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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

金融と新自由主義④ 異次元緩和のリスク

2022-02-18 06:59:17 | 経済・産業・中小企業対策など
金融と新自由主義④ 異次元緩和のリスク
群馬大学名誉教授 山田博文さん

―新自由主義が掲げる「自由」は欺隔(ぎまん)的ですね。
資本の自由を拡大して搾取を強める新自由主義は、人民の自由や権利と敵対します。その本質を見せつけた出来事があります。

チリを実験国に
米シカゴ大学で新自由主義の代表的学者ミルトン・フリードマン(1912~2006)の教えを受けた経済学者はシカゴ・ポーイズと呼ばれました。彼らは1973年、アジェンデ政権を軍事クーデターで倒したピノチェト独裁政権下で、チリを新自由主義改革の実験国にしました。
共産党と社会党を中心とする人民連合に支えられ、民主的な選挙で誕生したアジェンデ政権は、外資を含む大企業の国有化を進め、選挙を通じた社会主義建設をめざしました。しかし、米国の中央情報局(CIA)の支援を受けたピノチェト将軍がクーデターを起こし、大統領府を爆撃し、アジェンデ政権を倒しました。そのニュースが流れたとき、シカゴ・ポーイズは学内で歓声をあげました。宇沢弘文(1928~2014)はそれを目撃して激怒し、「以後一切シカゴ大学とは関係しないと決意した」と、後年語りました。
ピノチェト政権は、新自由主義的な民営化・規制緩和を進めると同時に、多数の労働組合員や市民活動家を虐殺しました。このチリの悲劇には、米国の支配と新自由主義の本性が現れています。
―フリードマンの経済学はマネタリズムとも呼ばれます。
中央銀行が供給する貨幣供給量を増減することで経済や物価動向を管理できるとする貨幣数量説に立つのがマネタリズムです。
第2次安倍晋三政権下で金融政策を担った黒田東彦日本銀行総裁は2013年4月、「供給する資金量を2年間で倍増させ、物価を2%上昇」させると宣言しました。この異げ次元金融緩和政策は、貨幣数量説に立つ新自由主義の金融政策です。
しかし、2年間で2%物価上昇という公約は8年間たっても未達成です。新自由主義の破綻は十分すぎるほどに証明されています。
そもそも、日銀が増やせる貨幣供給量は、民間銀行保有の国債を買い入れて供給するマネタリーベース(民間銀行の日銀当座預金と現金)だけです。物価や経済動向に影響を与えるマネーストック(企業や家計が保有する現金と銀行預金)は増やせません。マネーストックが増えるのは、家計や企業が消費や投資を活発化させるために民間銀行から現金を引き出すか、借り入れを増やす場合だけです。深刻な消費不況の日本では、家計も企業も消費や設備投資を増やさないので、マネーストックは増えません。


膨張した日銀資産
 2011年2021年
日銀の資産(兆円)
対GDP比(%)
145.2
29.0
723.7
130.1
米FRBの資産(兆ドル)
対GDP比(%)
2.8
17.9
8.8
38.4
日銀「営業毎旬報告」「金融経済統計月報」、IMF「World Economic Outlook Database」、OECD「Economic Outlook」から作成



日本銀行本店=東京都中央区

予測不能の危険
―それでも、日銀が異次元金融緩和政策を続けるのはなぜですか。
そこには、金融ビジネスで目先の利益を追求する野蛮な資本主義の姿が見え隠れします。
第一に、国債入札に参加資格を持つ内外の巨大金融機関約20社(国債市場特別参加者)は、安く落札した国債を日銀に高値で売りつける日銀トレードで(国債売却益を稼いでいます。巨大金融機関が12兆円以上の国債売却益を稼ぐ一方、日銀は約12兆円の国債償還損を抱え込みました。その分、日銀の国庫への納付金が減り、国民負担が増えることになります。
第二に、日銀による国債の大規模買い入れで国債金利・長期金利は下落し、ゼロ%近傍やマイナスの水準に低下しました。これは政府の国債利払い費や企業の借入金利の引き下げに貢献しました。
第三に、他国と違い、日銀の異次元金融緩和政策は株式ETF(株価連動型上場投資信託)の買い入れを実施するので、日経平均株価やTOPIXを構成する会社の株価をつり上げ、会社と株主の利益に大貢献しました。
その結果、日銀が抱え込んだのは異次元のリスクです。日銀が保有する国債521兆円、株式36兆円の価格が何らかのきっかけで下落すれば、日銀に損失が発生します。「日本円」の信用にヒビが入り、円暴落のリスクが表面化します。輸入品の値上がりで深刻な生活破壊が広がるでしょう。
新自由主義の異次元金融緩和政策は、内外の大資本・投資家には巨額の利益をもたらす一方、国民生活と日本経済には予測不能の危険な事態を招いています。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月4日付掲載


日銀が増やせる貨幣供給量は、民間銀行保有の国債を買い入れて供給するマネタリーベース(民間銀行の日銀当座預金と現金)だけ。
マネーストック(企業や家計が保有する現金と銀行預金)が増えるのは、家計や企業が消費や投資を活発化させるために民間銀行から現金を引き出すか、借り入れを増やす場合だけ。先行きが見えない中、家計も企業も預金を引き出して消費に回すってことは期待できません。
日銀が保有する国債521兆円、株式36兆円の価格が何らかのきっかけで下落すれば、日銀に損失が発生。「日本円」の信用にヒビが入り、円暴落のリスクが表面化。輸入品の値上がりで深刻な生活破壊へ。
新自由主義の異次元金融緩和政策は、内外の大資本・投資家には巨額の利益をもたらす一方、国民生活と日本経済には予測不能の危険な事態へ。
日本の国債は、国内で売買されているので大丈夫だと言っておられないのです。


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