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BASEBALL馬鹿 BLOG

オレたちの「深夜特急」~インド編 ボンベイ 2 ~

2021-08-16 07:36:28 | オレたちの「深夜特急」

ボンベイのヴィクトリア駅のホームで、歩きながら、その大柄な男を見上げた。頭一つ分も大きい痩身の男は、笑顔でわたしを見つめていた。

「サルベーションアーミーに行くのかい?」。

彼はわたしにそう尋ねた。

よく聞き取れず、わたしは、聴きなおした。

「ソーリー?」。

意味を汲み取って、少しゆっくりな発話に変えた彼は、もう一度同じ質問を繰り返した。どうやら、泊まるゲストハウスのことをきいているようだった。だが、彼の言うなんとかアーミーという宿は聞いたことがなかった。

「ノーアイディア」。

ちょっと、おどけたように言うと、彼は更に人懐こい笑顔を見せ、こう言った。

自分はサルベーションアーミーという宿に行くが、一緒に行かないか。もし、良かったら部屋もシェアしないか。

断る理由などない。彼に負けないくらいの笑顔で、OKと簡潔に答えた。

 

彼の名前はマーク。23歳のカナダ人である。身長197cmの優男で、自分より3歳も歳下だったが、少なくとも自分より大人びて見えた。駅から数分、その「サルベーションアーミー」という宿に着いたのだった。

「サルベーションアーミー」とは救世軍のことで、イギリス由来のプロテスタントの団体である。日本ではあまり馴染みがないが、救いを求める人々に社会福祉・教育・医療などの支援を行う、キリスト教の伝道事業である。その「サルベーションアーミー」がどういう訳か、インドで宿泊施設を開設しているのである。

宿に入ると、幸運なことにツインの部屋が一つだけ空いていた。どうやらドミトリーは満床のようだった。ツインの部屋代は一人27ルピー。このインド第二の都市に来ても、部屋代が100円にも満たないことは驚きだったし、インドの宿代最安値をまたもや更新した。

チェックインしている時、宿のロビーに日本人らしい顔を見つけ、話しかけてみた。

「もしかして、日本人ですか?」。

すると、彼も意外そうな顔をして、こう答えた。

「え?日本人久しぶりです」。

それは自分も同じだった。日本人と会うのは2週間ぶり。もちろん、日本語で会話するのも2週間ぶりだった。これまで、半年余り旅を続けてきたが、日本人は絶えず、身の回りにいた。日本人と会わなかったのはマレー半年を北上するクアラルンプールからペナンを経て、バンコクに至るまでの10日間だけであった。それが、インドを南下するにつれ、日本人の数が減り、とうとう16日間も日本人に会わなかったのである。久しぶりに日本語を話し、母国語でコミュニケーションできることがこんなに嬉しいのかと感激した。

彼の旅程は、自分とは反対にシュリナガルに行ってから南下してきたという。それによると、シュリナガルは絶えず銃声が聞こえ、緊張状態にあったようだ。ただ、ゲストハウスの部屋は湖上にあり、部屋から釣糸を垂れ、日がな一日中釣りが出来たと、彼は熱っぽく語った。自分も一通り、辿ってきた道のりを簡単に伝えたが、彼はさして興味を持たなかった。彼は丁度、チェックアウトをして、出発するところで、「これからどこへ」という質問に、「ゴア」と素っ気なく答えて宿を出て行った。

そうか。彼もゴアを目指していたか。もしかしたら、彼とはまた会えるかもしれない、そう思った。

マークとともにチェックインし、案内された部屋は恐ろしく広いツインルームだった。ただ、光が射し込むことはなく、ただただ暗かった。

マークはザックを置くなり、出かける素振りをした。

「もう行くのかい」。

自分が尋ねると、彼は準備をしながら、「あぁ」とだけ言った。そして、ドアから出て行く間際に、振り返り、こう言った。

「今夜、映画でも観に行かないか」。

今度は自分が「あぁ」と言った。

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4 コメント

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お! (ふりーまん)
2021-08-20 01:28:42
声をかけてきたのは外国人バックパッカーだったのか。俺、インド人だと思ってたよ。

にしても、サルベーションアーミーってなんか聞いたことあるなあ。洋画とかで見たのかなあ・・・。

宿泊施設としての認識はないから、やっぱ洋画の炊き出しシーンとかでの印象かなあ。いや、刑事コロンボで見たような気もする。

しかしさすが大都会、宗教系安宿泊所とかあるんだね。YMCAみたいなかんじかな。イギリス統治の名残っていう側面もあるんだろうね。

それにしても27ルピー、超格安だなあ。さすが宗教系。

日本人とのエピソード、ちょっと笑ったよ。自分のことは熱く語って人の話は聞かない奴、俺も結構会ったから、「あるある!」ってなったよ。やっぱ若さゆえかなあ・・・。

まあけど、俺も当時は十分以上にスカしてたし、もともと顔も怖いから、好感度はめっちゃ低かったと思うよ。

俺と師が初めて香港で会った時の、無駄なスカシ合戦を思い出したよ。(苦笑)
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Unknown (熊猫)
2021-08-20 09:06:03
師よ。

>声をかけてきたのは外国人バックパッカーだったのか。俺、インド人だと思ってたよ。

いや、インド人も外国人だし(笑)

サルベーションアーミーは、本家「深夜特急」で出てくるよ。沢木氏がカルカッタに着いたシーンで。だから、聞いたことがあるんじゃないかな。

スカシ合戦。懐かしいね。
しっかりお互いを意識しているというのが笑える。若さゆえだね。

インドは特に複雑だよね。
長く滞在している奴が一番偉いみたいな。今思えば、これってバックパッカーカーストだよね。
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確かに (ふりーまん)
2021-08-20 14:10:41
俺らにとってはインド人も外国人なんだけど、インドに居るときは、自国がインドの人は内国人!?で、俺らがインドの人にとっては外国人でってことであんな表記に・・・。

あー、絵に書いたような言い訳だな。(笑)

言われてみると、サルベーションアーミー、深夜特急にもあった気がするよ。でも、たしかにコロンボや洋画でも見た記憶があるんだよなあ。欧米ではYMCAとかと同じように一般的なのかな。

しかし、狭いバックパッカーの中にまで序列や差別があったりして、人間というのは本当に悪い意味での業な生物であるなあと思うよ。
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Unknown (熊猫)
2021-08-20 18:24:53
いや分かる。余計な茶々を入れて申し訳ない。

サルベーションアーミー、洋画でも出てきたか。日本人には馴染みがないけど、キリスト教圏に行ったら当たり前なんだろうね。
若さ故、この当時、サルベーションアーミーについて、なんとも思わなかったかったけど。多分貴重な機会だったと思う。初めて、その名称を聞いたとき、軍隊の宿かと思って身構えたような気がする。

いやはやもう四半世紀の前のことなんだよね〜。
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