身近なスタッフを見つけて話しかける。好印象を与えることが最初のステップだ。スタッフというものは、だいたいそれらしい格好をしている。正しく観察すれば、見つけることは難しくない。
「あっ、スタッフさんですか?」
「何か?」
よいスタッフというのは反応がスマートだ。今日は幸先がよい。
「ご苦労様です。ちょっとお話書いたんで、よかったらみなさんにも紹介していただけますか」
「ほー、お話ですか。それは猫の写真とかはあったりします?」
「いいえ、文字だけです」
「そうですか。それでは今度機会がありましたら……」
「ありがとうございます!」
気に入ってっもらえるかはわからない。とにかく今は一人でも多くのスタッフに当たることだ。スタッフを見つけては積極的に声をかけ続ける。それだけが私の小説作法だ。現在のところ他に手段は全くない。
「すみません、スタッフさんですか?」
「どうされました?」
「ご苦労様です。新しい小話ができたんで、もしよかったらみなさんにも紹介していただけるとうれしいのですが」
「小話ですか。それは猫の写真とかも出てきますか?」
「いいえ、文字だけです」
「そうですか、わかりました。機会がありましたら是非とも……」
「ありがとうございます!」
猫を探しているスタッフが多いことはわかっている。私だって猫は好きだが、私の家に猫はいない。妄想の中で猫と戯れることはできるが、それを表現するのは文字でしかない。どこまで伝わるだろうか不安は多い。
「あっ、スタッフさんですよね」
「いかにもそうですが」
中には少し横柄な感じのスタッフもいるが、選んでなどいられない。
「ご苦労様です。あのポメラのエッセイがあるんですけど、よかったらみなさんに紹介とかしていただけます?」
「何? わんちゃんですか」
「いいえ、その、キングジムのpomeraなんですけど……」
「えーっ、文字しか出てこないの」
「はい。文字だけです」
「ふーん。(文字ばっかりかいや)まあ一応お預かりしときますね。それじゃあ、仕事がありますんで……」
「ありがとうございます!」
ああ、これは望み薄だな。悲観している暇があったら次のスタッフを探す方が、まだ発展的だろう。過去ばかりを振り返るよりも、小説というのは先へ進むべきではないか。私にとっての未来、それはスタッフを探すこと。
「すみません。スタッフさんですか?」
「いいえ違いますけど……」
「すみません。間違えました」
ま・ぎ・ら・わ・し・ーーーーーー
違いますけど……
何? 怒ってるの?
何か言いたげな感じ
違いますけどーーーーーー
どこがスタッフなの
もっと人を見る目を養った方がいいんじゃないですか
とか言って追っかけてきそうだ。
一刻も立ち止まってはいられない。
躓きは成功を向いたスタートラインだ。
「あのー、スタッフさんですか?」
「はい?」
はい?
こいつも偽物か……。
・
凛として立ち凛として商品に触れるあなたはフェイク・スタッフ