
カウンターに着き注文をする。
店員の顔が強ばっているように見えた。
「申し訳ございません。ただいまホットコーヒー単品での提供はマシーンが壊れているためご注文いただけません」
「あー、そうなんですね」
店員の顔に笑顔はなかった。きっと笑うところではないのだろう。
冬はどうしても温かいものが飲みたくなる。そのためだけに出かけたくなることもある。温かさを感じてこその冬だとも思う。いつも簡単に手に入るからといって、それを当たり前のように思ってはならない。理屈ではわかってはいても、失うまでは気づかない私は愚かな人間だ。
「……セットで。お飲物は?」
「ホットコーヒーで」
「かしこまりました」
隣のカウンターから、かしこまった声が聞こえた。
? ? ? ? ホットコーヒー……
「もしかして、マシーン直りました?」
「セットですと大丈夫なんですが、単品の場合はマシーンが……」
やはり、そう簡単に直るわけないか。
一瞬浮かんだ希望はすぐに泡になった。
「もしかして、バンズから抽出されるんですか?」
「そうなんです」
「へー。そうなんですね」
「はい」
店員は両手を合わせ待ちの姿勢を保っていた。
「美味しいんでしょうね」
「セットにされますか」
私の欲しいのはコーヒーだけだった。
「直るまで待ってもいいですか」
「いつになるか約束できません」
彼女の言う通りだった。
きっと、待ってはならない冬もあるのだ。
私は笑いながらカウンターを離れた。
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