浅虫温泉では「椿館」という老舗の旅館に宿泊した。
随分と歴史のある宿で、世界の版画家(板画家)、棟方志功氏ゆかりの旅館であるという。宿の壁にはおじさんの巨大なねぶたが飾られている。多分、棟方氏であろう。
「温泉たまご場」で作った、温泉たまごを部屋に持ち帰り、部屋で一杯飲った。温泉たまごが実によく出来ていて、思わず感動した。
夕食前に、ひと風呂浴びようと一階の浴場に向かった。フロント前から、伸びる回廊には、棟方志功氏の仕事風景の写真が飾られていた。恐らく、この「椿館」で撮影されたものだろう。
同館のホームページによると、「椿館」には9つの源泉が沸いているという。かつては庭園内にある椿の木の根元から、お湯が涌き出ていたらしく、そこから「椿の湯」と命名されたようだ。
泉質、低張性弱アルカリ性高温泉の単純温泉。特にナトリウムイオン、カルシウムイオン、硫酸イオンなどが多く含まれているという。
そんなに広くない浴場だが、ムードは抜群だった。とりわけ、露天が素晴らしかった。夕方は、ひぐらしの寂しげな鳴き声が聞こえ、北の短い夏の儚さを感じさせた。けれど、もっとも趣深いのが、早朝のひと風呂だった。
しんと静まりかえった朝に、湯気が立ち込める、露天の岩風呂。そろりと足をつけて、湯につかる。
「いいあんべぇだ」。
つい、父の言葉が口に出る。
凛としまった朝の空気に、湯が流れ出る音だけがする。
「いいあんべぇだ」。
また、同じ言葉を呟く。
木漏れ日のような薄い朝陽が、木々の隙間から微かに射してくる。ボクが抱えてるものは何もない。これから神経をすり減らす仕事が待っているわけでもなく、昼ごはんの買い物にも出かけなくていい。
温泉旅館の醍醐味は朝だ。
この解放感で、高い宿泊料が精算される。
露天風呂に「観音岩」なる、ご利益がありそうな石があった。どう見ても、観音様はボクの前に現れなかった。ブッディストとして、まだまだなのだろう。
中庭に源泉が涌き出る井戸を見つけた。
ここも、温泉たまご場である。
落ち着けるいい宿。
また、来年もよろしくお願いいたします。
特に、ひなびたところにあるやつは・・・。
どっちが好きかと言ったら、自分はひなびたとこだなぁ。
断然、のんびりできるよ。