睡眠は人生の一部 自分に合った「眠り」を
「春眠暁を覚えず」と故事にもあるように、春は気持ち良く眠れる季節です。毎日の睡眠はどんな意味があり、どんな役割を果たしているのでしょうか。睡眠にまつわる疑問について、城北病院精神科部長・松浦健伸さんに聞きました。(栗山さつき記者)
松浦健伸さん 石川県勤労者医療協会・城北病院精神科部長
睡眠の役割
―人はなぜ眠るのですか
睡眠の主な役割は脳の休息です。また、睡眠中は脳が休むだけでなく、さまざまな効果があります。例えば、免疫機能や自律神経などを保つ働きも睡眠中に行われます。そのため、寝不足だと免疫細胞の働きが落ちます。また、記憶の保持も睡眠中に行われ、睡眠不足時の脳の注意力は酔っぱらっている状態と同じであるため、学習能力や記憶能力が落ち、ミスを起こしやすくなります。徹夜して寝不足の状態で試験を受けると、記憶の再生能力が落ちるのでお勧めできません。脳は体のエネルギーの2割を使っています。多くのエネルギーを消費するため休ませる必要があります。ですから、睡眠が思うように取れない状態が続き、日中の活動が困難な場合は、「不眠症」が疑われます。疲労が蓄積すると日常生活にも支障を来たします。一カ月以上続く場合は診察を受ける必要があります。受診する際、内科疾患が原因の場合もあるため、まずはかかりつけの医師に相談してみてください。既に指導や薬の処方を受けても改善しない場合は、心療内科、精神・神経科に相談してください。
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睡眠負債とは?
―睡眠負債という言葉をよく聞きますが、どのようなものなのでしょうか
例えば、平均7時間睡眠として、毎日6時間しか寝ないと、マイナス1時間、一週間でマイナス7時間になります。これが「睡眠負債」です。睡眠時間が不足すると無意識のうちに疲労がたまります。休日にたくさん寝て寝だめしたと考える方もいるかもしれませんが、睡眠はためることはできません。マイナスがゼロになっただけです。睡眠負債がない状態を保つことが大切です。言うまでもありませんが、毎日しっかり睡眠をとることが体にとって最もよい状態です。
―ショートスリーパーになることはできますか
ショートスリーパー(短時間睡眠者)のように短時間の睡眠で脳の機能を維持することのできる人は確かにいます。しかし、実際は適切な睡眠時間が取れないため、マイクロスリープという形で、数秒や数分の睡眠を無意識に取ることで脳の機能を維持している場合も多いようです。それまで8時間睡眠だった人が、睡眠時間を削れば、体は睡眠を求め睡眠負債はたまるので、健康に支障を来すと考えられます。素質的な背景が重要であり、鍛えればなれるのか、科学的なことは分かっていません。
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質の良い睡眠とは
―質の良い睡眠とは基本的にどのようなものでしょうか
良い睡眠とは、深い眠りであるノンレム睡眠と脳が活発に活動しているレム睡眠の両方が適度にあることが目安になります。(図版)レム睡眠はホルモンの一種であるコルチソール分泌が増え、ストレス対処するとともに、さまざまな感情を処理しているといわれています。レム睡眠がとれないと気持ちが不安定になり、ストレスをだめやすくなります。若い人が過労で突然死することがありますが、これは、寝不足でレム睡眠が削られて、睡眠中に自律神経が不安定になるためです。ですから、睡眠を一定時間確保しないといけません。
―良い睡眠のために何ができますか
睡眠には個人差がありますが、だいたい8時間ぐらいと言われています。22時や23時に寝て6時に起きると良いと考えます。また、多くの人が寝る前に行う音楽を聴いたり、スマホを見たりする睡眠習慣と呼ばれる入眠時の行動にも注意が必要です。音楽を聴いている間、脳は起きています。明るい光は眠りのホルモン分泌を抑制するため、脳が眠りにくくなります。一般的にさまざまな音や光を避けて寝やすい環境をつくることが大切です。寝具の問題が解決されて、不眠が改善されたケースはよくあります。高価なものである必要はありませんが一度見直してみてもいいと思います。
生活リズムを整えるために大切なのは太陽の光と食事と運動です。食事を取ることも体のリズムをつくる上で大事な要素です。朝、昼、夜、規則的に取ることが大事だと思います。
快眠が理想的ですが、完壁を求めすぎるとストレスがたまりますので、ほどほどに自身に合った環境を考えてみてください。
―最後に、読者へのメッセージをお願いします
睡眠もまた、日常の一部、生きている全体の中の重要な一部です。より良く生きるために、健康は目的ではなく資源であるのと同様に、自分らしく生きるための資源です。資源としての睡眠の充実を考えることを通じて、周囲の人や物事との関係をふり返り、自分らしく生きる力になればと思います。私たちの身体は睡眠中も仕事をしています。決して無駄な時間ではありません。睡眠について考えることは、自分の人生を考えることだと思います。
著書の紹介
『よりよい眠りを得るために 知っておきたい眠りの話』
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(新日本出版社)
人は一日の三分の一を眠りに費やしています。睡眠は働き方や生活習慣ともむすびついており、しかも不眠に悩む日本人の大人は二割以上。いま話題の「睡眠負債」では、「負債」がたまるほど心身に悪影響が出て、重大な疾病にもつながりかねません。眠りのしくみを知り、不眠への対処法、病気の予防に役立てます。
(新日本出版社HPより)
「民青新聞」2021年4月5日付掲載
良く「寝だめ」って事を聞きますが、日ごろの睡眠不足を休日に遅くまで寝ていて解消するってことはあっても、「寝だめ」はできないって事。
マイナス(睡眠負債)をゼロにするだけの事。
睡眠は日常の生活サイクルなので、できる限り決まった時刻までに寝ることを心掛けたいものですよね。
深夜の番組があって遅くまで起きている日はあってもね。
「春眠暁を覚えず」と故事にもあるように、春は気持ち良く眠れる季節です。毎日の睡眠はどんな意味があり、どんな役割を果たしているのでしょうか。睡眠にまつわる疑問について、城北病院精神科部長・松浦健伸さんに聞きました。(栗山さつき記者)
松浦健伸さん 石川県勤労者医療協会・城北病院精神科部長
睡眠の役割
―人はなぜ眠るのですか
睡眠の主な役割は脳の休息です。また、睡眠中は脳が休むだけでなく、さまざまな効果があります。例えば、免疫機能や自律神経などを保つ働きも睡眠中に行われます。そのため、寝不足だと免疫細胞の働きが落ちます。また、記憶の保持も睡眠中に行われ、睡眠不足時の脳の注意力は酔っぱらっている状態と同じであるため、学習能力や記憶能力が落ち、ミスを起こしやすくなります。徹夜して寝不足の状態で試験を受けると、記憶の再生能力が落ちるのでお勧めできません。脳は体のエネルギーの2割を使っています。多くのエネルギーを消費するため休ませる必要があります。ですから、睡眠が思うように取れない状態が続き、日中の活動が困難な場合は、「不眠症」が疑われます。疲労が蓄積すると日常生活にも支障を来たします。一カ月以上続く場合は診察を受ける必要があります。受診する際、内科疾患が原因の場合もあるため、まずはかかりつけの医師に相談してみてください。既に指導や薬の処方を受けても改善しない場合は、心療内科、精神・神経科に相談してください。
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睡眠負債とは?
―睡眠負債という言葉をよく聞きますが、どのようなものなのでしょうか
例えば、平均7時間睡眠として、毎日6時間しか寝ないと、マイナス1時間、一週間でマイナス7時間になります。これが「睡眠負債」です。睡眠時間が不足すると無意識のうちに疲労がたまります。休日にたくさん寝て寝だめしたと考える方もいるかもしれませんが、睡眠はためることはできません。マイナスがゼロになっただけです。睡眠負債がない状態を保つことが大切です。言うまでもありませんが、毎日しっかり睡眠をとることが体にとって最もよい状態です。
―ショートスリーパーになることはできますか
ショートスリーパー(短時間睡眠者)のように短時間の睡眠で脳の機能を維持することのできる人は確かにいます。しかし、実際は適切な睡眠時間が取れないため、マイクロスリープという形で、数秒や数分の睡眠を無意識に取ることで脳の機能を維持している場合も多いようです。それまで8時間睡眠だった人が、睡眠時間を削れば、体は睡眠を求め睡眠負債はたまるので、健康に支障を来すと考えられます。素質的な背景が重要であり、鍛えればなれるのか、科学的なことは分かっていません。
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質の良い睡眠とは
―質の良い睡眠とは基本的にどのようなものでしょうか
良い睡眠とは、深い眠りであるノンレム睡眠と脳が活発に活動しているレム睡眠の両方が適度にあることが目安になります。(図版)レム睡眠はホルモンの一種であるコルチソール分泌が増え、ストレス対処するとともに、さまざまな感情を処理しているといわれています。レム睡眠がとれないと気持ちが不安定になり、ストレスをだめやすくなります。若い人が過労で突然死することがありますが、これは、寝不足でレム睡眠が削られて、睡眠中に自律神経が不安定になるためです。ですから、睡眠を一定時間確保しないといけません。
―良い睡眠のために何ができますか
睡眠には個人差がありますが、だいたい8時間ぐらいと言われています。22時や23時に寝て6時に起きると良いと考えます。また、多くの人が寝る前に行う音楽を聴いたり、スマホを見たりする睡眠習慣と呼ばれる入眠時の行動にも注意が必要です。音楽を聴いている間、脳は起きています。明るい光は眠りのホルモン分泌を抑制するため、脳が眠りにくくなります。一般的にさまざまな音や光を避けて寝やすい環境をつくることが大切です。寝具の問題が解決されて、不眠が改善されたケースはよくあります。高価なものである必要はありませんが一度見直してみてもいいと思います。
生活リズムを整えるために大切なのは太陽の光と食事と運動です。食事を取ることも体のリズムをつくる上で大事な要素です。朝、昼、夜、規則的に取ることが大事だと思います。
快眠が理想的ですが、完壁を求めすぎるとストレスがたまりますので、ほどほどに自身に合った環境を考えてみてください。
―最後に、読者へのメッセージをお願いします
睡眠もまた、日常の一部、生きている全体の中の重要な一部です。より良く生きるために、健康は目的ではなく資源であるのと同様に、自分らしく生きるための資源です。資源としての睡眠の充実を考えることを通じて、周囲の人や物事との関係をふり返り、自分らしく生きる力になればと思います。私たちの身体は睡眠中も仕事をしています。決して無駄な時間ではありません。睡眠について考えることは、自分の人生を考えることだと思います。
著書の紹介
『よりよい眠りを得るために 知っておきたい眠りの話』
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(新日本出版社)
人は一日の三分の一を眠りに費やしています。睡眠は働き方や生活習慣ともむすびついており、しかも不眠に悩む日本人の大人は二割以上。いま話題の「睡眠負債」では、「負債」がたまるほど心身に悪影響が出て、重大な疾病にもつながりかねません。眠りのしくみを知り、不眠への対処法、病気の予防に役立てます。
(新日本出版社HPより)
「民青新聞」2021年4月5日付掲載
良く「寝だめ」って事を聞きますが、日ごろの睡眠不足を休日に遅くまで寝ていて解消するってことはあっても、「寝だめ」はできないって事。
マイナス(睡眠負債)をゼロにするだけの事。
睡眠は日常の生活サイクルなので、できる限り決まった時刻までに寝ることを心掛けたいものですよね。
深夜の番組があって遅くまで起きている日はあってもね。