京都の帰り道、娘から頼まれていた生八ツ橋を買った。実はちょっと前に、息子が生八ツ橋を土産に買ってきたんだけど、娘は食いはぐれたようで。
「また買ってきて」となった。
実は自分、生八ツ橋があまり好きではない。なんでシナモンかなぁ。不思議なスイーツ。でも、娘に頼まれたのだから、仕方ない。買って帰るか。
新幹線駅のキオスクで生八ツ橋を探していたら、こないだ息子が買ってきた生八ツ橋と同じものがあった。
「夕子 ニッキ」。
和装の女の子のイラストが目印だ。
この女の子が夕子さんなのかしら。
井筒八ツ橋本舗のホームページを調べると、果たして「夕子 ニッキ」の夕子は水上勉の小説「五番町夕霧楼」に登場する主人公、片桐夕子であった。
「水上勉先生ご本人に六代津田佐兵衞が許諾を得て、主人公の名前「夕子」を商品名にいたしました」とあるだけで、何故夕子が抜擢されたのかの記述はない。
同店には生八ツ橋のハイエンド商品があり、名を「夕霧」という。ホームページによると歌舞伎の演目に登場する、夕霧太夫から商品名をいただいたらしい。その普及品として発売したのが、「夕子」だ。京都に因んだ人物であり、夕繋がりというのが、命名の由来にあるんじゃないかなと踏んでいる。
夕子のイラストは微妙に気味が悪い。ネット民も同じような反応だ。
「五番町夕霧楼」を読んでみた。
夕子は丹後半島出身の若い娘で、貧しい家の長女である。下に3人の妹がおり、母は結核を患っていることあり、夕子は妓楼で働くことになる。
戦後間もない昭和25年のこと。
戦前、戦後を通じて、多くの娘が夕子と同じ境遇をたどったことだろうと想像する。
それは日本の山村における負の部分であり、タブーかもしれない。
昔、吉原の資料を読み漁ったことがあるが、ほとんど目にするのが遊女たちの悲惨な末路だった。けれど、夕子が働く夕霧楼にはそんな暗さは微塵もない。
それがひとつの救いともいえる。
小説に登場する夕子の目が吊り上がり気味と表現されているが、「夕子 ニッキ」のイラストはつぶらな瞳である。そして確かにその雰囲気は怖い。もう少し、なんとかならなかったのかなと思う。
夕子はものすごくいい子である。
素直で嘘をつかない。
鳳閣寺(金閣寺)に放火した﨔田正順との接点を尋ねる夕霧楼の店主、かつ枝に対し、夕子は全て真実を答える。ともすると、その場を逃れるために、人は嘘をつくだろう。だが、夕子は全ての本音を逐次語る。
だからこそ、読者は夕子に不憫を感じるのだろう。
夕子は京女の鏡かのしれない。
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