前回だったか、拙欄にて蕎麦屋には2種類あると既述した。ひとつは古典的老舗の蕎麦屋、或いはニューウェーブだが、素材にこだわった本格派の店である。もう一方が路麺と呼ばれるファストフード系の大衆蕎麦だ。この両極をなす蕎麦の中間にもうひとつの蕎麦屋の形態をなす店があることをついつい失念していた。
それが出前系町蕎麦である。
うどんと蕎麦の他、丼物なども出す重宝店。伝統と格式をどこかに置き忘れてきたのか、それともあくまでも大衆の蕎麦を目指す意味で、端からそれを持たずに勝負を仕掛けているのか、時折そうした店を見かける。
誤解しないでほしいのは、出前系町蕎麦を愚弄しているわけではない。気軽に入ることができ、値段も手ごろに食べられるこういう店をボクはむしろ好きだ。
東所沢駅から徒歩10分弱の場所にある「寿美吉」もそのいう店である。
この店、3回ほど行ったが、いつ行っても空いている。そこもまた好感が持てる。
時折、常連のおじいさんがいて、酎ハイを飲みながら蕎麦をすすっているのを見かけると、ボクは何故かホッとする。
ボクはここに来くると「もり」は食べず、いつも種ものをいただく。
初めてこの店に来たとき、ボクは「おかめそば」をいただいた。それ以来、ずっとボクは「おかめそば」を食べている。一度、同行者のA藤君が頼んだ「もりそば」を見たとき、ここで「もり」を食べてはいけないと思った。蕎麦の色としてはちょっと不健康な色をしているような気がして、ボクは「おかめそば」をすするとやはり蕎麦比率の低さを感じざるを得なかったからだ。
薄味の出汁は関東地方の蕎麦としてはやや異色かもしれない。それとも、埼玉県の蕎麦はそれが当たり前なのか、ともかく東京の路麺とは違う出汁なのだ。
それでも「おかめそば」はおいしい。
おかめの顔は整っていなかったが、かろうじてほうれん草の口だけが判別できた。顔全体がもしかすると卵とじだったのかもしれないが、目は確認できなかった。本来目の役割をするかまぼこは頬っぺたあたりの場所にあった。
一口すすると、優しい出汁の味が口にひろがる。
寒い日にはてきめんにおいしい。
卵とじのふんわりした食感も「おかめそば」の醍醐味である。
蕎麦の食感からはちょっと違うが、ボクはこれでいいと思う。
ボクが食べる年越しそばはスーパーで1玉50円で売っているゆでおきの蕎麦だ。それを社会的に蕎麦と言わないのならそれはそれでいいが、ボクはこれを大晦日の晩に6玉食べる。子どもの頃からの習慣である。ボクはこれで十分だし、十分幸せだと感じている。
さて、話は逸れたが、「寿美吉」の「おかめそば」がボクは好きだ。
数か月に1回程度行く東所沢のひとつの楽しみといっていい。
そうそう、明日もしかすると東所沢に行くかもしれない。そうなると明日の昼飯は「おかめそば」ということになる。
6袋。
あれをそばと言うなとは全然言わないけど、俺はゆでおき蕎麦より、断然乾麺の蕎麦を自分で茹でるのが好きだな。
確かに面倒ではあるけど、硬さも好きにできるし、蕎麦湯も飲めるからね。
なお、蕎麦においての関東と関西の大きな違いは、出汁の色だけでなく、ネギの色もあるよねえ。
関東は関西で言うところの白ネギ、関西は九条ねぎとか青ネギとかの青いネギ。師のこの記事の写真で、「そういうと、関東は白ネギだったなあ。」と懐かしく思い出したよ。