安保改定60年 第一部② 偽りの「日米対等」
1951年9月に結ばれた旧安保条約の下、日本全国に2000を超える米軍基地がおかれ、さらに拡張されようとしていました。
これに対して、内灘闘争(石川県)や砂川闘争(東京都)など、住民の基地闘争が全国に広がります。
さらに、群馬県・相馬が原演習場で米兵が主婦を射殺した「ジラード事件」(57年1月)では、加害米兵が懲役3年・執行猶予4年の判決で帰国。日米関係の不平等性に国民の怒りが爆発しました。
安保改定の真意
米政府は危機感を募らせます。ナッシュ米大統領補佐官が57年12月にまとめた「米国の海外基地に関する報告書」(ナッシュ・リポート)は、「われわれの海外基地システムは、あるところでは摩擦と反発を呼び起こしている」と指摘。「不平等感を緩和するための…最も重要な措置は、安保条約の改定である」と提言しました。
一方、57年2月に就任した岸信介首相も「対等な日米関係」を喧伝(けんでん)し、「安保改定」を主張。60年1月19日、改定安保条約と日米地位協定が締結され、今日に至ります。
しかし、日米両政府が手掛けた安保改定は欺瞞(ぎまん)に満ちたものでした。
ホワイトハウスで安全保障新条約に調印する日米全権代表。左から藤山愛一郎外相、岸信介首相、立ち会いのアイゼンハワー米大統領、バーター米国務長官=1960年1月19日、ワシントン(時事)
核持ち込む密議
安保改定の最重要課題は、米軍による核兵器の持ち込みでした。53年10月、核兵器を搭載した米空母オリスカニが横須賀基地(神奈川県)に寄港して以来、核持ち込みが始まりましたが、54年3月のマグロ漁船被ばく=ビキニ事件を契機に反核平和運動が高揚し、米軍にとって容易ならざる状況に。前出の「ナッシュ・リポート」は、日本の反核世論を「精神病的」と罵倒するほど、いら立ちを募らせていました。
岸氏は国会で「自衛隊を核兵器で武装しない、日本にこれを持ち込むことは認めない」(58年6月17日、衆院本会議)と表明していました。ところが、米国防総省の「歴史書」56~60年版によれば、58年7月、マッカーサー駐日米大使との密議で、「法的には、米国はいかなる兵器も日本に持ち込むことができる」と述べ、そのための方策を探りあっていたのです。まさに二枚舌です。
虚構の「事前協議」
岸氏が「日米対等」の担保として言及していたのが、「事前協議」制度でした。これにより、日本の意図に反した核持ち込みや、米軍の海外での戦闘に巻き込まれることを防ぐというものです。
1960年1月19日、改定安保条約とともに交わされた「岸・ハーター交換公文」で、在日米軍が①「装備の重要な変更」②日本の施政権外で「戦闘作戦行動」を行う場合、日米が「事前協議」を行うことが確認されました。しかし、そこには二重の欺瞞(ぎまん)が存在します。
1973年8月、米海軍横須賀基地(神奈川県)に配備された米空母ミッドウェー。当時、米戦闘艦は常時、核兵器を搭載していた
一度も開かれず
そもそも、「岸・ハーター交換公文」には、「装備の重要な変更」の具体的な内容が記されていません。
その裏で、日米両政府は①核兵器を搭載した艦船・航空機の寄港・飛来(エントリー)②米軍の日本からの移動―は「事前協議」の対象外にするとの密約(討論記録)を交わしていました。米軍はこれまで通り、核搭載艦船の寄港や、「移動」と称すれば日本から出動した米軍部隊が海外のどこでも戦闘作戦行動が可能になったのです。
もう一つは、「事前協議」そのものの虚構性です。外務省は、①核弾頭および中・長距離ミサイル②陸上部隊・空軍の1個師団、海軍の1機動部隊―が「装備の重要な変更」にあたるとしています。これに従えば、日本への空母の配備などは「事前協議」の対象になるはずです。しかし、日本政府はこれまで事前協議を一度も提起していません。
前出の米国防総省歴史書は、事前協議で「日本の事前『承認』は求められていない」「米国は、米軍の行動に関するいかなる拒否権も日本側に与えることを避けた」と総括しています。
結局、安保改定でも米軍は行動の自由を全面的に確保しました。「事前協議」は「対等な日米関係」を装うための虚構にすぎなかったのです。
「議事録」検証を
安保改定に伴い、核密約以外にも、「朝鮮半島への出撃」「基地の排他的管理権」など数多くの密約が結ばれ、旧安保条約下の軍事特権はほぼ維持されました。さらに、52年に締結された日米行政協定に基づく米軍の特権も、ほとんどが日米地位協定に引き継がれました。
加えて重大なのが、日米地位協定に関する「合意議事録」です。ここでは、条文ごとに詳細な解釈を示しています。例えば、刑事裁判権に関する地位協定17条について、米軍機の事故が発生した場合、米側が同意しない限り、日本の当局は米軍財産の捜索、差し押さえ、検証ができないことを定めるなどが盛り込まれています。この合意議事録は比較的最近まで非公表とされ、事実上の密約扱いでした。地位協定改定とともに、合意議事録の不当性を検証する必要があります。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年1月11日付掲載
安保条約の改定で表向きは「日米対等」を言いました。その一つが核兵器持ち込みの「事前協議」。
しかし、寄港・飛来(エントリー)や移動は対象にならない。
たまたま立ち寄ったのだから、核兵器持ち込みではないという欺瞞です。
1951年9月に結ばれた旧安保条約の下、日本全国に2000を超える米軍基地がおかれ、さらに拡張されようとしていました。
これに対して、内灘闘争(石川県)や砂川闘争(東京都)など、住民の基地闘争が全国に広がります。
さらに、群馬県・相馬が原演習場で米兵が主婦を射殺した「ジラード事件」(57年1月)では、加害米兵が懲役3年・執行猶予4年の判決で帰国。日米関係の不平等性に国民の怒りが爆発しました。
安保改定の真意
米政府は危機感を募らせます。ナッシュ米大統領補佐官が57年12月にまとめた「米国の海外基地に関する報告書」(ナッシュ・リポート)は、「われわれの海外基地システムは、あるところでは摩擦と反発を呼び起こしている」と指摘。「不平等感を緩和するための…最も重要な措置は、安保条約の改定である」と提言しました。
一方、57年2月に就任した岸信介首相も「対等な日米関係」を喧伝(けんでん)し、「安保改定」を主張。60年1月19日、改定安保条約と日米地位協定が締結され、今日に至ります。
しかし、日米両政府が手掛けた安保改定は欺瞞(ぎまん)に満ちたものでした。
ホワイトハウスで安全保障新条約に調印する日米全権代表。左から藤山愛一郎外相、岸信介首相、立ち会いのアイゼンハワー米大統領、バーター米国務長官=1960年1月19日、ワシントン(時事)
核持ち込む密議
安保改定の最重要課題は、米軍による核兵器の持ち込みでした。53年10月、核兵器を搭載した米空母オリスカニが横須賀基地(神奈川県)に寄港して以来、核持ち込みが始まりましたが、54年3月のマグロ漁船被ばく=ビキニ事件を契機に反核平和運動が高揚し、米軍にとって容易ならざる状況に。前出の「ナッシュ・リポート」は、日本の反核世論を「精神病的」と罵倒するほど、いら立ちを募らせていました。
岸氏は国会で「自衛隊を核兵器で武装しない、日本にこれを持ち込むことは認めない」(58年6月17日、衆院本会議)と表明していました。ところが、米国防総省の「歴史書」56~60年版によれば、58年7月、マッカーサー駐日米大使との密議で、「法的には、米国はいかなる兵器も日本に持ち込むことができる」と述べ、そのための方策を探りあっていたのです。まさに二枚舌です。
虚構の「事前協議」
岸氏が「日米対等」の担保として言及していたのが、「事前協議」制度でした。これにより、日本の意図に反した核持ち込みや、米軍の海外での戦闘に巻き込まれることを防ぐというものです。
1960年1月19日、改定安保条約とともに交わされた「岸・ハーター交換公文」で、在日米軍が①「装備の重要な変更」②日本の施政権外で「戦闘作戦行動」を行う場合、日米が「事前協議」を行うことが確認されました。しかし、そこには二重の欺瞞(ぎまん)が存在します。
1973年8月、米海軍横須賀基地(神奈川県)に配備された米空母ミッドウェー。当時、米戦闘艦は常時、核兵器を搭載していた
一度も開かれず
そもそも、「岸・ハーター交換公文」には、「装備の重要な変更」の具体的な内容が記されていません。
その裏で、日米両政府は①核兵器を搭載した艦船・航空機の寄港・飛来(エントリー)②米軍の日本からの移動―は「事前協議」の対象外にするとの密約(討論記録)を交わしていました。米軍はこれまで通り、核搭載艦船の寄港や、「移動」と称すれば日本から出動した米軍部隊が海外のどこでも戦闘作戦行動が可能になったのです。
もう一つは、「事前協議」そのものの虚構性です。外務省は、①核弾頭および中・長距離ミサイル②陸上部隊・空軍の1個師団、海軍の1機動部隊―が「装備の重要な変更」にあたるとしています。これに従えば、日本への空母の配備などは「事前協議」の対象になるはずです。しかし、日本政府はこれまで事前協議を一度も提起していません。
前出の米国防総省歴史書は、事前協議で「日本の事前『承認』は求められていない」「米国は、米軍の行動に関するいかなる拒否権も日本側に与えることを避けた」と総括しています。
結局、安保改定でも米軍は行動の自由を全面的に確保しました。「事前協議」は「対等な日米関係」を装うための虚構にすぎなかったのです。
「議事録」検証を
安保改定に伴い、核密約以外にも、「朝鮮半島への出撃」「基地の排他的管理権」など数多くの密約が結ばれ、旧安保条約下の軍事特権はほぼ維持されました。さらに、52年に締結された日米行政協定に基づく米軍の特権も、ほとんどが日米地位協定に引き継がれました。
加えて重大なのが、日米地位協定に関する「合意議事録」です。ここでは、条文ごとに詳細な解釈を示しています。例えば、刑事裁判権に関する地位協定17条について、米軍機の事故が発生した場合、米側が同意しない限り、日本の当局は米軍財産の捜索、差し押さえ、検証ができないことを定めるなどが盛り込まれています。この合意議事録は比較的最近まで非公表とされ、事実上の密約扱いでした。地位協定改定とともに、合意議事録の不当性を検証する必要があります。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年1月11日付掲載
安保条約の改定で表向きは「日米対等」を言いました。その一つが核兵器持ち込みの「事前協議」。
しかし、寄港・飛来(エントリー)や移動は対象にならない。
たまたま立ち寄ったのだから、核兵器持ち込みではないという欺瞞です。