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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

資本主義の病巣 日本をカットした日産① 「死ぬ気でやれ」と叱責

2019-01-22 13:22:35 | 経済・産業・中小企業対策など
資本主義の病巣 日本をカットした日産① 「死ぬ気でやれ」と叱責
1月1日午前0時。除夜の鐘の音が東京拘置所を包みました。外気は冷たく、気温は3度。面会所出入口の前を、初詣に向かう住民が歩いていきます。「カリスマ経営者」と持ち上げられた日産自動車のカルロス・ゴーン前会長はそのとき、拘置所の単独房で年を越しました。
前会長の逮捕、起訴。社史に類例のない大事件に日産は揺れています。



カルロス・ゴーン被告が年を越した東京拘置所=1月1日午前0時、東京都葛飾区

1日12時間働く
「コストカッター」の異名をとるゴーン被告がカットしたのは日本でした。日本の労働者を減らし、日本の工場を閉鎖していきました。人員が減った工場の労働環境は凄惨を極めるようになりました。
「最近玉の出(生産効率)が悪い。死ぬ気でやって下さい」
「2、3人死んでもいいので頑張って」
業務状況を共有するための「申し送り帳」に日産横浜工場の工長(作業責任者)や班リーダーは悲鳴のような叱咤激励を書き記しました。岡田知明さん(44)も、生産目標を達成できない日には決まって「死ぬ気でやれ」と叱られました。腰と膝を壊して階段を上るのもつらくなり、派遣切りのストレスで睡眠薬を手放せなくなりました。
2004年9月から3年半、派遣社員として働きました。車の足回りの製造ラインで溶接設備に部品を設置するのが仕事でした。
繁忙期の労働時間は1日12時間に及びました。ノルマを達成しないと帰れない。休憩時間はかろうじて水分補給ができる程度しかとれず、座ることもできませんでした。

機械で指を切断
08年には従業員が指を切断しました。ラインを流れる不良品を取り除こうとして機械に手を挟んだのです。
「とんでもない騒ぎになっている」
当時の申し送り帳は現場の動揺を伝えています。ラインを止めてから不良品を処理するという原則を逸脱したのが事故の原因でした。「時間のロスを恐れたのでしょう」と岡田さんは指摘します。
ゴーン前会長が追求したのは「株主資本主義」でした。人件費を中心に「コスト」を削減し、増えた利益を株主に回す、株主最優先のやり方です。経営者兼株主として自ら利益をむさぼったゴーン前会長は今、被告の立場に転落しました。労働者と下請け企業が血と汗で築き上げた「日産ブランド」を地に落としました。
「検査不正やゴーンの問題で、日産の信用は失墜してしまいました。労働者をもの扱いして人減らしをしたのは大失敗です」。岡田さんは静かに語ります。
2008年2月に雇い止めされるまで3年半。岡田知明さん(44)が勤めた日産自動車横浜工場に安全管理という発想はありませんでした。危険と隣り合わせの日常でした。
08年の申し送り帳には火災を報告する複数の記述が残っています。
「朝からダクト焼け消火器2本使用で大騒ぎ」
「煙上がりました。火元わからず」
溶接設備からは有毒なガスや油を含む煙が出ます。しかし、有毒ガスを外に逃がすダクトや溶接設備の周辺にはスプレー缶、油などの可燃物が散乱していました。納期に追われ、十分な清掃時間をとれなかったためです。
「すごく汚いのが常でした」と岡田さんは話します。「設備トラブルで生産が停止したときでもなければ掃除できませんでした」
火災は社内間題となり、上司による監視が強化されました。しかし行われた対策は隠ぺいでした。
「本日パトロールあり。油などかくしてあります」
申し送り帳には防災担当者の視察の前に慌てて可燃物を隠した記録があります。納期が優先され、労働者の安全は無視されたのです。



カルロス・ゴーン被告が「日産改革」の象徴としてレバノン在住の芸術家につくらせたモニュメント=日産自動車本社(横浜市)

株主配当 20年で8倍
国内生産が激減
ゴーン被告が遂行したコストカット戦略の中核には生産の海外移転がありました。連結会社の国内従業員は過去17年間で2割減少。海外従業員は2・1倍に急増しました。国内生産台数は1983年に約247万台でしたが、2017年には99万台にまで落ち込みました。低コストの外国を利用し、先頭を切って日本に自動車産業の空洞化の危機をもたらしたのが日産でした。
こうした「ゴーン流経営」の責任を負うのはゴーン被告一人ではありません。日産経営陣が一丸となって立案し推進した経営戦略だったのです。
実行役を担ったのは西川広人社長や志賀俊之元最高執行責任者(COO)でした。志賀氏の役割は「コスト削減」など「ビジネスプランの実行を監督すること」(「アニュアルレポート2005」)でした。西川氏は13年からコスト管理の責任者を務め、人件費や原材料調達を含む自動車1台あたりのコストを削減する方針を掲げました。過度な経費削減方針によって日産は、派遣切りを繰り返し、労働者を消耗品のように扱う企業に変容しました。
一方、日産の株主への配当金は過去20年間で約8倍に増えました。日産、ルノー、三菱自動車の3社からゴーン被告が受け取った役員報酬と配当金は、過去5年間で総額約113億円。さらに毎年約10億円の役員報酬を隠していた疑いで逮捕されました。



日産自動車のカルロス・ゴーン前会長と安倍晋三官房長官(当時)が対談する「産経」の記事(2006年1月1日付)

リストラし減税
株主の利益のために労働者を犠牲にする―。典型的な株主資本主義の経営手法は、日本政府が推奨したやり方でした。
株主資本主義を助長させた代表的な政策は、1999年に成立した産業活力再生特別措置法(産活法)です。企業のリストラを税制面・金融面で直接支援する法律です。支援を受けるための認定基準には株主資本利益率(ROE)の向上が盛り込まれました。
ROEは株主が払った資本金(株主資本)に対してどれだけの利益があがったかを示す数値です。1株あたりの利益があがれば、株主への配当金を増やすことができ、株が買われて株価も上昇するという理屈です。
株主の配当益と売買益を最大化するために、大企業は次々と大規模なリストラを行いました。
同法によるリストラ支援を日産も享受しました。日本共産党国会議員団の調査によると、2012年6月までに日産は少なくとも約6・2億円の減税措置を受けました。その上、1999年には産活法の前身である事業革新法を活用し、ルノーからの増資にかかる税金を約10・3億円減らしたのです。
安倍晋三首相も日産のリストラを絶賛しました。内閣官房長官当時の2006年1月1日に産経新聞でゴーン被告と対談。ゴーン被告の実績を天まで持ち上げました。
「ゴーンさんが果たされた役割は大変大きいと思いますよ。日産はルノーと提携し、ゴーンさんが来て、その結果、会社は活性化し、存続し、雇用も守られた」
「ゴーンさんの出現によりわれわれの認識は変わったように感じます」
東京地検特捜部は11日、ゴーン前会長の起訴に踏み切りました。起訴内容は、会社に私的な損失を与えたとする会社法違反と、有価証券報告書に虚偽記載をしたとする金融商品取引法違反です。ゴーン被告による会社私物化が争点になるもようです。
(つづく)(7回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2019年1月20日付掲載


日産自動車のカルロス・ゴーン前会長。「コストカッター」の異名を持つという。コストカットといってもカットしたのは生身の人間。
そして、日産の経営陣が一緒になって推進した。

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