国立霞ヶ丘競技場は雨で煙っていた。
わたしはゴール裏のスタンドに座って、ナビスコ杯予選FC東京VSジュビロ磐田の一戦を眺めていた。
雨は霧雨のような小糠雨で、面倒だから傘をささずにいたが、カクテル光線が照らす雨はかなりの量が降っているようにみえた。
確か、00年にJ1リーグに昇格したFC東京が、開幕から連勝を重ね、初対戦にも関わらず王者磐田を撃破したのもここ国立競技場だった。あの日もこの日と同様雨が降っていたような気がする。
吉田拓郎さんの「人間なんて」を替え歌にした「J1なんてラララ~ラララ~ラ」がゴール裏でいつまでもこだましていた。
さて、この日の試合は4月ももう中旬にさしかかるというのに冷え冷えとした気候と同様、お寒いものだった。
序盤に磐田がホーム東京のゴールを脅かしただけで、あとはボールが両チームの中盤を行ったりきたり。しばらく、ぼんやりと見ていたがいっこうに面白くならない。わたしはケータイのワンセグを点けてプロ野球中継、広島カープVS讀賣を見ることにした。
するとその瞬間、カープの主砲新井貴浩選手が讀賣の先発投手金刃投手から右翼席前列に本塁打を叩き込む場面が現れた。低めの変化球の難しい球。体を開かず、ボールに食いついて放った一発だった。これで、カープが1点を先制した。
こうなってくると、野球の方が面白い。わたしは生で見ているサッカーよりもワンセグテレビで見ている野球のほうに釘付けになった。
その後もサッカーは相変わらず退屈な試合をしていた。それでも、前半終了間際のロスタイム、珍しく相手陣内に深く攻め込んだFC東京がフィニッシュまでもっていくと、磐田GKの松井謙弥選手が好セーブ。しかし、こぼれた球が、つめていた福西崇史選手の目の前に転がり、彼はそのままゴールに押し込んだ。東京も1点を先制した。
この瞬間、今日はもういいかな、と思えてきた。
雨は相変わらず降り続けているし、だいいちひどく寒い。こりゃ、風邪をひくといけない。
今日は妻に「仕事だよ」と嘘をついて出てきた。せっかくだからどっか居酒屋にでも行ってワンセグでテレビ観戦でもしようか。
幸いサッカーのほうも東京MXテレビで生中継されている。
広島カープとFC東京、共に不調の両チームが揃って勝つのを、酒を飲りながら見るのも悪くはない。
そうだ、居酒屋に行こう!
そう決めて、わたしは前半終了後のハーフタイムで国立競技場を後にしたのだった。
わたしは、居酒屋に飢えていたのかもしれない。
外に飲みに行ったのは「信濃路」(居酒屋放浪記NO.0123)以来、もう3週間にもなる。娘が4月から保育園に通い始めたということもあって、なかなか飲みに行く機会をうかがえなかったのだ。だから、この日わたしはわざわざ小さな嘘をついてサッカーを観に来たわけなのである。
さて、居酒屋である。
特に行くあてがあるわけではなかった。
とりあえず、帰路に沿って電車に乗れば、駒込駅で東京メトロ南北線に乗り換える。そこで、どこか適当な店に入ろうと考えていた。
駒込での店探しはやや難航したが、線路沿いの道に1軒の居酒屋を見つけることができた。
概観は安酒場ではない雰囲気。
黒木の引き戸をガラリと開けると、やや落ち着いた雰囲気の店が現れた。清潔そうな店内。向かって左手が厨房。その前にカウンター席が設けられている。店の奥は恐らく幾つかのテーブル席やお座敷があるのだろう。賑やかな声が聞こえてくる。
落ち着いた雰囲気といっても凝った演出があるダイニングではない。雰囲気はしっかり居酒屋だ。だが、カウンターに2組いる客に活気があるかといったらそうではない。1組は若いカップル。そしてもう一組は初老の男性2人組だ。それぞれ小さな声で何かを話している。
わたしは、彼らの間の席に座ってまずは生ビール(460円)を注文した。
注文は係りの女の子がわざわざ席に取りに来てくれた。
さて、まず肴を何にするか、と考えるよりもまず、ケータイのワンセグを点けてみることにした。だが、なかなかテレビ画面に切り替わらない。ケータイの電波はバリ3本で良好だ。待つこと数分、画面に「電波が悪いからどっかに移動して再試行して」みたいな注意書きが出る。
がび~ん!
おいおい、テレビ観戦しようと居酒屋に来たのだ。
そりゃ、ないぜ。
何度かその場で再試行したのだが、やっぱりテレビは入らない。一瞬店を変えることも考えたが、適当な店は他には見つからなかったことを思い出して、思いとどまった。
すると、さっき注文を取りにきた作務衣を着たお姉さんが、またもや現れ食べ物のオーダーを聞きにきた。わたしは、何も考えていなかったので、「また後で」と言って彼女を追っ払った。
今はそれどころではない。とりあえず、ケータイのブラウザで途中経過を見てみることにしよう。
すると、どうやらFC東京はその後追加点を奪ってそのまま2-1で勝ったことが分かったが、広島カープのほうはいけない。7回表に讀賣の木村拓也が逆転の適時打を放って讀賣が2-1でリードしているではないか。
おいおい。しかも、打ったのがキムタクだなんて…。
落ち着け、落ち着け。とにかく何か肴を頼もう。
わたしはメニューカードを睨みながら、今日のお奨めとなっている「炙り〆さば」(480円)を注文した。その頃、作務衣お姉さんが忙しいみたいで、目の前の 厨房のお兄さんに声をかけたのである。
しかし、このお兄さんの態度が少し気になった。
横柄なのだ。
ベージュのベースボールキャップを被ったお兄さんは少し面倒臭そうにわたしの注文を聞いたのである。
わたしは、生ビールのあとは日本酒の熱燗と心に決めていた。とにかく雨に濡れて体がすっかり冷えてしまったからだ。日本酒にはやはり魚だ。とくに「〆さば」はわたしの好物だったのでそれを頼んだのだが、料理が出てくるのがやたらと遅い。肴の注文が遅かったのはわたしに非があるが、生ビールを飲み終えて松竹梅の熱燗(580円)を頼んで、1合を飲み終えそうな頃にようやく「〆さば」が現れたのである。こうなりゃ、もう1号飲むしかない。
再び作務衣お姉さんに注文した。いかしお燗が来るのは異常に早いのである。
その後、わたしは頻繁にケータイのインターネットにアクセスして野球の途中経過を見守った。
しかし、カープはゼロ行進。
1-2のまま試合は大詰めに向かっていく。
気がつけば、熱燗が殻になっている。
すると、素早く作務衣お姉さんがすり寄ってくる。
「何かお飲み物を」。
こういうコンサルティングとマーケティングに懲りかたまったお店が最近多々目に付くが、熊猫刑事はこういうお店は嫌いだな。お店としては心配りの意味合いもあるのだろうが、客からすれば余計なお世話。お店は店の回転率をあげ、客単価も向上させたいのだろうが、その下心がみえみえ。
カープが負けているから、今のオレちょっと危険だぞ!
しかし、野球は今が佳境。
1点を追うカープは最終回、1死3塁の好機。1本出れば同点という場面だ。
仕方ない。もう1杯貰うとするか。
わたしは作務衣お姉さんに焼酎「一刻者」(宝酒造㈱)のロック(380円)と締めに「田舎そば」(483円)を頼んだ。
よくみると、同店は酒蔵という名前に相応しく焼酎がふんだんに用意してある。その数およそ50種類。下は380円から上は700円くらいまで。人気の銘柄はあまりないが、そこそこ種類はある。
しかし、クソっ!何でこんないい場面でワンセグ入らないんだよっ!
わたしは必死にケータイのインターネットのスポーツニュースにすがった。
1分おきくらいに更新される情報に固唾を飲みながら。
結局、「田舎そば」が出てきた頃には試合が終わっていた。
結果は1-2の敗戦。最後の好機も後続が凡退して万事休す。
何かやりきれぬ気持ちで「田舎そば」をすすった。
味は悪くなかったが、またしても料理の出てくるタイミングが遅かった。
このお店の評価が辛口だった点とワンセグが受信できなかったこと、カープが逆転負けを喫したこととは無関係ではない。実際、料理が運ばれてくる時間も遅くなかったかもね。
わたしはゴール裏のスタンドに座って、ナビスコ杯予選FC東京VSジュビロ磐田の一戦を眺めていた。
雨は霧雨のような小糠雨で、面倒だから傘をささずにいたが、カクテル光線が照らす雨はかなりの量が降っているようにみえた。
確か、00年にJ1リーグに昇格したFC東京が、開幕から連勝を重ね、初対戦にも関わらず王者磐田を撃破したのもここ国立競技場だった。あの日もこの日と同様雨が降っていたような気がする。
吉田拓郎さんの「人間なんて」を替え歌にした「J1なんてラララ~ラララ~ラ」がゴール裏でいつまでもこだましていた。
さて、この日の試合は4月ももう中旬にさしかかるというのに冷え冷えとした気候と同様、お寒いものだった。
序盤に磐田がホーム東京のゴールを脅かしただけで、あとはボールが両チームの中盤を行ったりきたり。しばらく、ぼんやりと見ていたがいっこうに面白くならない。わたしはケータイのワンセグを点けてプロ野球中継、広島カープVS讀賣を見ることにした。
するとその瞬間、カープの主砲新井貴浩選手が讀賣の先発投手金刃投手から右翼席前列に本塁打を叩き込む場面が現れた。低めの変化球の難しい球。体を開かず、ボールに食いついて放った一発だった。これで、カープが1点を先制した。
こうなってくると、野球の方が面白い。わたしは生で見ているサッカーよりもワンセグテレビで見ている野球のほうに釘付けになった。
その後もサッカーは相変わらず退屈な試合をしていた。それでも、前半終了間際のロスタイム、珍しく相手陣内に深く攻め込んだFC東京がフィニッシュまでもっていくと、磐田GKの松井謙弥選手が好セーブ。しかし、こぼれた球が、つめていた福西崇史選手の目の前に転がり、彼はそのままゴールに押し込んだ。東京も1点を先制した。
この瞬間、今日はもういいかな、と思えてきた。
雨は相変わらず降り続けているし、だいいちひどく寒い。こりゃ、風邪をひくといけない。
今日は妻に「仕事だよ」と嘘をついて出てきた。せっかくだからどっか居酒屋にでも行ってワンセグでテレビ観戦でもしようか。
幸いサッカーのほうも東京MXテレビで生中継されている。
広島カープとFC東京、共に不調の両チームが揃って勝つのを、酒を飲りながら見るのも悪くはない。
そうだ、居酒屋に行こう!
そう決めて、わたしは前半終了後のハーフタイムで国立競技場を後にしたのだった。
わたしは、居酒屋に飢えていたのかもしれない。
外に飲みに行ったのは「信濃路」(居酒屋放浪記NO.0123)以来、もう3週間にもなる。娘が4月から保育園に通い始めたということもあって、なかなか飲みに行く機会をうかがえなかったのだ。だから、この日わたしはわざわざ小さな嘘をついてサッカーを観に来たわけなのである。
さて、居酒屋である。
特に行くあてがあるわけではなかった。
とりあえず、帰路に沿って電車に乗れば、駒込駅で東京メトロ南北線に乗り換える。そこで、どこか適当な店に入ろうと考えていた。
駒込での店探しはやや難航したが、線路沿いの道に1軒の居酒屋を見つけることができた。
概観は安酒場ではない雰囲気。
黒木の引き戸をガラリと開けると、やや落ち着いた雰囲気の店が現れた。清潔そうな店内。向かって左手が厨房。その前にカウンター席が設けられている。店の奥は恐らく幾つかのテーブル席やお座敷があるのだろう。賑やかな声が聞こえてくる。
落ち着いた雰囲気といっても凝った演出があるダイニングではない。雰囲気はしっかり居酒屋だ。だが、カウンターに2組いる客に活気があるかといったらそうではない。1組は若いカップル。そしてもう一組は初老の男性2人組だ。それぞれ小さな声で何かを話している。
わたしは、彼らの間の席に座ってまずは生ビール(460円)を注文した。
注文は係りの女の子がわざわざ席に取りに来てくれた。
さて、まず肴を何にするか、と考えるよりもまず、ケータイのワンセグを点けてみることにした。だが、なかなかテレビ画面に切り替わらない。ケータイの電波はバリ3本で良好だ。待つこと数分、画面に「電波が悪いからどっかに移動して再試行して」みたいな注意書きが出る。
がび~ん!
おいおい、テレビ観戦しようと居酒屋に来たのだ。
そりゃ、ないぜ。
何度かその場で再試行したのだが、やっぱりテレビは入らない。一瞬店を変えることも考えたが、適当な店は他には見つからなかったことを思い出して、思いとどまった。
すると、さっき注文を取りにきた作務衣を着たお姉さんが、またもや現れ食べ物のオーダーを聞きにきた。わたしは、何も考えていなかったので、「また後で」と言って彼女を追っ払った。
今はそれどころではない。とりあえず、ケータイのブラウザで途中経過を見てみることにしよう。
すると、どうやらFC東京はその後追加点を奪ってそのまま2-1で勝ったことが分かったが、広島カープのほうはいけない。7回表に讀賣の木村拓也が逆転の適時打を放って讀賣が2-1でリードしているではないか。
おいおい。しかも、打ったのがキムタクだなんて…。
落ち着け、落ち着け。とにかく何か肴を頼もう。
わたしはメニューカードを睨みながら、今日のお奨めとなっている「炙り〆さば」(480円)を注文した。その頃、作務衣お姉さんが忙しいみたいで、目の前の 厨房のお兄さんに声をかけたのである。
しかし、このお兄さんの態度が少し気になった。
横柄なのだ。
ベージュのベースボールキャップを被ったお兄さんは少し面倒臭そうにわたしの注文を聞いたのである。
わたしは、生ビールのあとは日本酒の熱燗と心に決めていた。とにかく雨に濡れて体がすっかり冷えてしまったからだ。日本酒にはやはり魚だ。とくに「〆さば」はわたしの好物だったのでそれを頼んだのだが、料理が出てくるのがやたらと遅い。肴の注文が遅かったのはわたしに非があるが、生ビールを飲み終えて松竹梅の熱燗(580円)を頼んで、1合を飲み終えそうな頃にようやく「〆さば」が現れたのである。こうなりゃ、もう1号飲むしかない。
再び作務衣お姉さんに注文した。いかしお燗が来るのは異常に早いのである。
その後、わたしは頻繁にケータイのインターネットにアクセスして野球の途中経過を見守った。
しかし、カープはゼロ行進。
1-2のまま試合は大詰めに向かっていく。
気がつけば、熱燗が殻になっている。
すると、素早く作務衣お姉さんがすり寄ってくる。
「何かお飲み物を」。
こういうコンサルティングとマーケティングに懲りかたまったお店が最近多々目に付くが、熊猫刑事はこういうお店は嫌いだな。お店としては心配りの意味合いもあるのだろうが、客からすれば余計なお世話。お店は店の回転率をあげ、客単価も向上させたいのだろうが、その下心がみえみえ。
カープが負けているから、今のオレちょっと危険だぞ!
しかし、野球は今が佳境。
1点を追うカープは最終回、1死3塁の好機。1本出れば同点という場面だ。
仕方ない。もう1杯貰うとするか。
わたしは作務衣お姉さんに焼酎「一刻者」(宝酒造㈱)のロック(380円)と締めに「田舎そば」(483円)を頼んだ。
よくみると、同店は酒蔵という名前に相応しく焼酎がふんだんに用意してある。その数およそ50種類。下は380円から上は700円くらいまで。人気の銘柄はあまりないが、そこそこ種類はある。
しかし、クソっ!何でこんないい場面でワンセグ入らないんだよっ!
わたしは必死にケータイのインターネットのスポーツニュースにすがった。
1分おきくらいに更新される情報に固唾を飲みながら。
結局、「田舎そば」が出てきた頃には試合が終わっていた。
結果は1-2の敗戦。最後の好機も後続が凡退して万事休す。
何かやりきれぬ気持ちで「田舎そば」をすすった。
味は悪くなかったが、またしても料理の出てくるタイミングが遅かった。
このお店の評価が辛口だった点とワンセグが受信できなかったこと、カープが逆転負けを喫したこととは無関係ではない。実際、料理が運ばれてくる時間も遅くなかったかもね。
タイミングの悪い声がけがあると、無償にイラっとしちゃいますもんね。。。
しかも贔屓のチームが負けているとあっては(笑)。
ものすごーい機嫌の良いときだったら
「何かお飲み物を」というお姉さんの言葉も、
下心はあっても「ナイスタイミング」って思ったかも?!
飲み物のお代わりがほしいときに限って、お店のお姉さんが現れなかったり…。
飲み物補給のタイミングは案外難しいのかもしれませんね。
ところで、まき子さんにお尋ねします。松竹梅熱燗1合580円てどうなんですか。
やっぱ高いですかねぇ。
普通酒だったら高いですね~。
ちなみに、普通酒とか、そうでないとか、種類ってメニューに書いてあるもんですかね?
これからは、それもチェックしておかないと。