分の瞳を外すという事をせず、私と目と目を合わせた儘飛び去ったのだ。その僅かな間、彼のその目は私と同じ高さで相対していたのだが、私には彼が私を上目遣いで見ている様にも感じられたのだ。

 嫌われているのか?、責められているのか?。私はこの一瞬にもその彼の瞳の呈する幾つかの色を読み取ろうと努力し、彼の心情を見詰め考えていた。が、それは普段の彼のそうした色では無い様子だ。少なくとも私にはそう思えた。こう私が物思う内に、彼は瞳の色をその儘にすると次の瞬間には彼の顔と彼の体は共に私の家の玄関へと移動し私の視界から消えていった。

 彼が去った後も私は考えていた。それは何時もの様な彼の常日頃私に対して向けられる視線とは少々色を違にしていた。彼の胸に一物という雰囲気の、折に触れ妬み疎まれているという様な、そういった類いの嫌悪感を含んだ面差しでは無かった様だ。と私は思った。それはこちらを探る様でいて、一種奇妙な憐憫の色を含んでいたのだ。

 この様な私にとって想像も付かない彼の面差しは、当時の私に何かしらの胸の引っ掛かりを覚えさせずにはおかなかった。それ程にこの時の彼の視線は私には奇妙な印象を与えた。


今日の思い出を振り返ってみる。

2021-03-25 09:27:12 | 日記

マルのじれんま

 故郷での休暇から帰り、健康診断を終えたミルにドクター・マル氏は言うのでした。「異常無しだよ。気分は如何だね?。」無論ミルは上々だと答えました。彼の明るく晴れやかな笑顔がそ......

 今日のお天気は曇り。パッとしない日になりそうです。こちらは昨日開花宣言が出たばかりなので、まだ花曇りという程には花が多く無い桜の木です。
 今日の作品も一昨年のSF。丁度物語の終了編です。こう通知メールでこの作品を多く見ると、もしかしたら昨年書いていたかしら?、どうかしら、と思います。

うの華3 131

2021-03-24 12:21:26 | 日記
 この様に、土間に続く木戸は家の内に在り、この家の要としての堅牢さと、この家の主人の嗜みや美的感覚という物を、暗黙の内に来訪者に告げていた。この戸は家の家財としても別格の物で、漆細工の逸品となっていた。

 そんな豪奢な我が家の引き違い戸だったが、開け閉め時にはガラガラと無骨でかなり耳障りな騒音を立てたものだ。それは商家というだけのみならず、この家という物自体においても、やはりこれが防犯上存在するのだという証だと言えた。

 ところで来客は、この戸から一歩入ると緊張した面持ちになり、瞬時躊躇して黒っぽい湿った土間に立つのだが、この家の主人、または先客に寄って招かれると、居間の畳の間へと上がる事が出来た。多分、現在この部屋が持つ掘り炬燵周辺は、かつてのこの家の冬の憩いの場、来客達の囲炉裏端の役割を果たしていたのだろう。高い天井の中空に鉄瓶や鍋など釣り下げる為の道具、その細く長い柄の名残が、黒く固まり硬く延び、傾きながら現在迄未だ確かに存在していた。

 私はこの土間への玄関側の降り口と、掘り炬燵の手前にある位置、その畳の上にぽつんと立っていた。相変わらず私は腕をさすっていた。が、不意と何気無く腕を回してみた。すると、腕の外側でぽきん!、と小さな軽い音がした。その時局所的な痛みもチクリと走った。私は、これは怪我をしたのだと感じた。そこで痛みのあった部分を探るべく、自分の神経を音のした方の腕に集中した。また私は、その痛みや音のしたらしい部分を反対の手の指で弄ってみた。

 如何やら、今は痛みを感じない様子だ。では、と、私は実際に目で以ってその部分を覗き込む様にして確かめてみる。…本当に何とも無さそうだ、と思う。腕には血の出ている様子も無かった。何だったんだろう?、と、暫し考えてみた。が、これは私には初めての経験であり、何が有ったのかは全く理解不能な現状となった。きょとんとして、私は腕を弄る手を止めた。

 次の瞬間、

「早く呼んで来なさい!。」

廊下で、誰かの金切声に近い大声が響いた。それが祖母かどうか、私には判然としなかった。私はハッとして頭を上げると、反射的に自分の視線を腕から前面に移した。私はその儘の姿勢で耳にだけ神経を集中してみた。私はこの時丁度廊下から横を向いていたのだ。その為耳にだけ注意を向けていればよかった。

 するとその直後、私の真っ直ぐに延ばした視線の先、隣の階段の部屋の空間に、部屋を横切る影が差した事に私は気付いた。その影は有色となり、色は衣類の物と識別すると、私はそれが人だと判断する事が出来た。そうして次の瞬間、私はその人物とはっしとばかりに視線が合った。途端、あれっ?と私は思った。その人物は三郎伯父の家の長男、私の従兄弟だったのだ。