「山き」の楽しさをそのままに、ボクは調子に乗ってもう1軒行くことにした。
今度は「みろく通り」である。
ここはいわゆる観光用の屋台村。いろんな店が立ち並ぶ。
ぶらぶらしているだけで楽しい。
店は屋台というよりも山車のような趣で、8畳一間くらいの広さの店が立ち並ぶ。
それでも、店にはガラス戸があり、椅子があり、ひととおりの体裁がとられていて、それぞれの工夫のもと、経営されていた。
どうでもいいような安易な名前の店が並ぶ中、「田舎子」という店が目に止まった。
赤い木造の屋台に、黄色い暖簾が映える。
店内には印半纏姿のお姉さんがちゃきちゃきと働いている。
今日のボクは運がいい。この店もきっとあたりだろう。
そう思い、ボクは店に飛び込んだ。
カウンターには「田酒」「男山」の一升瓶が整然と並ぶ。店長の性格をよく表していると思う。店は小ぎれいだ。
ボクは座って「田酒」をいただくことに。
店の側面には大きな黒板がかけてあり、手描きのメニューがずらりと書かれている。
その豊富なメニューったら。
最も高いメニューは「くじら汁」(800円)。以下、「イカの一夜干し」(680円)と続く。一番安価な酒肴は「かっけチーズ」(300円)。
ちなみに「かっけ」とはそばを打って、それを平たくしたものである。ようするにそば切りしないそばで、南部の郷土料理だ。
盛岡では「ひっつみ」とも言うが、「かっけ」も「ひっつみ」も同じである。
おもしろそうなメニューを見つけた。
「せんべいピザ」。
恐らく南部せんべいを生地にしてピザを焼いたものだろう。ボクはそれをいただくことにした。
こちらの店の女将はやたらと陽気だった。
いや、「山き」の余韻で、この店に行ったせいか、「田舎子」の女将のノリは鼻についた。
客とのかけあいがなんとなく、キャバクラのノリなのだ。
それでも、楽しき酒が飲めればいいのだが、彼女が発した何気ないと思われる言葉にボクはちょっとがっかりした。
日本人の食習慣に関する話題になったとき、ボクはこんな話をしはじめた。
「以前、東南アジアをぶらぶらしていた時・・・」
と話し始めると、話しの途中で、女将は「何それ?自慢?」と言葉を遮った。
あぁ、嫌な感じだな。せっかく、「山き」といういい酒場で飲んだのが、これで台無しになったじゃないか。
ボクは自慢するつもりで話したのではなく、その時感じたことを言いたかっただけなのに。
たとえそれが自慢に聞こえたとしても、もう少し違う言い方もあるのではないか。
そう思いながら、ボクは酒を一気にあおり、店を出た。
あぁ、一気に気持ちがしぼんだ。
もうホテルに帰って眠りについた方がよさそうだ。
さっきとはうって変わって夜風が少し寂しい。
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