待ち合わせですか?
女が待っていたのは自分自身だった。どこか遠い街からやってくる待ち人ではない。約束を交わした愛人を待つのではない。それは自分の奥の深いところからやってくるのだ。
「私が消えて本当の私が現れる」
女はずっと長い間それを待っていた。現れるとは限らない。けれども、現れた記憶なら微かに胸の内に残っていた。それが今日だったらいいけれど……。時は自分では選べないということも女は既に知っていた。自分がありありとしてここに残っている間、それが現れることは決してない。仮の自分と本当の自分が共存するということはないのだ。先に自身が消えて、そこで初めて封じられていた自分が目を覚ましてくれる。
火を貸してもらえますか?
燃え上がる炎に焼かれて虫は消えた。
女は何事もなかったように待ち続けていた。
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