碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

“ゼミ飲み”でした

2012年05月10日 | 大学

今日は3年生ゼミが終わってから、参加可能な2年生も合流して、
今年度初となるゼミの飲み会が行われた。

近くの居酒屋さんだったが、思えば、大学から歩いて数分で、
もう店内にいる(笑)、というのはすごいロケーションだ。

みんなが、和気あいあいと飲んで、談笑している風景を眺めるのは、
実に楽しい。

もう何年も、このメンバーでゼミをやっているような気分になる。

本当は、ようやく顔と名前が一致してきたんだけど(笑)。

まずは、「ゆるやかな連帯」と「さわやかな切磋琢磨」をモットーに、
進んでいきたいと思います。



















テレビは、「震災から1年」を、どう伝えたか

2012年05月10日 | メディアでのコメント・論評

放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC(ぎゃらく)」は、発売されたばかりの6月号で、「震災1年を、どう伝えたか」という特集を組んでいる。

震災から1年となる今年の3月11日前後に放送された全番組を、批評家や研究者が手分けして視聴し、各局の姿勢を分析しているのだ。

この特集で、私はテレビ東京を担当している。

ちなみに、各局の分担・執筆は、NHK:鈴木嘉一さん、日本テレビ:秋山衆一さん、TBS:藤久ミネさん、フジテレビ:遠藤薫さん、そしてテレビ朝日:鈴木典之さんだ。

私も1週間分、早朝から深夜まで、全ての番組を見て(結構大変)、以下のような文章を寄せました。


「日常性」にこだわった
アナザーウエイを貫く決意


「震災から1年」に対するテレビ東京の取り組み方を、ひと言で表現するなら「アナザーウエイ」であり、キーワードは「日常性」である。それは3月11日(日)の番組表を見れば一目瞭然だ。驚くことに、テレビ東京だけが震災特番による“特別編成”を行っていない。普段と同じ、“通常編成”で臨んだのだ。

この日、12時49分からの5分枠「TXNニュース」が、東京だけでなく被災地でも追悼式が行われることを伝えた。そして14時46分、テレビ東京は名取裕子主演のドラマ「銀座高級クラブママ 青山みゆき3~赤いバラの殺人予告~」の再放送を流し続けた。殺人容疑のホステスが事情聴取を受ける場面だ。大胆と言えば大胆な選択である。17時20分からの「TXNニュース」では追悼式に加えて、東電の社内と反原発デモの様子も映し出した。

19時54分、この日の目玉である日曜ビッグバラエティ「会いたい人がいる 田舎に泊まろう! 3.11再会スペシャル」が始まった。萩本欽一、IKKOなど4人が、各々以前お世話になった被災地を再訪する。萩本は昨年6月に気仙沼の避難所で会った人たちとの“同窓会”を開く。前回と同じ場所に立ち、その風景を見つめて「1年だぜ。何も変わってません」とポツリ。いずれも少し胸が熱くなる再会だったが、過剰な演出がないことに好感が持てた。こういう形の震災番組があってもいい。

その後の「ニュースブレイク」は、石巻での追悼式で村井知事が語った「復興に邁進することを固く誓います」という言葉を紹介。これで3月11日の震災関連番組はすべて終了した。


日常的な放送活動の中で、つまり通常のレギュラー番組を生かしながら「震災から1年」を伝えていこうという方針を実践したのが、3月11日の前の一週間だ。平日16時52分からの「NEWSアンサー」のメーンキャスター・大浜平太郎が5日(月)から9日(金)まで、冒頭の5分を使って被災地から生中継を行った。

5日は原発から30キロ圏内の福島県川内村。1月に帰村宣言があったものの、判断に悩む村民たちの声を伝えた。6日は宮城県名取市から、スカイビレッジ構想という新たな街づくりの取り組みを紹介。7日は宮城県石巻から、わかめのネット販売に活路を見出そうとする漁師たちを追った。

8日は岩手県陸前高田市。地元の醤油メーカーが目指すのは樽に残ったもろみを使っての事業再興だ。限られた補助ゆえの3重ローンという負担にため息が出る。9日は大浜キャスターが宮古市田老地区の大防潮堤に立ち、被災者たちが作る地域新聞を紹介。1300世帯に配布されるこの新聞は、情報だけでなく希望も届けていることが実感できた。

6日の22時には、ガイアの夜明け「復興への道」も放送された。昨年3月から約1年間、被災した福島県のかまぼこ業者やショッピングセンターなどを追った。壊滅状態の工場、全員を雇用し続けた経営者、2億円もの赤字、それでも“雇用づくり”をやめない粘り強さが印象に残る。働く場を失ったショッピングセンターの社員はテントで販売を続け、やがて本物の店をオープンさせる。経営者も従業員も被災者だ。それぞれの悩みに寄り添うていねいな取材から、一筋縄ではいかない復興の現状が見えてくる。

10日(土)午前11時半、田勢康弘が司会の「週刊ニュース新書」は、「3.11から1年 いまニッポン人を考える」と題して養老孟司に取材した。危機管理が不得意な日本人。しかも嫌なことは見たくない、聞きたくない傾向が強い。「気の持ちよう」と「事実」とを明確に分ける必要があるという養老の意見は傾聴に値する。

12時15分からは「国際社会と日本」を考える5分番組「地球VOCE」。藤原紀香がキャスターだ。この日は防災の智恵を学ぼうと海外から日本に来ている人たちを紹介。阪神淡路大震災の記憶と教訓を世界で生かそうとしていた。

12時30分からはドキュメンタリー震災から1年「ここから始まる~冬来たりなば春遠からじ~」。52分の特番だ。岩手県大槌町の被災者たちによるコロッケ店、宮城県山元町のイチゴ農家が共同で再開したハウス栽培、彼らを音楽で支援する東京の若者・・・。応援ソング「生きてゆくこと」が見終えた後も耳に残る。

17時15分からの5分番組「未来の主役 地球の子どもたち」には、岩手県岩泉町のスポーツ少女が登場。空手を得意としてきた彼女が、震災後は「仲間」を意識するようになり、今夢中になのがバレーボールだという。この番組はTVQ九州放送の制作だが、この日にふさわしい内容だった。

“通常番組”による震災報道の前、唯一大型震災特番を放送したのが3月4日(日)の「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」だ。宮城の地元紙がどのように新聞を発行し続け、読者(被災者)に届けたのかを描いたドキュメンタリー・ドラマである。

まず評価したいのは、記者たちが悲惨な現実を前に「こんなことをしていていいのか」と自問しながら取材する姿を見せていたことだ。また新聞を読者に届ける販売所の人たちにスポットを当てたことにも注目したい。実際に避難所で河北新報が配られた時、被災者たちは「手でさわれる日常」に励まされたという。新聞は貴重な救援物資でもあったのだ。

思い返すと、トータルで何十時間も流された各局横並びの震災特番には奇妙な“にぎやかさ”があった。特番らしい演出だが、どこかお祭り騒ぎで、見る側に何が伝わったのか心もとない。その意味で、テレビ東京が自らの“体力”も勘案して日常性にこだわった独自路線には、震災・原発報道が一過性でなく、視聴者と並走する継続的活動であるという決意さえ感じた。

(GALAC 2012年6月号)