安保改定60年 第二部⑦ 米軍は惑星最大の汚染者だ 沖縄・東京で相次ぐ有害泡消火器剤流出
日本在住の英国人ジャーナリスト ジョン・ミッチェルさんに聞く
1974年、英国出身。98年に来日して以来、沖縄の人権問題、化学兵器、軍隊による環境汚染の問題などを取材。明治学院大学国際平和研究所研究員。著書は『追跡・沖縄の枯れ葉剤』(高文研)『追跡・日米地位協定と基地公害』(岩波書店)。
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田中裕子撮影
10日、米海兵隊普天闇基地(沖縄県宣野湾市)付近で、人体に有害な泡消火剤流出事故が発生しました。泡消火剤による汚染をはじめ、「米軍はこの惑星で一番の汚染者」と告発してきた日本在住の英国人ジャーナリスト、ジョン・ミッチェルさんに聞きました。
(聞き手・石黒みずほ)
米軍が使用する泡消火剤に含まれるPFOS・PFOAによる水質汚染が沖縄県や東京都の米軍基地周辺で問題となっています。両物質は、有毒で残留性の高い有機フッ素化合物PFASに属し、微量でも人体に重大な影響を及ぼします。肝臓や甲状腺への影響、がん(腎臓、前立腺、精巣)の原因となり、低体重出産、発達や免疫系への影響など、子どもへの健康リスクが高いことも指摘されています。
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普天間飛行場で海兵隊が実施した消火訓練=2015年2月、沖縄県宜野湾市(本人提供)
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日屋良川に残留する泡消火剤=4月11日、沖縄県宜野湾市
国内の米軍基地で発生した主なPEOS、PFOA漏出事故
飲料水汚染
私が米情報自由法(FOIA)を活用して入手した米軍の文書によると、在日米軍は沖縄や本土の基地周辺でPFASによる汚染を繰り返してきました。その事例は四つに分類できます。①飛行機の墜落事故で引火した際の、泡消火剤の散布によるもの②格納庫のスプリンクラーの誤操作によるもの(その場合、数万リットルもの泡消火剤が放出される)③廃棄物として投棄するもの④消火訓練。すべての基地に消火訓練場があり、訓練で使用された泡消火剤は周辺地域の水に流れていきます。これが最も多い事例です。
こうした事例は今に始まったものではありません。泡消火剤は1960年代に製造され、70年代には世界各地の基地で使用されていました。製造企業はその時からPFASの危険性を認識していました。米軍も80年代ごろには、環境や人体への影響に気付き始めていましたが、それを隠して製造・使用を続けてきたのです。
米軍は2016年以来泡消火剤を使っての訓練は行っていないと主張しますが、それまでにかなりの量が繰り返し使用されていたため、基地付近の敷地は汚染されています。横田基地での汚染は多摩川にまで広がり、多くの住民が飲料水の汚染に懸念を持っています。
日本政府は飲料水におけるPFOS・PFOAの安全基準として設定した目標値を見直すべきです。厚生労働省は、国内の目標値を、両物質合わせて1リットルあたり50ナノグラム(1ナノグラム=10億分の1グラム)で適用することを発表しましたが、米国の多くの專門家は、1ナノグラムを目標値にすべきと主張しています。さらに、PFAS全体でみると、人体に危険を及ぼす物質は約5千種類あり、それら全てを考慮に入れる必要があります。
日本政府は責任とらせよ
情報公開を
泡消火剤の汚染以外にも、米軍はこれまでに数多くの汚染事故を起こしています。1995~96年、米海兵隊は鳥島射爆撃場(沖縄県久米島町)に、1520発の劣化ウラン砲弾を誤って使用しました。米軍はその後調査をしますが、わずか192発の回収で打ち切りました。
2011年、福島第1原発事故後の「トモダチ作戦」で使用した軍用車両や装備品の除染で発生した汚染水12万リットル以上を厚木基地(神奈川県)と三沢基地(青森県)の下水道に投棄したことも明らかになっています。
こうした事故のほとんどは通告されていません。私も、米軍からの文書を入手した時、これまで起こった事故の数に驚きました。漏出した化学物質をみても、ダイオキシン、放射能、枯れ葉剤などさまざまであり、基地周辺の住民だけでなく、米軍やその家族もその犠牲となっています。在日米軍幹部は人体への影響を把握しておきながら、今までずっと隠してきたのです。
イタリアやドイツなどでは、米軍との地位協定を改定して、基地内への立ち入り調査や原状回復の義務づけ、汚染除去費用を支払わせるなどして、自国内で起こる軍事公害について米軍に責任をとらせるかめの手段を試みてきました。
一方、日米地位協定の下では、立ち入り調査は米軍の判断次第となっているために、米軍は環境に対する責任を逃れています。日本政府も地位協定上の制約にあぐらをかき、対策を怠ってきました。
また、基地返還時に汚染された基地を原状回復し、補償する義務も米軍にはありません。除染に必要とされる膨大な費用は日本国民の負担となります。基地に伴う経済効果を期待する人もいますが、基地の存在は除染に伴うばく大な費用や住民の健康リスクなど、長期にわたる重い負担をもたらします。
こうした問題を解決するために、日米地位協定の改定は不可欠ですが、それ以前にできることを考えていかなければなりません。私は、①透明性(基地の汚染に関する情報の保存、公開)②米軍、日本政府の説明責任の確立③応答力(基地返還地の再開発への自治体の関与)―が大切であると考えます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年4月12日付掲載
米軍が使っている泡消火器。家庭に備えているものとは規模が違いますね。本来なら、外界に拡散させないようにしないといけないのですが、排水溝や周囲の川に流されている。
それ以外も、汚染水などが基地の外に…。
しっかり監視し、規制していることが求められます。
日本在住の英国人ジャーナリスト ジョン・ミッチェルさんに聞く
1974年、英国出身。98年に来日して以来、沖縄の人権問題、化学兵器、軍隊による環境汚染の問題などを取材。明治学院大学国際平和研究所研究員。著書は『追跡・沖縄の枯れ葉剤』(高文研)『追跡・日米地位協定と基地公害』(岩波書店)。
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田中裕子撮影
10日、米海兵隊普天闇基地(沖縄県宣野湾市)付近で、人体に有害な泡消火剤流出事故が発生しました。泡消火剤による汚染をはじめ、「米軍はこの惑星で一番の汚染者」と告発してきた日本在住の英国人ジャーナリスト、ジョン・ミッチェルさんに聞きました。
(聞き手・石黒みずほ)
米軍が使用する泡消火剤に含まれるPFOS・PFOAによる水質汚染が沖縄県や東京都の米軍基地周辺で問題となっています。両物質は、有毒で残留性の高い有機フッ素化合物PFASに属し、微量でも人体に重大な影響を及ぼします。肝臓や甲状腺への影響、がん(腎臓、前立腺、精巣)の原因となり、低体重出産、発達や免疫系への影響など、子どもへの健康リスクが高いことも指摘されています。
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普天間飛行場で海兵隊が実施した消火訓練=2015年2月、沖縄県宜野湾市(本人提供)
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日屋良川に残留する泡消火剤=4月11日、沖縄県宜野湾市
国内の米軍基地で発生した主なPEOS、PFOA漏出事故
1997.8 | 岩国基地で消防車から3028リットルの泡消火剤が排水溝に流入。同基地では11回漏出事故が発生 |
2007.8 | 普天間基地から757リットルの泡消火剤が漏出 |
2012 | 横田基地で泡消火剤3028リットルが貯蔵タンクから漏出 |
2013.12 | 嘉手納基地で、スプリンクラーの誤作動で2270リットルの泡消剤が放出され、排水溝に流入 |
2014.2~2015.11 | 嘉手納基地近くの大工廻川から1320ナノグラムのPFOSを検出 |
2015.5 | 嘉手納基地で酔った海兵隊員が格納庫に侵入。スプリンラーを作動させ、1510リットルの泡消火剤が放出 |
2016.1 | 嘉手納基地周辺の河川を水源とする北谷浄水場から高濃のPFOS検出 |
2017.8 | 嘉手納基地で、PFOAを含む泡消火剤375リットルが排水溝流入、風で飛散 |
2019.1 | 横田基地付近の井戸(立川市)から1340ナノグラムのPFOS、PFOAを検出 |
2020.4 | 普天間基地から大量の泡消火剤が側溝に流入、風で飛散 |
飲料水汚染
私が米情報自由法(FOIA)を活用して入手した米軍の文書によると、在日米軍は沖縄や本土の基地周辺でPFASによる汚染を繰り返してきました。その事例は四つに分類できます。①飛行機の墜落事故で引火した際の、泡消火剤の散布によるもの②格納庫のスプリンクラーの誤操作によるもの(その場合、数万リットルもの泡消火剤が放出される)③廃棄物として投棄するもの④消火訓練。すべての基地に消火訓練場があり、訓練で使用された泡消火剤は周辺地域の水に流れていきます。これが最も多い事例です。
こうした事例は今に始まったものではありません。泡消火剤は1960年代に製造され、70年代には世界各地の基地で使用されていました。製造企業はその時からPFASの危険性を認識していました。米軍も80年代ごろには、環境や人体への影響に気付き始めていましたが、それを隠して製造・使用を続けてきたのです。
米軍は2016年以来泡消火剤を使っての訓練は行っていないと主張しますが、それまでにかなりの量が繰り返し使用されていたため、基地付近の敷地は汚染されています。横田基地での汚染は多摩川にまで広がり、多くの住民が飲料水の汚染に懸念を持っています。
日本政府は飲料水におけるPFOS・PFOAの安全基準として設定した目標値を見直すべきです。厚生労働省は、国内の目標値を、両物質合わせて1リットルあたり50ナノグラム(1ナノグラム=10億分の1グラム)で適用することを発表しましたが、米国の多くの專門家は、1ナノグラムを目標値にすべきと主張しています。さらに、PFAS全体でみると、人体に危険を及ぼす物質は約5千種類あり、それら全てを考慮に入れる必要があります。
日本政府は責任とらせよ
情報公開を
泡消火剤の汚染以外にも、米軍はこれまでに数多くの汚染事故を起こしています。1995~96年、米海兵隊は鳥島射爆撃場(沖縄県久米島町)に、1520発の劣化ウラン砲弾を誤って使用しました。米軍はその後調査をしますが、わずか192発の回収で打ち切りました。
2011年、福島第1原発事故後の「トモダチ作戦」で使用した軍用車両や装備品の除染で発生した汚染水12万リットル以上を厚木基地(神奈川県)と三沢基地(青森県)の下水道に投棄したことも明らかになっています。
こうした事故のほとんどは通告されていません。私も、米軍からの文書を入手した時、これまで起こった事故の数に驚きました。漏出した化学物質をみても、ダイオキシン、放射能、枯れ葉剤などさまざまであり、基地周辺の住民だけでなく、米軍やその家族もその犠牲となっています。在日米軍幹部は人体への影響を把握しておきながら、今までずっと隠してきたのです。
イタリアやドイツなどでは、米軍との地位協定を改定して、基地内への立ち入り調査や原状回復の義務づけ、汚染除去費用を支払わせるなどして、自国内で起こる軍事公害について米軍に責任をとらせるかめの手段を試みてきました。
一方、日米地位協定の下では、立ち入り調査は米軍の判断次第となっているために、米軍は環境に対する責任を逃れています。日本政府も地位協定上の制約にあぐらをかき、対策を怠ってきました。
また、基地返還時に汚染された基地を原状回復し、補償する義務も米軍にはありません。除染に必要とされる膨大な費用は日本国民の負担となります。基地に伴う経済効果を期待する人もいますが、基地の存在は除染に伴うばく大な費用や住民の健康リスクなど、長期にわたる重い負担をもたらします。
こうした問題を解決するために、日米地位協定の改定は不可欠ですが、それ以前にできることを考えていかなければなりません。私は、①透明性(基地の汚染に関する情報の保存、公開)②米軍、日本政府の説明責任の確立③応答力(基地返還地の再開発への自治体の関与)―が大切であると考えます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年4月12日付掲載
米軍が使っている泡消火器。家庭に備えているものとは規模が違いますね。本来なら、外界に拡散させないようにしないといけないのですが、排水溝や周囲の川に流されている。
それ以外も、汚染水などが基地の外に…。
しっかり監視し、規制していることが求められます。