突然の足音に身が竦む。まさか、自分に向かう刺客では? 特別わるいことをしてきた覚えはないけれど。他人の恨みは根深いものだから、どこに隠れ、どこに眠っているか、わかりはしない。恐れを抱いたのは、スパイ映画を見た後だった。裏切りの応酬、斬新なアイテム、機敏な身のこなし……。まだ興奮が強く残っていた。足音が加速して大きくなっていく。迫る影。
タッタッタッタッタッタッ
規則正しいリズム!
美しく整ったフォーム!
男は自分の敵ではなかった。
彼は彼のコースを突き進む「ランナー」だ。
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Aメロで
土砂降りになる
新曲を
口ずさむボクサーのジョギング
(折句「江戸仕草」短歌)
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