中小企業と賃上げ① アトキンソン氏の「発見」とは
歴史的な物価高騰が国民生活を襲うなか、労働者の7割が勤務する中小企業での賃金引き上げが課題になっています。2023年2月に中小企業経営者を対象に中小企業の実態や必要な支援策について共同で調査した村上英吾・日本大学教授、中澤秀一・静岡県立大学准教授、小澤薫・新潟県立大学准教授に、政府の中小企業政策の問題点と対抗策について寄稿してもらいました。
日本大学教授 村上英吾さん
岸田文雄前政権は、デフレからの完全脱却には物価上昇を上回る賃上げの実現が必要だとして、財界への賃上げ要請や最低賃金の引き上げ、賃金や原材料価格の「適切な転嫁」が可能な環境の整備など、一見すると労働者や中小零細事業者の要求に沿うような政策を打ち出している面もありました。
中小企業を淘汰
しかし、「非効率な中小企業」を淘汰(とうた)し、生産性を高めるべきだという菅義偉政権(20年9月~21年10月)以来の政策基調自体は変わりません。新たに発足した石破茂政権でも変わらないでしょう。
菅元首相のブレーンの一人とされたデービツド・アトキンソン氏は、日本の経済成長を実現するためには生産性の低い中小企業を淘汰し、大企業比率を高めることが必要だと主張しました。
同氏は、経済協力開発機構(OECD)のデータで、従業員数20人未満の企業に勤める人の割合(小企業比率)と生産性、250人以上の企業に勤める人の割合(大企業比率)と生産性の関係を示すグラフを示し、「小さな規模で働く労働者の割合が高い国は生産性が低くなって、逆に小さな規模で働く労働者の割合が低い国は、生産性も高くなるというきわめてシンプル」な関係があると述べています。同氏はこれを「奇跡的な発見だと自負」し、企業の「統合」による大規模化を勧めます(同氏著『国運の分岐点』)。
アトキンソン氏の著書に掲載された二つのグラフ。上のグラフは二つの折れ線グラフでつくられているが、下のグラフは折れ線グラフと棒グラフの組み合わせ。比較対象国も、上のグラフのニュージーランドとフランスが、下のグラフではフィンランドとオーストラリアに替わっている
恣意的なグラフ
同氏が示したグラフには「OECDのデータより筆者作成」との注意書きがあります。しかし、よく見るとOECD加盟38力国のうち14力国だけが抽出されており、しかも小企業比率のグラフと大企業比率のグラフで抽出国が一部異なっていたり、一方は2本の折れ線グラフなのにもう一方は棒グラフと折れ線グラフの組み合わせとなっていたり、と恣意(しい)的な印象を受けます。
これが本当に「奇跡的な発見」と言えるのでしょうか。アトキンソン氏と同様、OECDの統計を用いて検証しました。
(つづく)(8回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月30日付掲載
菅元首相のブレーンの一人とされたデービツド・アトキンソン氏は、日本の経済成長を実現するためには生産性の低い中小企業を淘汰し、大企業比率を高めることが必要だと主張。
同氏が示したグラフには「OECDのデータより筆者作成」との注意書きが。しかし、よく見るとOECD加盟38力国のうち14力国だけが抽出されており、しかも小企業比率のグラフと大企業比率のグラフで抽出国が一部異なっていたり、一方は2本の折れ線グラフなのにもう一方は棒グラフと折れ線グラフの組み合わせとなっていたり、と恣意(しい)的な印象を。
これが本当に「奇跡的な発見」と言えるのでしょうか。
歴史的な物価高騰が国民生活を襲うなか、労働者の7割が勤務する中小企業での賃金引き上げが課題になっています。2023年2月に中小企業経営者を対象に中小企業の実態や必要な支援策について共同で調査した村上英吾・日本大学教授、中澤秀一・静岡県立大学准教授、小澤薫・新潟県立大学准教授に、政府の中小企業政策の問題点と対抗策について寄稿してもらいました。
日本大学教授 村上英吾さん
岸田文雄前政権は、デフレからの完全脱却には物価上昇を上回る賃上げの実現が必要だとして、財界への賃上げ要請や最低賃金の引き上げ、賃金や原材料価格の「適切な転嫁」が可能な環境の整備など、一見すると労働者や中小零細事業者の要求に沿うような政策を打ち出している面もありました。
中小企業を淘汰
しかし、「非効率な中小企業」を淘汰(とうた)し、生産性を高めるべきだという菅義偉政権(20年9月~21年10月)以来の政策基調自体は変わりません。新たに発足した石破茂政権でも変わらないでしょう。
菅元首相のブレーンの一人とされたデービツド・アトキンソン氏は、日本の経済成長を実現するためには生産性の低い中小企業を淘汰し、大企業比率を高めることが必要だと主張しました。
同氏は、経済協力開発機構(OECD)のデータで、従業員数20人未満の企業に勤める人の割合(小企業比率)と生産性、250人以上の企業に勤める人の割合(大企業比率)と生産性の関係を示すグラフを示し、「小さな規模で働く労働者の割合が高い国は生産性が低くなって、逆に小さな規模で働く労働者の割合が低い国は、生産性も高くなるというきわめてシンプル」な関係があると述べています。同氏はこれを「奇跡的な発見だと自負」し、企業の「統合」による大規模化を勧めます(同氏著『国運の分岐点』)。
アトキンソン氏の著書に掲載された二つのグラフ。上のグラフは二つの折れ線グラフでつくられているが、下のグラフは折れ線グラフと棒グラフの組み合わせ。比較対象国も、上のグラフのニュージーランドとフランスが、下のグラフではフィンランドとオーストラリアに替わっている
恣意的なグラフ
同氏が示したグラフには「OECDのデータより筆者作成」との注意書きがあります。しかし、よく見るとOECD加盟38力国のうち14力国だけが抽出されており、しかも小企業比率のグラフと大企業比率のグラフで抽出国が一部異なっていたり、一方は2本の折れ線グラフなのにもう一方は棒グラフと折れ線グラフの組み合わせとなっていたり、と恣意(しい)的な印象を受けます。
これが本当に「奇跡的な発見」と言えるのでしょうか。アトキンソン氏と同様、OECDの統計を用いて検証しました。
(つづく)(8回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月30日付掲載
菅元首相のブレーンの一人とされたデービツド・アトキンソン氏は、日本の経済成長を実現するためには生産性の低い中小企業を淘汰し、大企業比率を高めることが必要だと主張。
同氏が示したグラフには「OECDのデータより筆者作成」との注意書きが。しかし、よく見るとOECD加盟38力国のうち14力国だけが抽出されており、しかも小企業比率のグラフと大企業比率のグラフで抽出国が一部異なっていたり、一方は2本の折れ線グラフなのにもう一方は棒グラフと折れ線グラフの組み合わせとなっていたり、と恣意(しい)的な印象を。
これが本当に「奇跡的な発見」と言えるのでしょうか。
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