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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

振ってこそ命

2025-04-06 21:00:00 | ナノノベル
 あいつが振れば俺も振る。あいつが振らなければ、勿論俺の方が振るまでだ。棒銀でも穴熊でも左美濃でもミレニアムでも、何だって俺は振ると決めている。鬼殺しでも、筋違い角でも躊躇わない。条件に左右されるようでは本物のアーティストにはなれないし、例外を作る暇があるなら美濃囲いを築きたいと思う。銀冠の小部屋を用意して敵玉を寄せきるビジョンを描いていきたい。俺はこの四間飛車道場できっと成り上がってみせる。
 雨の日も、嵐の日も、お祭りの日も、マラソンの日も、花火の日も、どんな日も俺は動じない。世間の浮き沈みに惑わされることなく、俺は常にノーマルな四間飛車の姿勢を貫くと決めていた。(四間飛車のない人生に意味などない)きっとあいつだって同じハートを持っているに違いない。

 約束を2時間過ぎて、あいつはまだ道場に現れない。
 俺は封じられたスマホを開いて電源を入れる。いつまでも待ちの姿勢で居続けることはできない。3コールをすぎてようやくつながる。あいつがまだここに存在しないことの証明だ。俺はすっかり切れそうだった。


「お前何やってんだ!?」

 あいつは何も言い訳しなかった。
 そればかりか俺が道場にいることが疑問だとでも言いたげだった。あいつときたら将棋のことなんてすっかり忘れ、家族総出で火星人の襲来に備えて避難する準備をしているのだった。

 そして、あいつは俺に言い放った。
「それどころじゃないよ!」

それ………………………………………………………

 怒る力も萎んでいく。
 それはすべての終局を意味していた。
 盤上の宇宙などすっかり敗れ去ったのだ。


「ああ、そうか……」

 それの指す四間飛車と共に俺は駒を投じた。

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今日いち-2025年4月4日

2025-04-04 17:24:40 | 一期一会
コツコツ続けてるのね
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旅人の道

2025-03-29 21:14:00 | 短い話、短い歌
 本当のゴールはどこかわからない。目的地は小刻みに設定されていた。「おいで」ここまでおいで。曲がり角が旅人を吸い寄せる。もう少し行ってみようか。数時間歩いて体力は限界に近づいていた。疲れに打ち勝つのは強い好奇心だった。歩いているという自覚もなく旅人は歩いた。天から伸びた糸に操られているようでもあった。角まで来ると視界がパッと開けた。似ているような今までとはすべて違うような……。「おいで」ずっと先の見えないところから、また新しいささやきが聞こえる。(未知が好きだった)旅人はまだ歩みを止められない。


改行が彼方へ送るミステリー
一行先は白鷺の国

(折句「鏡石」短歌)

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家族電話

2025-03-24 20:20:00 | 眠れない夜に
 睡魔へ接続される道を歩いている内に迷ってしまった。道は激しく渦巻きながら、知恵をたずねているようだった。鍵は街の風の中にありげだった。手を貸してくれたのは行くあてのない猫、猫が猫を呼んでまた猫を呼んだ。雪だるま式に厄介なことになって、20グラムだった知恵の輪は、1キロを超えた。彼らは助ける振りをしながら、適当な輪を足していったのだ。鍵のレスキューに頼ると特急料は2万にもなるという。その時、僕が惹かれていたのは、むしろ石焼き芋の節の方だった。猫のおせっかいを振り切ると、繰り返されるしゃがれ声の方に近づいていった。

「熱いよ」

 鍋づかみはあるかとおじいさんは言いながら、石の中に潜ったきり見えなくなった。運転席の電話が鳴る。どういうわけか僕の家族からだった。皆で一人暮らしの心配をしている様子だ。

「風呂はあるか」
 あると言うと父は大層感心したみたいだ。そして次の話し手へ渡る。

「心配事はないか」
 何もないと母にうそをついた。

「ケトルはある?」
 姉のどうでもいい問いには答える気もしない。

「危ない物は持ってないか?」
 容疑者を匿ってはいないかと立て続けに聞くのは警官のようだった。勿論、答える義務なんてない。

「煙草はあるか? 火はあるか? 金はあるか?」
 兄が根ほり葉ほりと聞いた。僕が黙り込むと兄はバトンを投げた。

「夢はあるか?」

「えっ?」

 僕は聞こえない振りをした。やっぱりばあちゃんが一番まともで手強い。

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気まぐれ全集のち猫のターン

2025-03-19 19:31:00 | 短い話、短い歌
 おじいさんが本を閉じるとドーンと大きな音が鳴って、猫が反転した。母は小松菜を切っていた手を止めた。トラックの真ん中でアスリートは足を止めた。役者はお芝居を止めて台詞を呑み込んだ。芸人はボケを止めて固まった。陣が割れて戦は止まった。すべてが中断し、一貫性が失われる。
 世の中の動きに構わず、おじいさんは本を読んでいた。しばらくすると気まぐれに本を閉じた。

(ドーン!)

 おじいさんが集中しないから、世界が返る。
 母はピアノを弾いている
 陸上選手は水をかいて泳いでいる
 役者は本格的に厨房に入った
 芸人は小説を書いている
 ある者は敵に寝返って戦争は終わった 
 1つの仕草で世界を変えてしまう、おじいさんの本ときたら、なんて重いの!

 猫は反転した
 今にこっちに向かってくる


かみさまのカートがかけた三日月の
一夜にかかる書のギアチェンジ

(折句「鏡石」短歌)

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桃船長の贈り物

2025-03-10 05:08:00 | 桃太郎諸説
 昔々、案外なところにおじいさんとおばあさんがいました。こんなところにはおられんわい。そう言っておじいさんは山に芝刈りに行きました。何かと理由をつけては芝刈りに行くおじいさんでした。ずっと二人ではいられないわね。おばあさんはそう言って川に洗濯に行きました。それは尤もな理由でした。
 川に着いてからおばあさんは、大事なものを忘れてきたことに気がつきました。今この瞬間に、世界で一番大事なものと言えるのは何か。それは洗濯板でした! いったいこの世界で洗濯板以上に大事なものと言えるものがあったでしょうか。(今という時間に限って言えば)

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 その時でした。上流から洗濯板に桃が乗ってやってきたのです。
「これは幸いだ!」
 おばあさんは、心の底から天に感謝しました。桃船長を脇に置いて休ませると、おばあさんは洗濯板を手に取って早速洗濯に励みました。もしもこのような僥倖に恵まれなければ、家にまで戻らなければならなかったでしょう。
「ちょっと待っててね」
 おばあさんはささやくように言いました。桃船長は大人しくおばあさんの仕事を見守っていました。
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明るい芝刈りスクール

2025-02-23 21:35:00 | リトル・メルヘン
 昔々、あるところにおじいさんがいました。おじいさんはやたらと山に芝刈りに行きました。暇さえあれば芝刈りに行くのでぐんぐんと芝刈りが上達して、気がつくと芝刈り達人になっていました。

「また来たか」
 ある日のこと、犬はおじいさんを見つけて駆け寄りました。
「どうか弟子にしてください!」
「よかろう!」
 そうしておじいさんの教育が始まりました。
「馬鹿もんが! 芝はこっちじゃ!」
「わん!」
「それじゃ100年かかるわい」
 おじいさんは慣れない教育に手こずりながらも、どこかうれしげでした。
「わん!」
「よし、その調子!」
 そうしてよい子だった褒美にタコボールを与えました。

 ある日のこと、今度は猿がおじいさんに寄ってきました。
「どうか弟子にしてください!」
「よかろう!」
 おじいさんはまた快く迎え入れました。
「馬鹿もん! 芝はこっちじゃ!」
「ひー」
「わしに恨みでもあるのか!」
 素人に教育するのも楽ではありません。
「ひー」
「よし、その調子!」
 よい子だった褒美にタコボールを与えました。

 ある日のこと、キジと人間の子が寄ってきました。
「どうか弟子にしてください!」
「よかろう!」
 おじいさんは、すっかり教育者の顔になっていました。
「馬鹿もん! 芝はこっちじゃ!」
「はい!」
 おじいさんの厳しく情熱的な指導が続きました。
「わしを殺す気か!」
「しゅー、しゅー」
「こうやって刈るんじゃ!」
「早くご褒美をください!」
「しゅー、しゅー」
 報酬がなければ頑張れるものも頑張れないという様子です。
「よし、その調子!」
 おじいさんは勉強熱心な弟子たちを称えました。そして、よい子だった褒美にタコボールを与えました。

「この山の未来は明るそうじゃ」
 おじいさんは手応えを感じて微笑みました。そうしてどんぶらこどんぶらこと小舟に乗って家に帰って行きました。
 めでたしめでたし。
 

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バランスの崩れた夜

2025-02-21 23:12:00 | 眠れない夜に
 空腹のあまり眠れずに僕は家を飛び出した。開いているのはもはやうどん屋だけだったが、うどん職人が不在のために食べられるのはカレーだけだった。カレーは一瞬で食べた。食後のコーヒーのためにコンビニに立ち寄ったが、運悪くメンテナンス中だった。マシンの上にパンダが乗ってアイスクリームを食べている。自分の家がわからなくなったので外泊することにした。宿ではチェックイン待ちの列ができていた。もう真夜中だ。スタッフの多くは交通違反で捕まって厳しい人手不足だという。僕は勝手に採用が決まり、フロントでしばらく働くことになるという。眠れない夜がまだ続きそうだった。

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つじつま合わせのよっちゃん

2025-02-19 00:30:00 | リトル・メルヘン
 昔々、あるところにつじつまを合わせるのが上手な若者がいました。人々は彼のことを、つじつま合わせのよっちゃんと呼んで、頼りにしました。
 ある日、街で難事件が発生してたちまち大混乱に。どんな名探偵も手に負えないという事件でした。手がかりは1つとしてみつからないのに、容疑者ばかりが多すぎるのです。そこによっちゃんが駆けつけると、ぴたりとつじつまが合いました。

「さすがはよっちゃんだね!」

「よっちゃんが来た途端につじつまが合うんだから」

「よっちゃんがいてくれてよかった」

 よっちゃんにしてみれば、そんなことは朝飯前でした。
 ある日、街で大喧嘩があった時のことです。どんな力自慢の男がいたとしても、まるで喧嘩を止めることができません。発端がわかってないことに加え、あまりに声が大きすぎて近寄ることも困難だったのです。そこによっちゃんが駆けつけると、ぴたりとつじつまが合いました。

「やっぱりよっちゃんは違うね!」

「簡単につじつまが合うなんてね!」

「よっちゃんありがとうね!」

 よっちゃんにしてみれば、ただ普通のことをしただけです。
 ある日、街で山火事があった時のことです。街の消防団だけでは手に負えず、隣の街、隣の隣の街から次々と応援が呼ばれました。けれども、三日三晩経ったあとも、まるで火の勢いは衰えることがありませんでした。そこによっちゃんが駆けつけると、風向きが変わってぴたりとつじつまが合いました。

「よーっ! 待ってました!」

「さすがは千両役者!」

「あなたの貢献を称えます」

 ある日、街に大きな熊が出た時のことです。熊は大きな口を開けて不満を訴えていました。この野郎英語がしゃべれるのか? フランス語もしゃべってるぞ! 人々は熊の言うことが理解できず、押すことも引くこともできずおろおろとしていました。そこによっちゃんが駆けつけると、熊は訴えを取り下げぴたりとつじつまが合いました。

「またしてもよっちゃんだ!」

「よっちゃんにかなうものなしだ!」

「よっちゃんおつかれ!」

 よっちゃんは、人々のために自分の才能を使うことを、少しも惜しみませんでした。そんなよっちゃんも、忙しい日々の中で、旅をして、友を作り、人並みに恋をすると、天国まで手を取り合って生きていく約束をかわしました。
 結婚式の日、大きな会場にはよっちゃんを慕う大勢の街の人々が集まっていました。けれども、いつまで待ってもよっちゃんは現れません。そして、とうとう会場が閉鎖する時刻が近づいてきました。

「ちくしょーっ!」

「どうしてなんだ? よっちゃん……」

「他人のつじつまばかり合わせやがって自分はほったらかしかい」

 人々は待たされすぎて取り乱していました。よっちゃんの不在に乗じて心ないことを言う者もいました。あきらめかけた人が席を離れようとしたその時でした。巨大なスクリーンによっちゃんの顔が映し出されました。

「みなさんこんにちは!」
 人々は驚いてよっちゃんの言葉に耳を傾けます。

「これはあなたのみている夢です」

「えっ? 何?」

「どういうこと?」

 突然の告白を、誰も容易に受け入れることはできません。つじつまにしがみつきたい人は、画面の前で固まってしまいました。

「私は独り独りの夢の中にいます!」

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今日いち-2025年2月16日

2025-02-16 21:50:46 | 一期一会
今から懐かしいの歌っちゃうよ
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道の明かり

2025-02-15 21:24:00 | リトル・メルヘン
 昔々、あるところに道を行く若者がいました。若者は来る日も来る日も道を探して歩き続けていました。
 ある日のこと、若者は歩いている道の途中でふと立ち止まり思いました。

「この道はいつか誰かが来た道では?」

 歩き始めた朝には感じられなかった思いが、若者の足を重くしてしまいます。もっと別の道がなかったのか。初めの一歩を間違えたのではないか。様々な疑念が渦巻くともう真っ直ぐな目で道を見つめることもできませんでした。明日は新しい道を行こう。若者は自分に言い聞かせます。
 ある日のこと、若者は歩いてきた道の途中でまた立ち止まり思うのでした。

「この道はいつか誰かが来た道じゃない?」

 またいつかの思いが道の前に立ち上がりました。それは若者に前進することの意義をたずね苦しめます。本当の自分の道はどこかにあるのだろうか。(ないとは死んでも思いたくない)若者の歩く道にはいつでも困難な問題が待ち受けているようでした。
 ある日もある日もある日も夜が明けると道には若者の歩く姿があったものです。順調な道はなく、目的地など一切見つかりませんでした。時に新しく思えた道も紆余曲折を経る内にだんだんと怪しくなっていくのでした。やっぱりそうだ。ためらい、狼狽え、取り乱しては足踏みをして、迷っては引き返す。ただ道を行くというだけで、おかしなほど時間ばかりがすぎていくのでした。

「我が道はどこにあるのか?」

 謎めいた若者の道に月の明かりが真っ直ぐ伸びていました。

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小さな裏切り

2025-02-13 23:35:00 | 短い話、短い歌
海苔としては最高級
君の旨さはよく知っている
随分高値になったけれど
たまにはいいさ

ああ なんてことだ!
君って前より縮んでるじゃないか!
流石に気づくよ
(きっと5、6ミリ小さくなってる)

値上がりしたのは
わかった上で手に取ったの

だけどこっちは……
どういうこと?



安定と権利の上を床にして
裏金を得るふしだら先生
(折句/短歌 揚げ豆腐)

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最後の一口

2025-02-12 21:17:00 | ちゃぶ台をひっくり返す
 最後の一口を楽しみにしていた。それは希望そのものだった。つまりは力の源ということだ。おじいさんはお椀に顔を寄せた。そして、豚汁の中に残った最後の一切れの豚肉を、箸でつまんだ。その瞬間、おじいさんは受け入れ難い現実に直面した。そうだ。すべてはおじいさんの夢だった。耐え難い裏切りにおじいさんは我を忘れてしまうほどだった。

「こりゃ玉葱じゃないかーい!」

 叫びながらおじいさんはちゃぶ台をひっくり返した。希望が大きかっただけに、自らをコントロールできなくなっていたのだ。何事かと周囲の人々がかけつけた。それ以来、おじいさんは大層危険だとされ、国家機関の厳しい監視の目が向けられることになった。

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惑星観察

2025-02-10 22:55:00 | 短い話、短い歌
 我々は宇宙の片隅で一つの惑星を発見した。求めていたのは水と光があること。そして、知的生命が存在することだ。幸いそこは水の惑星と呼べるほどに青かったし、光るものも認められた。残る一つは……。
 我々は彼らに気づかれないように細心の注意を払いつつ、近くのテーブルに着いた。彼らの食事を観察するためだ。

「あれは何?」
「曲がっているぞ」
「頭か?」
「尾か?」
「脱いだ」
「引き裂くぞ!」

「生死不明…生死不明」

「動いたぞ!」
「口に入れた!」
「エイリアンの食事だ!」
 我々は身震いしながら恐ろしく奇怪な光景を見つめていた。
 向き合っているが、食べる以外はとても静かだった。
 どうやら彼らの間に言葉は存在しないようだ。

「恐ろしい惑星よ!」
「友好診断…ダーク、友好診断…ダーク」
「推奨…回避、緊急、緊急、緊急……」
「隊長! この星は危険です」


海老を剥く各々が悪魔のように
一心不乱赤いテーブル

(折句「エオマイア」短歌)
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ネズミの商店街

2025-02-09 21:20:00 | 眠れない夜に
 うとうとしかけると決まってネズミが出た。尻尾をつかもとすると手をすりぬけてしまう。もう許せない。頼りの猫はいない。ネズミを追って夜の街に出た。信号を無視して急行するパトカーが追っているのは、どんな凶悪犯だろう。ネズミは足跡を残しながら夜を通過する。商店街。自転車屋さん、花屋さん、パン屋さん、寿司屋さん。それぞれ深夜営業には求められる価値があるから。ネズミは寄り道もせずに寿司屋さんに駆け込んだ。
「ネズミを追って来ました」
「こんな顔ですかい?」
 振り返った男は、ネズミそのものだった。
「そいつはこんな顔でしたかい?」
 どいつもこいつもこういうことか。常連客を取り仕切っているのは、もはやネズミそのものなのだ。まな板の上に輝くあれは? 何でもいい。それより包丁を持つあれの方が問題だろう。
「お客さん、枕はいるかい?」
 ああ、ここはもうやばそうだ。


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