『東京新聞』に連載しているコラム「言いたい放談」。
今回は、「竜巻」をめぐる話を書きました。
竜巻と2人の日本人
茨城を襲った竜巻の映像を見ていて、アメリカのオクラホマ大学を訪れた時のことを思い出した。
取材したのは「トルネード・チェイサー」と呼ばれる研究チームだ。観測機材を満載した特別車両で竜巻を追いかけ、発生のメカニズムを探り、動きを予測する研究を行っている。
トルネード・チェイサーの生みの親は名誉教授の佐々木嘉和さん。
五十年以上も竜巻研究を続けてきた先駆者だ。
その教え子で世界的権威でもあるワーマン教授の追跡行を撮影させてもらったが、ドップラー・レーダーからの情報を元に広大なエリアを
走り回る彼らのエネルギーと情熱に驚かされた。
アメリカでは竜巻の発生回数も犠牲者の数も日本とは比べものにならないほど多い。特に竜巻の進路予測は住民の命にかかわるため、研究者も必死なのだ。
もう一人、忘れてはならない日本人がいる。シカゴ大学名誉教授だった藤田哲也さんだ。
ニュースでは茨城の竜巻を「F2レベル」と報じていたが、Fは「藤田スケール」といって竜巻の強さを表わす指標。藤田さんが被害を受けた
建物の調査を重ねて考案した世界基準である。
ワーマン教授たちの活動をモデルにして製作されたのが映画「ツイスター」だ。
二人の日本人が基礎を築いた竜巻研究は、トルネード・チェイサーの
果敢な挑戦を含め、今も進化を続けている。
(東京新聞 2012.05.17)