課税新時代② 利益移転に歯止め
政治経済研究所理事 合田寛さんに聞く
米財務省のイエレン長官は4月はじめ、シカゴ国際問題評議会で行われた就任後初めての演説で、世界的な法人税の引き下げ競争をやめ、法人税の最低税率を設定する国際協調が必要だと述べました。
基本的な公共財に投資して危機に備えるために、十分な財源を確保する安定的な税のシステムをつくらなければならず、国際的な合意は可能だというのです。
ホワイトハウスでバイデン大統領との経済説明会に出席するイエレン財務長官=3月5日、ワシントン(ロイター)
税率下げ競争で
これまで数十年にわたって、各国は自国に投資を呼び込むために、税率の引き下げを競ってきました。2000年に経済協力開発機構(OECD)諸国平均で32・2%だった法人税率は、その後も下がり続け、20年には23・3%になっています。税の競争はとどまることを知らず、破局的な「底辺への競争」を招いています。
米国はこれまで国際的な税率引き下げ競争の先頭グループを走っていました。しかし新税制プランは方針を百八十度転換し、世界共通の最低税率を定める国際的取り組みに復帰することを宣言したのです。
いま20カ国・地域(G20)とOECDが主導し、約140力国が参加する「包摂的枠組み」の下で、国際的課税ルールを刷新する取り組みが進行しています。昨年10月にまとめられた「ブループリント」(青写真)は二つの柱からなります。
第1の柱は、多国籍企業の低税率国への利益移転を抑えるために、現行のルールを刷新することです。現行ルールは①工場など固定的施設がなければ外国企業に課税しない「恒久的施設(PE)原則」②企業のグループ内取引で任意の価格設定による利益移転を認める「アームズレングス原則」―にもとついています。これを改め、多国籍企業グループの総利益を「売上高」にもとついて各国に配分する新課税権を創出するというものです。
第2の柱は、税率引き下げ競争に歯止めをかけるために、国際的最低税率を設定するというものです。
この取り組みは、当初、昨年宋までに国際的合意を得るスケジュールで進んでいましたが、米国が交渉から離脱し、決着は今年中ごろに延期されていました。米国の復帰は歓迎されます。
二つの柱のうち、第1の柱は1世紀前から続く現行国際ルールの原則を変えるものなので、国際合意が困難です。しかし第2の柱は関係国の合意さえあれば実現できるもので、租税条約を改定する必要もありません。最低税率の合意が実現すれば、多国籍企業から利益移転の誘因を取り除くことができます。
もともと米国には「ギルティ」という第2の柱に相当する独自の制度があり、これを強化すれば国際的に合意できる最低税率の国際的システムがつくれるはずです。
二つの方法示す
しかしここにも乗り越えなければならない課題があります。
OECD「包摂的枠組み」の下で昨年秋に合意されたブループリントは、第2の柱に関して二つの課税方法を示しています。
一つは「所得合算ルール」です。これは多国籍企業が利益を低税率国に移した場合、その利益を親企業の所得に合算して最低税率までの税を支払わせるというもので、企業の母国が課税することになります。
もう一つは「軽課税支払いルール」で、グループ内企業への金利などの支払いに対する課税が最低税率に満たなければ、控除を否定したり、源泉課税するというもので、利益が生まれた国が課税します。
ブループリントでは第1のルールを優先し、第2のルールは補完的なものと位置付けています。しかしそれでは企業の母国が有利となり、経済活動が行われた場所で課税するという目的に合致しません。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大企業の多くは米国を母国としていることから、米国が増収分を先取りしてしまうことになります。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月28日付掲載
世界的な税率引き下げ競争から脱却して、国際的に最低税率を定める。
多国籍企業が利益を低税率国に移した場合でも、せめて最低税率の税金は支払わせる仕組みを。
政治経済研究所理事 合田寛さんに聞く
米財務省のイエレン長官は4月はじめ、シカゴ国際問題評議会で行われた就任後初めての演説で、世界的な法人税の引き下げ競争をやめ、法人税の最低税率を設定する国際協調が必要だと述べました。
基本的な公共財に投資して危機に備えるために、十分な財源を確保する安定的な税のシステムをつくらなければならず、国際的な合意は可能だというのです。
ホワイトハウスでバイデン大統領との経済説明会に出席するイエレン財務長官=3月5日、ワシントン(ロイター)
税率下げ競争で
これまで数十年にわたって、各国は自国に投資を呼び込むために、税率の引き下げを競ってきました。2000年に経済協力開発機構(OECD)諸国平均で32・2%だった法人税率は、その後も下がり続け、20年には23・3%になっています。税の競争はとどまることを知らず、破局的な「底辺への競争」を招いています。
米国はこれまで国際的な税率引き下げ競争の先頭グループを走っていました。しかし新税制プランは方針を百八十度転換し、世界共通の最低税率を定める国際的取り組みに復帰することを宣言したのです。
いま20カ国・地域(G20)とOECDが主導し、約140力国が参加する「包摂的枠組み」の下で、国際的課税ルールを刷新する取り組みが進行しています。昨年10月にまとめられた「ブループリント」(青写真)は二つの柱からなります。
第1の柱は、多国籍企業の低税率国への利益移転を抑えるために、現行のルールを刷新することです。現行ルールは①工場など固定的施設がなければ外国企業に課税しない「恒久的施設(PE)原則」②企業のグループ内取引で任意の価格設定による利益移転を認める「アームズレングス原則」―にもとついています。これを改め、多国籍企業グループの総利益を「売上高」にもとついて各国に配分する新課税権を創出するというものです。
第2の柱は、税率引き下げ競争に歯止めをかけるために、国際的最低税率を設定するというものです。
この取り組みは、当初、昨年宋までに国際的合意を得るスケジュールで進んでいましたが、米国が交渉から離脱し、決着は今年中ごろに延期されていました。米国の復帰は歓迎されます。
二つの柱のうち、第1の柱は1世紀前から続く現行国際ルールの原則を変えるものなので、国際合意が困難です。しかし第2の柱は関係国の合意さえあれば実現できるもので、租税条約を改定する必要もありません。最低税率の合意が実現すれば、多国籍企業から利益移転の誘因を取り除くことができます。
もともと米国には「ギルティ」という第2の柱に相当する独自の制度があり、これを強化すれば国際的に合意できる最低税率の国際的システムがつくれるはずです。
二つの方法示す
しかしここにも乗り越えなければならない課題があります。
OECD「包摂的枠組み」の下で昨年秋に合意されたブループリントは、第2の柱に関して二つの課税方法を示しています。
一つは「所得合算ルール」です。これは多国籍企業が利益を低税率国に移した場合、その利益を親企業の所得に合算して最低税率までの税を支払わせるというもので、企業の母国が課税することになります。
もう一つは「軽課税支払いルール」で、グループ内企業への金利などの支払いに対する課税が最低税率に満たなければ、控除を否定したり、源泉課税するというもので、利益が生まれた国が課税します。
ブループリントでは第1のルールを優先し、第2のルールは補完的なものと位置付けています。しかしそれでは企業の母国が有利となり、経済活動が行われた場所で課税するという目的に合致しません。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大企業の多くは米国を母国としていることから、米国が増収分を先取りしてしまうことになります。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年4月28日付掲載
世界的な税率引き下げ競争から脱却して、国際的に最低税率を定める。
多国籍企業が利益を低税率国に移した場合でも、せめて最低税率の税金は支払わせる仕組みを。
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