経団連 「経労委報告」を読む③ 国民春闘を広げて
中央大学教授 松丸和夫さん
経団連は、以前より「春闘」という表現を避け、「春季労使交渉・協議」といい、労使協調を唱えてきました。
連合は、2022年から方針で「未来づくり春闘」を掲げ、「人への投資」の賃金引き上げを求めています。
1974年の春闘は「国民春闘」と名付けられました。物価を上回る賃上げに満足していた大企業労組に対して、年金生活者や福祉給付の受給者には春闘の恩恵はありませんでした。
今年の「経労委報告」の経営側の基本スタンスでは、それぞれ独立した項目として、「中小企業における構造的な賃上げ」と「有期雇用等社員の賃金引き上げ・処遇改善」に触れています。しかも生産性基準の考え方を、中小企業にも当てはめています。
「最低賃金を全国一律1500円に」と訴える人たち=2023年10月2日、東京都渋谷区
賃上げ阻む構造
しかし、親企業による下請けいじめの連鎖や、非正規雇用労働者の処遇格差の問題を改善せずして、構造的な賃上げは実現できません。
一般に、中小企業は大企業と比べて生産性が低いと言われています。しかし、よく見ると価格決定権を持ちにくい中小企業は、単価の切り下げや価格交渉のしわ寄せを受けやすいです。結果として中小企業の「付加価値生産性」が低く示されることこそが問題なのです。日本の市場経済に本当の「公正取引」は実現しているでしょうか。
「経労委報告」は、中小企業の賃上げに関連して「大企業においては、中小企業からの適正な価格転嫁の申し出をスムーズに受け入れる」ことが必要と述べています。あわせて、昨年11月に発表された公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」も積極的に順守する立場を表明しています。
取引改善に言及
建前としてではあれ、経団連が「発注・取引条件の改善・見直し」に言及したのは、初めてのことです。大企業の賃上げが、中小下請け企業に波及も浸透もしない日本の産業構造の変革、これこそ「国民春闘」がいまこそ求められる理由です。
さらに非正規雇用労働者の「同一労働同一賃金」の実現は、緊急の課題です。これまで正社員との格差が放置されてきた非正規雇用労働者の基本給、つまり時給の引き上げや物価手当等の新設の検討を提案しています。物価上昇の打撃が大きい低賃金労働者をもはや放置できないからです。「経労委報告」も、地域別最低賃金の近年の引き上げが非正規雇用労働者の賃金引き上げに大きな影響を与えていることは認めています。
しかし、連合が昨年末に決定した時給換算で1200円の控えめな「企業内最低賃金」要求についてさえ、他の企業全体への影響があると慎重な注意を促しています。国民春闘共闘委員会が「いますぐ1500円以上」の賃上げを要求する正当性がここにあります。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年2月10日付掲載
建前としてではあれ、経団連が「発注・取引条件の改善・見直し」に言及したのは、初めてのこと。大企業の賃上げが、中小下請け企業に波及も浸透もしない日本の産業構造の変革、これこそ「国民春闘」がいまこそ求められる理由。
中央大学教授 松丸和夫さん
経団連は、以前より「春闘」という表現を避け、「春季労使交渉・協議」といい、労使協調を唱えてきました。
連合は、2022年から方針で「未来づくり春闘」を掲げ、「人への投資」の賃金引き上げを求めています。
1974年の春闘は「国民春闘」と名付けられました。物価を上回る賃上げに満足していた大企業労組に対して、年金生活者や福祉給付の受給者には春闘の恩恵はありませんでした。
今年の「経労委報告」の経営側の基本スタンスでは、それぞれ独立した項目として、「中小企業における構造的な賃上げ」と「有期雇用等社員の賃金引き上げ・処遇改善」に触れています。しかも生産性基準の考え方を、中小企業にも当てはめています。
「最低賃金を全国一律1500円に」と訴える人たち=2023年10月2日、東京都渋谷区
賃上げ阻む構造
しかし、親企業による下請けいじめの連鎖や、非正規雇用労働者の処遇格差の問題を改善せずして、構造的な賃上げは実現できません。
一般に、中小企業は大企業と比べて生産性が低いと言われています。しかし、よく見ると価格決定権を持ちにくい中小企業は、単価の切り下げや価格交渉のしわ寄せを受けやすいです。結果として中小企業の「付加価値生産性」が低く示されることこそが問題なのです。日本の市場経済に本当の「公正取引」は実現しているでしょうか。
「経労委報告」は、中小企業の賃上げに関連して「大企業においては、中小企業からの適正な価格転嫁の申し出をスムーズに受け入れる」ことが必要と述べています。あわせて、昨年11月に発表された公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」も積極的に順守する立場を表明しています。
取引改善に言及
建前としてではあれ、経団連が「発注・取引条件の改善・見直し」に言及したのは、初めてのことです。大企業の賃上げが、中小下請け企業に波及も浸透もしない日本の産業構造の変革、これこそ「国民春闘」がいまこそ求められる理由です。
さらに非正規雇用労働者の「同一労働同一賃金」の実現は、緊急の課題です。これまで正社員との格差が放置されてきた非正規雇用労働者の基本給、つまり時給の引き上げや物価手当等の新設の検討を提案しています。物価上昇の打撃が大きい低賃金労働者をもはや放置できないからです。「経労委報告」も、地域別最低賃金の近年の引き上げが非正規雇用労働者の賃金引き上げに大きな影響を与えていることは認めています。
しかし、連合が昨年末に決定した時給換算で1200円の控えめな「企業内最低賃金」要求についてさえ、他の企業全体への影響があると慎重な注意を促しています。国民春闘共闘委員会が「いますぐ1500円以上」の賃上げを要求する正当性がここにあります。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年2月10日付掲載
建前としてではあれ、経団連が「発注・取引条件の改善・見直し」に言及したのは、初めてのこと。大企業の賃上げが、中小下請け企業に波及も浸透もしない日本の産業構造の変革、これこそ「国民春闘」がいまこそ求められる理由。