「おさけと」を出ると、H部さんが先導して次の目的地へ。
やはり1次会では終わらない。終わるわけがない。やってきたのは「シャム猫」という名のスナックだった。なんだか読めなかった展開。
扉を開けると、だだっ広い空間が目の前に現れた。
テーブルは6から7卓はあるだろうか。まるでスナックとはいえない造り。スナックって、小さなカウンターじゃないのか。
一番奥のテーブルに招かれた。
ママさんから、HちゃんとH部さんは、「お久しぶりね」と言われている。
へぇ。いいなぁ。
H部さんが、水割りを作ってくれ、一堂で乾杯した後、カラオケの火蓋が切って落とされた。
Oさん、カラオケ好きだもんな。
Oさんのすごいところは還暦を過ぎているのに、未だ音楽に貪欲なところ。次々と新しい音楽を吸収している。そしてこの後もアッと驚く選曲をした。
次に歌ったのがH部さん。彼にも驚かされた。
昔、Oさんと3人で神田のフォーク酒場に行ったことがある。Oさんは酒場の人の伴奏で歌い、自分はギターを弾き語りした。けれど、H部さんは全く歌わなかった。その他の会合でも彼が歌った印象はあまりない。昔、何度か「島唄」を聴いたくらいだ。そのH部さんが、「YAH YAH YAH」を歌いはじめている。恐らくこれは計算ずくだろう。インパクトはあるし、みんなテンションが上がる。
〽︎今から一緒にこれから一緒に殴りに行こうか
案の定、我々は大合唱になった。
H部さんとよく遊んだのは10年くらい前だ。それから彼は部署が異動になり、会う機会も減っていった。ところが2年前、J新聞のとある企画に抜擢され、久しぶりに酒を飲む機会を得た。その時、彼は浜松町の熟キャバによく行くと言った。「YAH YAH YAH」の技術はそこで覚えたに違いない。
意外だったのがHちゃんだった。実はHちゃんと飲むのはこの日が3回目で、Hちゃんのことをよく知らない。そのHちゃんは楽しそうに様々な歌を披露した。中でも秀逸だったのが、RCサクセションの「雨上がりの夜空に」。少し向こうのテーブルにいた紳士と絡み合いながら歌った。
Cちゃん曰く、「お調子ものだから」という。
へぇ。
今夜で3回目なのに、何故Hちゃんと呼ぶか。それは前回の飲みで、「熊ちゃんて呼びますよ」と言われた。じゃ自分も「Hちゃんて呼びますから」となったのだ。
さて、自分の番が来た。
いつも自分はとある演歌しか歌わない。いつもその一曲だけ。だから、その歌を歌った。ところが、当然ながら、また順番が回ってくる。はじめは断っていたが、そういう訳にもいかなくなった。しゃあねぇなと選曲のタブレットを掴んだ。
若い時分だったら、ここで尾崎か、みゆきさんだ。
「ダンスホール」か「あした」だろう。だが、この2曲はちょっと暗すぎる。せっかく場が最高潮なのに、これはいかん。なら、「Scrambling Rock'n Roll」か。あれこれ考えるうちに気がついた。自分の歌える唄がないということに。
そうしていると、Oさんが歌い始めたのは、新しい学校のリーダーズの曲。例の首を動かすやつ。今でこそ、瞬く間に彼女らはメジャーになったが、7月時点でまだ知っている人は少数だった。
やっぱOさんすごいな。
その時思ったのは、人間、遊ばないとしぼむ。
H部さんもHちゃんも、そしてOさんも、Cちゃんも楽しんでいるじゃないか。こういうところでは馬鹿にならないと。
結局、その後自分は歌わなかった。いや歌えなかったのだ。歌う曲がなくて。
最後の曲はOさんの「落陽」だった。もうOさんと何回カラオケに行ったことか。最後はOさんが決まってこの曲で〆る。あの頃の自分はまだいろいろと歌えていたような気がする。
家に帰ったのは午前様。久しぶりに。
翌日、本棚から「ブルータス」のスナック特集を探して、改めて熟読した。
人間、遊ばないとな。
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