人間離れした強者におじいさんは正面から立ち向かった。押しても引いてもびくともしない。勝てば犯罪、負ければ引退。先のない取り組みに向けられるエールはない。視界に入ったとしても足を止めることなく、見て見ぬ振りをして行き過ぎる者ばかり。火の粉が自分に降りかかることを恐れ、手元に覗く安全な世界にしか口を出さないのだ。
「手紙を出させて」
突然の声におじいさんはハッと我に返った。
まわしが取れないのは技量のせいではない。自分は服を着て土足のままではないか。差出人不明、女の物言いを受けておじいさんは段を降りた。
汗ばんだ力士は紅に染まりながら、彼女の手紙を呑み込んだ。
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