こちらへどうぞ、と無数の手が伸びている。
手の招く方へと僕の足は伸びていき、そのまま引き込まれてしまうのだった。僕の握った手は、雪のピアスのように冷たかった。
大通りの真ん中で石とイワシが闘っていて、巻き込まれないように用心して歩いた。石がやや押しているように見えるが、イワシも頑張っていて勝敗の行方は不透明だった。声援の大きさではイワシの方が少し上回っているようだったが、あるいは石と言っているのがイワシに聞こえているという可能性もあった。石がゴツゴツと音を立てんばかりに襲いかかれば、イワシはひらひらと軽やかに流れて石の思い通りにはならない。石が剛だとすれば、イワシは魚のようだった。
雨がスライムほどの勢いで降っていた。
僕はしばらく足を止めて、二人の対戦を見守っていた。自分自身それほど興味があるわけではなかったが、大勢の人が夢中になって応援している様子を眺める内に、人々の関心が自分に移っていくようだった。それは流されているのかもしれなかった。
石は今度はムシに変わっていて、イワシの方はチャカシに変わっているのだった。石を応援していた者はそのままの流れでムシを応援するのが主流であったが、中にはチャカシの華麗さに魅せられて寝返る者もあった。けれども、応援者の態度は気まぐれで、最初からあちらについたりこちらについたりとふらふらしている者もあれば、どちら側にもつくことなくただ応援しているという態度の者も見受けられた。
「ゆでたてのタコはいかがかな?」
頭にタンバリンをはめた青年が、突然勧めてきたのでもらうことにした。青年は300円と言い残し消えてしまった。
雨はとっくにスライムに変わって降っていた。
僕の隣には、腕立てをするデコがいたのだ。
「どうです? 速いでしょう」デコの腕立てはどんどん速さを増して、その内に静止しているように見え始めた。
ムシはあらゆる科学者たちの言葉に耳を貸さない優雅さで立ち回ると、チャカシは笑ったり怒ったり聞いていたり聞いていなかったり、踊ったりピョンピョンしたり、そうかと思えばこれはどうかと思える動きをしたりと、あらゆるまやかしをも凌ぐ華麗さでムシを幻惑しにかかるのだった。そして、ムシはその強い耐性で持って凌いでいても、観客の何人かはその幻惑にかかりその場で気を失って倒れるのだった。ムシについている者たちがより多く倒れているようだった。
「ムシの勝ち! 決まり手は出ずっぱり」
デコがしゃしゃり出ながら、決まり手を告げるとすぐさまチャカシが反論した。
「俺もずっと出てたじゃないか」
みんなの拍手と、強まったスライムにチャカシの声はかき消されてしまった。気立てのいいデコの言葉には、誰もがみな賛成するしかなかったのである。ただ一人僕だけは、ゆでたてのタコを食べていないということが気にかかり、公共広告機構に持ち込むことを決めていた。
拍手は、いつまでも鳴り止むことはなかった。鳴り止む前に僕は歩き出したのだ。
「猫を探しています」
動物案内所の窓口で、居眠りをしている受付を起こして尋ねた。
「ここは動物でねえ。
猫というとまた別なんですねえ」
手の招く方へと僕の足は伸びていき、そのまま引き込まれてしまうのだった。僕の握った手は、雪のピアスのように冷たかった。
大通りの真ん中で石とイワシが闘っていて、巻き込まれないように用心して歩いた。石がやや押しているように見えるが、イワシも頑張っていて勝敗の行方は不透明だった。声援の大きさではイワシの方が少し上回っているようだったが、あるいは石と言っているのがイワシに聞こえているという可能性もあった。石がゴツゴツと音を立てんばかりに襲いかかれば、イワシはひらひらと軽やかに流れて石の思い通りにはならない。石が剛だとすれば、イワシは魚のようだった。
雨がスライムほどの勢いで降っていた。
僕はしばらく足を止めて、二人の対戦を見守っていた。自分自身それほど興味があるわけではなかったが、大勢の人が夢中になって応援している様子を眺める内に、人々の関心が自分に移っていくようだった。それは流されているのかもしれなかった。
石は今度はムシに変わっていて、イワシの方はチャカシに変わっているのだった。石を応援していた者はそのままの流れでムシを応援するのが主流であったが、中にはチャカシの華麗さに魅せられて寝返る者もあった。けれども、応援者の態度は気まぐれで、最初からあちらについたりこちらについたりとふらふらしている者もあれば、どちら側にもつくことなくただ応援しているという態度の者も見受けられた。
「ゆでたてのタコはいかがかな?」
頭にタンバリンをはめた青年が、突然勧めてきたのでもらうことにした。青年は300円と言い残し消えてしまった。
雨はとっくにスライムに変わって降っていた。
僕の隣には、腕立てをするデコがいたのだ。
「どうです? 速いでしょう」デコの腕立てはどんどん速さを増して、その内に静止しているように見え始めた。
ムシはあらゆる科学者たちの言葉に耳を貸さない優雅さで立ち回ると、チャカシは笑ったり怒ったり聞いていたり聞いていなかったり、踊ったりピョンピョンしたり、そうかと思えばこれはどうかと思える動きをしたりと、あらゆるまやかしをも凌ぐ華麗さでムシを幻惑しにかかるのだった。そして、ムシはその強い耐性で持って凌いでいても、観客の何人かはその幻惑にかかりその場で気を失って倒れるのだった。ムシについている者たちがより多く倒れているようだった。
「ムシの勝ち! 決まり手は出ずっぱり」
デコがしゃしゃり出ながら、決まり手を告げるとすぐさまチャカシが反論した。
「俺もずっと出てたじゃないか」
みんなの拍手と、強まったスライムにチャカシの声はかき消されてしまった。気立てのいいデコの言葉には、誰もがみな賛成するしかなかったのである。ただ一人僕だけは、ゆでたてのタコを食べていないということが気にかかり、公共広告機構に持ち込むことを決めていた。
拍手は、いつまでも鳴り止むことはなかった。鳴り止む前に僕は歩き出したのだ。
「猫を探しています」
動物案内所の窓口で、居眠りをしている受付を起こして尋ねた。
「ここは動物でねえ。
猫というとまた別なんですねえ」