田町駅前の森永ビル。この地下に、エンゼル街という飲食店街がある。
さらにその一角に立ち食いそばがあり、夜になると立ち飲み屋と化す、と人から聞いた。
果たして行ってみると、なるほど本当にその店はあった。
どこからどう見ても、立ち食いそば屋である。
カウンターは12,3人も立てば、満員だろう。すでに5,6人の人が立って、お酒を飲んでいる。だが、そのカウンター以外にも幾つかの集団が、グラスを片手に酒を飲んでいた。全て、スーツのホワイトカラーである。
わたしは、そのカウンターに立ち、店のオヤジに「ビール」と告げた。
大泉晃に似た、ちょびひげのオヤジは、「お客さん、初めて?」とわたしに聞く。
どうやら、この最初の振る舞いだけで一見であることが分かるらしい。
どうやら、瓶ビールは店の前にある別室に設けた冷蔵庫から勝手に取ってくるのが習わしらしい。
そんなやりとりを見ていたスーツの男性が、冷蔵庫に行って、わたしの瓶ビールを取りに行ってくれた。
感謝である。
瓶ビールを客が勝手に取るというシステムは、以前門前仲町の「和一」という立ち飲み屋で経験したことがある。狭いお店はそれなりに工夫が必要なのだ。
瓶ビールを開けて、メニューを物色した。
「冷やっこ」100円、「キムチ」100円、「揚げ物」100円、「チーズ」100円と100円メニューが続く。おつまみの中で最も高いのが、「湯どうふ」の200円だ。
だが、わたしは、上海料理ですっかりお腹がいっぱいだった。
できれば、もう〆に入りたい。わたしは「かけそば」(230円)を頼んだ。
大泉晃は、「お、そばまだあるかな」とおどけた調子で、そば玉を確認しはじめ、「お、一個あった」と言って、「かけそばね」とわたしに言った。
どうやら最後の一玉だったようだ。
このオヤジはおもしろい男だった。
風貌からして、コメディアンのいでたちだったが、言動も面白く、一見のわたしを相手に笑わせてくれた。しかしながら、インテリジェンスも兼ね備えており、客の鋭い言葉に素早く切り返した。
店の奥には、カレンダーがたくさん貼られていた。
日本を代表する大企業のものばかりである。どうやら、この店には、その大企業の面々が夜な夜な来店するらしい。ホワイトカラー100%である。
いや、ホワイトカラーばかりではない。皇室、宮内庁も御用達であるという。
殿下とその侍従長が時々現れては、酒を飲んでいくという。
実は、この訪問の後、2回ほど、訪れた。
隣に居合わせた男性と話しをするうち、実は取引先の会社の方であると分かり、名刺交換をした。
そんな酒場である。
「かけそば」はおいしかった。
わたしは元来のそば好きである。
毎年、年越し蕎麦は10杯は食べる。
納得の1杯である。
違う飲み物がほしくなった。
あとは焼酎か、缶の飲み物である。
冷蔵庫を見ると、缶のウイスキー水割りがあった。
それをもらうことにしたが、冷蔵庫の前に陣取った客が、扉を開けて、缶の水割りを出してくれた。
小さな冷蔵庫の前にいる客は、必然的に冷蔵庫番になるようである。
たまに女性の姿もちらほら。
だが、そのほとんどが男性客。
だが、これだけ上場企業の社員が集う立ち飲み屋は他にないだろう。そして、皇室の面々も。
その殿下だが、最近は、田町のもうひとつの立ち飲みそば屋の雄「がんぎ」に出没しているらしい。
田町には飲める立ち飲みそば屋が多い。
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