「資産所得倍増」を考える① 公約をすりかえて
いま放送中のNHKの朝のドラマ「ちむどんどん」には、沖縄の日本復帰の際のドルと円との交換をネタにして、「金を預ければ倍にして返す」と純朴な青年をだまして大金をまきあげる詐欺師が登場します。岸田文雄首相が提唱する「資産所得倍増」というスローガンを聞いて、このドラマを思い出したのは、私だけでしょうか。
(日本共産党政策委員会 垣内亮)
岸田政権の「新しい資本主義実行計画」(7日に閣議決定)には、「貯蓄から投資のための『資産所得倍増プラン』の策定」と題した項目が、目玉政策として盛り込まれました。
その内容は以下のようなものです。
「わが国個人の金融資産2000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されて」おり、「家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向か」うことが必要である。
「このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る」などの内容を含めて、「本年末に総合的な『資産所得倍増プラン』を策定する」―。
経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議の合同会議に出席する岸田首相(手前右から2人目)=6月7日、東京都内(首相官邸のホームページから)
総裁選の政策は
岸田首相が昨年の自民党総裁選の際に掲げたのは、「中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる『令和版所得倍増』を目指す」(総裁選出馬の際の公表文書)という政策でした。「所得倍増」は1960年代に池田勇人内閣が掲げた政策です。岸田氏は、自らの派閥である宏池会の創設者である池田氏にあやかりたかったのでしょう。
ところが、総裁選が終わると、目玉として主張していた「金融所得課税の見直し」もさっさと棚上げするなど、政策の後退がはじまりました。それでも岸田氏は昨年まで、「令和版所得倍増」は「一部ではなくして、広く、多くの皆さんの所得を全体として引き上げる」ものだと説明していました。そのための施策としても、「下請け対策等の働く人への分配機能の強化」「看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入の増加」「子育て世帯の教育費や住居費支援の強化」などをあげていました。(10月12日の国会答弁)
倍でも0.2%増に
ところが、それから半年が過ぎたいま、「令和版所得倍増」は、いつの間にか「資産所得倍増」にすりかわってしまいました。「所得倍増」を掲げたものの実現の見通しが示せないため、「資産所得倍増」にすりかえてごまかそうというのです。
「資産所得倍増」は、「所得倍増」や「資産倍増」と似ていますが、まったく違います。
第一に、「所得倍増」ならば、「年収100万円の人は200万円に」「年収200万円の人は400万円に」というように、みんなの所得が増えます。これに対して「資産所得」を得られるのは資産を持っている人に限られます。株式配当や預金利子などの金融資産から生じる所得や、家賃や地代などの不動産から生じる所得だからです。「資産所得」が倍増しても、「一部ではなくして、広く、多くの皆さん」の所得が増えることにはなりません。
第二に、資産が多少あったとしても、そこから毎年得られる「資産所得」は、資産額そのものに比べて小さなものです。「資産自体が倍増」するならともかく、「資産所得が倍増」したからといって、「家計が豊かになる」ほどのものではありません。実際、総務省の「家計調査」によれば、単身者を含む平均的な勤労者世帯(年収5分位別の第3分位)では、年間実収入575万円に対して、「資産所得」に相当する「財産収入」は年間1万128円にすぎません。これが「倍増」したとしても、年収が0・2%増えるだけです。物価がちょっと上がれば吹き飛んでしまいます。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年6月15日付掲載
「わが国個人の金融資産2000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されて」おり、「家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向か」うことが必要。
「このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る」などの内容を含めて、「本年末に総合的な『資産所得倍増プラン』を策定する」―。
僕も、定期預金・定額預金の切替、個人向け国債の購入の際に、窓口でNISAなどの投資をしつこく勧誘されます。
実際、総務省の「家計調査」によれば、単身者を含む平均的な勤労者世帯(年収5分位別の第3分位)では、年間実収入575万円に対して、「資産所得」に相当する「財産収入」は年間1万128円にすぎません。これが「倍増」したとしても、年収が0・2%増えるだけ。
額面の利率に惑わされてはいけないでしょうね。
いま放送中のNHKの朝のドラマ「ちむどんどん」には、沖縄の日本復帰の際のドルと円との交換をネタにして、「金を預ければ倍にして返す」と純朴な青年をだまして大金をまきあげる詐欺師が登場します。岸田文雄首相が提唱する「資産所得倍増」というスローガンを聞いて、このドラマを思い出したのは、私だけでしょうか。
(日本共産党政策委員会 垣内亮)
岸田政権の「新しい資本主義実行計画」(7日に閣議決定)には、「貯蓄から投資のための『資産所得倍増プラン』の策定」と題した項目が、目玉政策として盛り込まれました。
その内容は以下のようなものです。
「わが国個人の金融資産2000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されて」おり、「家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向か」うことが必要である。
「このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る」などの内容を含めて、「本年末に総合的な『資産所得倍増プラン』を策定する」―。
経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議の合同会議に出席する岸田首相(手前右から2人目)=6月7日、東京都内(首相官邸のホームページから)
総裁選の政策は
岸田首相が昨年の自民党総裁選の際に掲げたのは、「中間層の拡大に向け、分配機能を強化し、所得を引き上げる『令和版所得倍増』を目指す」(総裁選出馬の際の公表文書)という政策でした。「所得倍増」は1960年代に池田勇人内閣が掲げた政策です。岸田氏は、自らの派閥である宏池会の創設者である池田氏にあやかりたかったのでしょう。
ところが、総裁選が終わると、目玉として主張していた「金融所得課税の見直し」もさっさと棚上げするなど、政策の後退がはじまりました。それでも岸田氏は昨年まで、「令和版所得倍増」は「一部ではなくして、広く、多くの皆さんの所得を全体として引き上げる」ものだと説明していました。そのための施策としても、「下請け対策等の働く人への分配機能の強化」「看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入の増加」「子育て世帯の教育費や住居費支援の強化」などをあげていました。(10月12日の国会答弁)
倍でも0.2%増に
ところが、それから半年が過ぎたいま、「令和版所得倍増」は、いつの間にか「資産所得倍増」にすりかわってしまいました。「所得倍増」を掲げたものの実現の見通しが示せないため、「資産所得倍増」にすりかえてごまかそうというのです。
「資産所得倍増」は、「所得倍増」や「資産倍増」と似ていますが、まったく違います。
第一に、「所得倍増」ならば、「年収100万円の人は200万円に」「年収200万円の人は400万円に」というように、みんなの所得が増えます。これに対して「資産所得」を得られるのは資産を持っている人に限られます。株式配当や預金利子などの金融資産から生じる所得や、家賃や地代などの不動産から生じる所得だからです。「資産所得」が倍増しても、「一部ではなくして、広く、多くの皆さん」の所得が増えることにはなりません。
第二に、資産が多少あったとしても、そこから毎年得られる「資産所得」は、資産額そのものに比べて小さなものです。「資産自体が倍増」するならともかく、「資産所得が倍増」したからといって、「家計が豊かになる」ほどのものではありません。実際、総務省の「家計調査」によれば、単身者を含む平均的な勤労者世帯(年収5分位別の第3分位)では、年間実収入575万円に対して、「資産所得」に相当する「財産収入」は年間1万128円にすぎません。これが「倍増」したとしても、年収が0・2%増えるだけです。物価がちょっと上がれば吹き飛んでしまいます。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年6月15日付掲載
「わが国個人の金融資産2000兆円のうち、その半分以上が預金・現金で保有されて」おり、「家計が豊かになるために家計の預金が投資にも向か」うことが必要。
「このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充を図る」などの内容を含めて、「本年末に総合的な『資産所得倍増プラン』を策定する」―。
僕も、定期預金・定額預金の切替、個人向け国債の購入の際に、窓口でNISAなどの投資をしつこく勧誘されます。
実際、総務省の「家計調査」によれば、単身者を含む平均的な勤労者世帯(年収5分位別の第3分位)では、年間実収入575万円に対して、「資産所得」に相当する「財産収入」は年間1万128円にすぎません。これが「倍増」したとしても、年収が0・2%増えるだけ。
額面の利率に惑わされてはいけないでしょうね。
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