眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

チェックアウト・ペンシル

2022-01-13 02:32:00 | 短い話、短い歌
 誰かをどこかへつれていくためには、自分から動き出さなければならない。そう思って自宅を出てから随分と時が経った。本当のところはよくわからない。ここに流れる時間は以前の時間とは何か違うのだ。私はずっとここにいる。それでいてずっと遠くへ運ばれていくのだ。「誰だ?」私を持って行くのは……。この指か、それとも他の……。おかしい。黒く滲むものが何も見られない。インクはとっくに切れているのかもしれない。才能も物語も何も出ていないのかもしれない。だけど私はプロなんだ。止められない。今止まったら、二度と動き出せない。「お客さま、お客さまー……」


かすれても
書き止まらない
民宿の
一夜を泳ぐ
焦燥の筆

(折句「鏡石」短歌)

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闇のヒロイン

2021-09-15 01:01:00 | 短い話、短い歌
 目立ちたくはなかった。一番望むのは木だった。それなら立っているだけでいい。寄りかかられても、話しかけられても、ただ放っておけばいいだけ。「消えているのは得意だった」叶わなければ村人Aがいい。台詞は一つ。「わー。話しかけないで」
 だけど、謎の勢力が私を目立たせようと動いているようだった。自分から最もかけ離れたところへと私は運ばれていった。もう、消えていることは許されない。分厚い台本のすべてはまるで私のために作られているようだ。私はこれから大きな光をあびて闇を放たなければならない。


AIの
脅しに屈し
魔女となる
一夜は長く
明けてヒロイン

(折句「エオマイア」短歌)

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来賓宇宙人

2021-07-24 10:33:00 | 短い話、短い歌
 段落が変わると詩は小説になり日記は手紙になる。つながっているようでつながっていない。形が変わると心も変わる。段落を避けて進むことはできない。私は僕になり、母は猫になり、先生はささくれになり、僕は夕日になり、海は小川になり、雲は消しゴムになり、言葉は波線になり、段落毎に落ちていく。わからない、わからない、わからない……。(変化を望まないものはいないのだろうか)希望は夢になり、うそは朝になり。何がどうなるかわからないのに。このまま行けることはない。あの段落は、また新しくできた国境のようだ。根は街になり、息は虹になり……。


かかわりの改行済んで見ず知らず
今となってはシーラカンスだ

(折句「鏡石」短歌)

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モデル・チェンジ

2021-07-15 04:16:00 | 短い話、短い歌
 行きつけの店に任せれば75点から80点の出来が約束されている。何の不満もないはずだった。

(もっと突き抜けたい)

 季節の変わり目に湧き出てくる冒険心を抑えきることは難しい。私は新しい扉を探して歩き始める。未知のドアノブに触れる瞬間、私の手は微かに震えている。ドアの向こうには、自分のことを何も知らない人たち。でも、もう後戻りはできない。

「今日はどのように……」
 彼はゼロから私を創ろうとしている。
「トップに5Gを飛ばして、サイドにブルートゥースを飛ばして、全体をベッカム調に」 

「ちょっと、ちょっとお待ちを」
 美容師は慌てた様子で駆けて行った。

「もしもし、初めてのお客様で……、ちょっとこちらでは……、先生の方でみてもらっても……」
 電話を終えて帰ってくるとどうやら別の席に案内されるようだ。

「お客様、申し訳ありません。ちょっと別館の方へ」
「別館?」
「はい。こちらから出て壁沿いに行くと屋上へ続く階段がございまして……」
 指示された通りに屋上へ行った。ドアは開いていた。

「ああ、先ほどの」
「お願いします」
 部屋の中にはベレー帽の男が一人、他に従業員の姿は見当たらなかった。
「では、こちらにイメージを描いてみてください」
 男は色鉛筆とスケッチブックを渡し言った。奇妙なシステムに戸惑いながら、私は色鉛筆を走らせた。どう努力しても、人の顔にならない。長い間、人間を描いたことがなかったのだ。

「どれどれ、ほー、これは空ですか?」
 男は頷きながら続きを描くように言った。
 部屋の中には鏡一つ見当たらず、絵の具の匂いが満ちていた。
(先生?)
 美容師が電話で言っていた言葉を思い出して、私は少しだけ不安になった。




こめかみにBluetoothを走らせてハートをつかむ夏のカリスマ

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狐の湯、竜の背

2021-07-10 20:28:00 | 短い話、短い歌
 一番風呂を頂こうとすると先に狐が入っていた。

「どこから入った?」
「遅かったな」
「勝手に入ったな!」

「自分が一番と思ったのだろう」
「そうだ」
「他にライバルはいないと思ったか。わしのようなものは完全にノーマークだったのだろう。思い上がりだな」

 確かに狐の言う通り、そうした部分もあっただろう。反省の意味も込めながら、私は狐の背を流した。

「将棋はどうじゃ、強くなったか?」
「えっ?」

「相変わらず三間飛車か。振り飛車は苦労が多かろうに」

「お、おじいさん?」
「相変わらず鈍いのー」

 見覚えのある竜が、背中で微笑んだ。



評価値は-200振り出した三間飛車はメルヘン・ライク
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猫とナポリタン

2021-07-09 21:19:00 | 短い話、短い歌
 白を基調とした店内に流れるのは古びたJポップ。鉄板の上のナポリタンに思い切りタバスコを振りかけると何だかいい気分だ。半分くらい食べてさらに粉チーズをふりかけた時、穴から虫のミイラが飛び出して鉄板の上に降りた。フォークでちょんちょんとつつくとミイラが復活した。

「ちょっとマスター!」

「また出たかー!」

 駆けてきたマスターはすっかり猫になっていた。ミイラを追って飛び出していく猫を、僕も追いかけた。いくら味がよくてもこんな管理では駄目だと言ってやらないと。
 猫についてよじ登った屋根の上は鍵盤になっていた。猫の歩みに着想を得て作曲を試みる。流行のジャズにフィッシャーのスピードを取り入れてガチャガチャしたような音楽性にしよう。理想のキーを探している間に猫はいなくなっていた。1つ冴えた感じのができそうになった頃、鴉が降りてきてジョイントしようと言ったが、初心者であることを理由に断った。


即興は猫に習った足取りで弾むpomeraの上のメルヘン

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霊のお使い

2021-07-08 10:42:00 | 短い話、短い歌
「おやめ!」

 争いはやめなよ。罵り合うって大人げない。もっと言えば人間的じゃない。だったら共存するなんてできないの。もう出てお行き! 月にでも火星にでもお行きなさい。できないって? 罵る時だけ威勢がよくて、謝るときには元気がないじゃないか。

「お取りよ!」

 今2つ取るなら普段1つ取るよりもお得ときたもんなんだよ。だったら取らなきゃ損だろうがい。あんた何を暢気におとぼけてんだい。凹んでる暇があったらお取りったらお取り! だけどお下がり! お取りの方は他にもたくさんおいでなすってんだよ。おわかりかいこの世間知らずのお坊ちゃんが。お下がりったらお下がり!

 もうよくわからないや。この人ずっと怒ってるのかな。何の落ち度があったと言うか。
 頼りになる持ち物を探していたけど、それが何であったのか思い出せない。大事なのはそれ自身よりもそれに携わった人の魂、あるいはそれに刻まれた言葉の方かもしれない。
 詩の終わりを伝えるのに、ある人はベルを鳴らした。またある人は3日置いた。僕はどうしたらよかっただろう。完とつけてみたものの、どうせすぐに始まって、それは世界を欺くも同然だった。そうか、その手があったんだ。だけど、知った瞬間、もう手を放れていった。

「お高くおとまりだよ」

 時空の隙間に挟まったペンを救出するには猫の助けも必要だけど、日当50万そこらでも動きやしない。腐るほどぼったくらせてやってるのに、これじゃ全く埒が明かないや。こうなったら特等席にでも招いて極上のゲームを見せながらミルクでも振る舞いましょうか。ああ、だけど自分だけの力じゃね。

「お困りかい?」

 アイデアが尽きたらおやすみよ。少し休んで英気を養うようにするといい。おおよそのことはそれで上手くいくんだから。お前さんおやすみよ。おっかない夢なんか見るんじゃないよ。やさしいものに包まれてお調子者になりなさい。おっ始めるのはそれからのこと。ゆっくりとお大事に。そうそう、今度はお薬手帳も持っておいでね。

(おしまい)




お取り寄せグルメに紛れ旅をするひんやり君は夏の幽霊

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第14話(緩やかな相棒)

2021-07-05 19:43:00 | 短い話、短い歌
 海外の連ドラをずっと見ていた。
 14話目に入っても、登場人物が覚えられない。筋書きが全く入ってこない。本当に14回も見ているのだろうか。ほとんどの時間は眠っていたのかもしれない。(眠る気でない時ほど僕はよく眠ってしまう)

「まだみてるか?」
 話の切れ目で時々疑ってくる。
「はい」
 適当に指で返す。
「日々は続く」
 と主人公が豪語する。

 誰この人?



日々淡く分断されて千年もつきあいながら他人の二人
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桂ちゃん/消しゴム

2021-07-03 21:21:00 | 短い話、短い歌
「桂ちゃん、すぐに助けに行くよ」
「みんな、僕に構わず中央を目指して!」

「桂ちゃん、どうしてそんなこと言うの?」
「自分の役目くらいわかってるさ」
「桂ちゃん」

「敵将は桂先の銀を選ばなかった。壁銀にして引っ込んだとこで僕の運命とこのゲームのモードが決まったんだ。僕が消えるまで、僅かだけれど確実に存在する時間に、みんなはできることをすべきだよ」

「どうにもならないの?」
「最初からわかってたんだ」
「桂ちゃん、何が?」

「僕ね、本当はただの消しゴムなの。だから……」

「いいえ、桂ちゃんは桂ちゃんだよ」
「ありがとう! さあ、早く、向こうの歩が伸びてくる」

「桂ちゃん、忘れないよ!」
「僕も……」

「さあ、みんな行くぞ!」

(私たちもすぐに行くからね)



殺し屋のタグが弾けて泣いていたみんなが主人公はうそなの

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フライング・シャツ

2021-07-01 03:33:00 | 短い話、短い歌
 落ちることによって存在を知らせるように滑り落ちる。その度にシャツを椅子にかけ直した。何度も何度も。見ている間はシャツは大人しくそこにいる。けれども、目を離してしまうといつの間にか落ちている。ここにいたくないのか、それとも誰かに着てほしいのか。

 もう好きにしな。

 突き放した瞬間、シャツは大地を離れて行った。あっという間に手の届かない距離まで達すると、自分の小ささに改めて気づいた。

「待ってくれ!」

 ポケットに部屋の鍵があるのを忘れていた。引き留めたのはそれだけのためだ。声はもう届かないかもしれない。早まってしまった自分を責めながら、離れていく様を見送っていた。

 ビルの十階ほどにあったシャツが風を呑んで膨らんだ。そのすぐ側を鴉が横切った。漂いながら少しだけ停滞したシャツから、ゆっくりと光が落ちてくる。

 ありがとう、さようなら
 主のもとへかえりな




流行に周回遅れよれて愛着へと変わる君の夏服

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きっと私じゃない

2021-06-29 10:55:00 | 短い話、短い歌
過度な期待は重たい
過大な評価は息苦しい

「せっかくですが……」

「十大だったら考え直していただけますか」

「いいえ、それでもやっぱり」

(日本五大ロッカーにあなたの名を)

 それは寝耳に水の話だった。他にもっと相応しい方がいくらでもいらっしゃる。私などまだ駆け出したばかり。少し目立ったくらいで勘違いすると酷い目にあう。いったい誰が私で納得するだろうか。私は次回作で壊れるかもしれない。壊れなければ開かれない風景もあるとするなら、輝かしい冠は足枷にもなる。今だけの名声が一生の財産に変わるとしても、私にはむしろ自由の方が必要だ。名もなきロッカーの魂を持ち、私はずっと燃えていたい。

「断ったんだって?」

「当然です」

「あなたにこの国は狭すぎるようね」

「そんなんじゃないですよ」

「いいえ、きっとその方がいいわ」


注目のホットチャートを抜け出して君が炙った五目チャーハン

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マッチング・エラー

2021-06-28 21:19:00 | 短い話、短い歌
 あなたは頑なにちがうと言う。IDもパスワードも合っているのだ。一字一句誤っていない。わざわざ真っ赤になりながら「ちがいます」と告げてくる。まちがっているのは、あなたの方だ!
 今日は歌の約束があるのに。ずっと門前払いされ続けている、これは何かの罰なのだろうか。きっと扉の向こうでは待ちくたびれて……。

「あの人今日は来ないな」
(確か約束してたけどな)

 何かあるのかな。きっと色々あるのだろう。
 人には色々あるものなんだから……。


指先で僕を認めて引き入れた歌の世界は人影疎ら

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今日の口

2021-06-27 10:38:00 | 短い話、短い歌
 昨日はチャーハンを買いに行った。一昨日チャーハンが食べたかったことを覚えていたからだ。
 今夜はコンソメスープが飲みたくなった。こういう時は家にポタージュスープしかないのだ。味噌汁の類は鬼のようにあるのに、コンソメスープは1つもない。突然、恋しくなるから困るね。


予告なく湧き出してくる恋しさが君の不在を知って広がる

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国道レース

2021-06-24 08:19:00 | 短い話、短い歌
 思うままに野原を駆け回っていた頃は、怖いものなんてなかった。いつでも自然を友とし、風を味方につけていたのだ。結ばれる手はあっても、自分に牙を剥くようなものは存在しなかった。恵まれた環境に気づくこともなく、時がすぎた。初めて都会に出てわかったことは、友を見つけることの難しさだった。気づいた時には、激しい競争の渦に巻き込まれていた。

「お兄さん後ろ」
 馬上の僕を見上げながら店の人が言った。
「えっ?」

「矢が刺さってますよ」

 またか。さっきから何者かに追われているような気がしたのだ。しかし、分厚いリュックが我が身を守ってくれた。

「ありがとうございます」

 番号を伝えてたこ焼きを受け取った。熱い内に届けることが、現在の僕の仕事だ。危険が多くても今は前に進む以外にない。僕らは人馬一体となって国道に躍り出た。




突き刺さる背中の痛み保証なき馬主となって我が道を行く

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捨てる男 ~ミスタッチ・ブルース

2021-06-24 03:29:00 | 短い話、短い歌
「せっかくですけど」
 そう言って機会をドブに投げ捨てる。

 好意は素直に受け取らない。物心ついた頃から、ずっと曲がった信念に支配されてきた。また次がある、まだ大丈夫。どんなチャンスも余裕でドブに捨て続けた。慣れてしまえば、後先を考えて思い悩んだりするよりよほど楽だ。気づいた時には、自分自身ドブの中を歩いていた。これが今まで僕がしてきたことか……。
 足取りは重く、抜け出す術は見当たらない。もしもあの時、あいつのくれた助言を軽く拾っていれば、僕の周りはもっと多くの声で賑わっていたのかもしれない。今はただそこら中にくすぶっている未練の切れ端を拾い上げて、小さな歌にしてみるのがやっとだった。それでは聴いてください。



『ミスタッチ・ブルース』 


粉末のスープを捨てて冷やし麺


サービスのわさびを捨てて本わさび


情熱はレシート風に飛んでいく


延々とケトルの下の入門書


開封後一口食べて期限切れ


100億の読みを切り捨て第一感


どフリーでふかすシュートは雲の上


恋文を捨ててプライド・キープ・ナウ


ゆで汁を捨ててパスタはまだ硬い


冷房に震えて被る冬布団


結末を一行残し半世紀


1グラム余して捨てるプロテイン


ミスタッチばかりで凹む90分


期限切れクーポンだけを持っている


ランニング帰りに一丁みそラーメン

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