
「おつかれのところわるいがね」
工場長の声がして僕は身構えた。
わるいけどねと始まる話がわるくなかったことがあっただろうか。しかし、今日の工場長は少しおかしい。普通なら「話は変わるがね」と入ってくるはず。それが日常の工場長なのだ。
どのような指示が出てくるかと待っていたが、いくら待っても何も指示は出てこなかった。結局、その日は半日を無駄にして生産性を落としてしまった。待ちの姿勢が裏目に出た。この件は事故として処理され、内部調査委員会が立ち上げられた。
後日行われた聞き取り調査によると、工場長は「乙なカレーが食べたい」と言ったようだ。後半の部分は虫の蛾で、わるい蛾を責めて言ったものだったようだ。これは完全に僕の聞き間違いと結論づけられた。道理で、何も頼まれなかったわけだ……。来週からは工場をあげて虫対策が強化されることになった。
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