危機の経済 識者は語る② 「内部留保の出番」
前駒澤大学教授 小栗崇資さん
上場企業が3月期決算の発表をしていますが、新型コロナの影響で多くの企業の業績が悪化しています。20年1~3月期では上場会社4社に1社が最終赤字となり、通期では純利益は前期比28%減です。東日本大震災以来の大幅な業績悪化です。
そうした業績悪化の中で影響の大きい航空業界や観光、ホテル、サービス業界の中には、経営が困難になり資金の借り入れに動く企業も出てきており、コロナ危機が企業の財務構造を直撃しています。
積み上がった内部留保と資金の関係はどうでしょうか。図は、大企業の内部留保(利益剰余金)、投資有価証券(長期)、有価証券(短期)、現金・預金の推移を示したものです。
2000年を前後して、利益剰余金と投資有価証券が急増し、08年以降は現金・預金も上昇しています。内部留保が長短の有価証券や現金・預金の蓄積に向けられていることは一目瞭然です。
手元資金潤沢
現金・預金と売却可能な有価証券を合わせたものが、手元流動性という支払い能力を表す指標ですが、図の現金・預金と短期の有価証券はそれに相当します。さらに長期の投資有価証券の中にも売却可能なものが含まれています。日本経済新聞(4月24日付)によれば、日本の上場企業の手元流動性が総資産に占める比率は過去最高の12%で、世界の企業の6%の2倍にものぼるといいます。企業や業種によって明暗はありますが、全体としてみれば日本の大企業の手元資金は潤沢であると見なければなりません。
内部留保を蓄えてきた大企業ですが、それを取り崩さずに資金繰りのために金融機関からの借り入れを行おうとする傾向も見られます。トヨタは分厚い内部留保のもとに多くの金融資産を保有しているにもかかわらず、三井住友や三菱UFJから資金の借入枠1兆円の契約を結びました。また日銀も社債やコマーシャルペーパーを無制限に購入することを明らかにしており、多くの企業が内部留保に手を付けずに借り入れで資金を動かそうとしています。
この間の内部留保の激増は、1990年代不況の体験やグローバリゼーションへの危機感から生まれたともいわれており、コロナ危機の中でこそ内部留保の出番が求められているといわねばなりません。
配分し直しを
内部留保の厚い企業はコロナ危機の中でも、それを乗り越える力を蓄えており、内部留保を労働者の給付や雇用、下請け企業への支援に活用する力をもっています。
そもそも大企業の内部留保の大半はすでに見たように、人件費の削減や法人税減税から生まれたもので、90年代後半から新自由主義的な政策のもとにつくられたものです。それは富の一方的な蓄積を生み、富の偏在による格差社会をもたらすものとなりました。ゆがんだ形で積み上がった富を、コロナ危機の中で配分し直すことが求められています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年6月10日付掲載
経済連や大企業は、「内部留保といってもいますぐ使える現金があるわけではない」とよく言っていましたが、日本の企業はその今すぐ使えるお金の比率が高まっている。
コロナ禍のもと、雇用維持のためにいまこそ「内部留保」の活用ですね。
前駒澤大学教授 小栗崇資さん
上場企業が3月期決算の発表をしていますが、新型コロナの影響で多くの企業の業績が悪化しています。20年1~3月期では上場会社4社に1社が最終赤字となり、通期では純利益は前期比28%減です。東日本大震災以来の大幅な業績悪化です。
そうした業績悪化の中で影響の大きい航空業界や観光、ホテル、サービス業界の中には、経営が困難になり資金の借り入れに動く企業も出てきており、コロナ危機が企業の財務構造を直撃しています。
積み上がった内部留保と資金の関係はどうでしょうか。図は、大企業の内部留保(利益剰余金)、投資有価証券(長期)、有価証券(短期)、現金・預金の推移を示したものです。
2000年を前後して、利益剰余金と投資有価証券が急増し、08年以降は現金・預金も上昇しています。内部留保が長短の有価証券や現金・預金の蓄積に向けられていることは一目瞭然です。
手元資金潤沢
現金・預金と売却可能な有価証券を合わせたものが、手元流動性という支払い能力を表す指標ですが、図の現金・預金と短期の有価証券はそれに相当します。さらに長期の投資有価証券の中にも売却可能なものが含まれています。日本経済新聞(4月24日付)によれば、日本の上場企業の手元流動性が総資産に占める比率は過去最高の12%で、世界の企業の6%の2倍にものぼるといいます。企業や業種によって明暗はありますが、全体としてみれば日本の大企業の手元資金は潤沢であると見なければなりません。
内部留保を蓄えてきた大企業ですが、それを取り崩さずに資金繰りのために金融機関からの借り入れを行おうとする傾向も見られます。トヨタは分厚い内部留保のもとに多くの金融資産を保有しているにもかかわらず、三井住友や三菱UFJから資金の借入枠1兆円の契約を結びました。また日銀も社債やコマーシャルペーパーを無制限に購入することを明らかにしており、多くの企業が内部留保に手を付けずに借り入れで資金を動かそうとしています。
この間の内部留保の激増は、1990年代不況の体験やグローバリゼーションへの危機感から生まれたともいわれており、コロナ危機の中でこそ内部留保の出番が求められているといわねばなりません。
配分し直しを
内部留保の厚い企業はコロナ危機の中でも、それを乗り越える力を蓄えており、内部留保を労働者の給付や雇用、下請け企業への支援に活用する力をもっています。
そもそも大企業の内部留保の大半はすでに見たように、人件費の削減や法人税減税から生まれたもので、90年代後半から新自由主義的な政策のもとにつくられたものです。それは富の一方的な蓄積を生み、富の偏在による格差社会をもたらすものとなりました。ゆがんだ形で積み上がった富を、コロナ危機の中で配分し直すことが求められています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年6月10日付掲載
経済連や大企業は、「内部留保といってもいますぐ使える現金があるわけではない」とよく言っていましたが、日本の企業はその今すぐ使えるお金の比率が高まっている。
コロナ禍のもと、雇用維持のためにいまこそ「内部留保」の活用ですね。
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