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居酒屋放浪記NO.0057 ~夫婦別居生活が始まって~「百飲(ひゃくいん)」(千代田区神田佐久間町)

2006-03-12 20:33:43 | 居酒屋さすらい ◆立ち飲み屋
 夫婦別居生活がスタートし、3年ぶりの独り暮らしとなった。
 妻が家を出ていったのである。
 居酒屋ばかり行っているわたしに三行半を突きつけ、とうとう実家に帰ってしまった。
 と、いうのは嘘で、出産のために里帰りをしたのである。

 仕事から帰宅し、ドアを開ける。いつもならば、おいしそうな匂いと共に妻が出迎えてくれるのだが、部屋は暗く、寒々しい。独居は寂しいものだ。
 妻に先立たれた老人が、後を追うように逝ってしまうのも分かるような気がする。

 独り暮らしは8年間くらい経験したから大抵のことには困らない。
 だが、ひとつ不安な点がある。
 それは「食事」だ。
 長い独り暮らしの間、食事はほとんどがコンビニかほか弁だったように思う。22歳の頃、毎晩、夕食をポテトチップスで済ませていたら、案の定具合が悪くなって、病院で検査した。お医者さん曰く、
 「お米食べてないでしょう」
 毎朝、手足の痺れを感じるほどだったから、相当よくない状態だったのかも。
 人はポテトチップスとビールでは生きられないのだ。

 そんな無精なわたしが考えた「妻が帰ってくるまで乗り切る食事作戦」、それが「鍋戦法」だ。
 野菜などの栄養がバランスよく摂れて、且つ簡単に作れる。しかも、翌朝残りの汁は味噌汁となり、忙しい朝の手間も省ける。鍋とは偉大だ。実にコンビニエントで栄養満点。相撲部屋が毎日ちゃんこ鍋を作るのもよく分かる。
 こうして、独り暮らし下における「鍋戦法」がスタートしたのだった。
 実際、北海道の日高昆布でダシをとった鍋はうまいし、簡単だし、しかも酒にもよくあう。更に翌朝、味噌を入れて再び食べると、またまたうまいときてる。
 そこで、こんなことを思いついた。このまま、この汁を注ぎたし注ぎたしで、毎晩鍋をやれば、一体どんなスープになるのか、と。
 毎晩、違う具材を入れていくうちに、様々なエキスが混じりあって、どこにも真似の出来ないスープになるのではないか、と。
 そして、必殺の鍋スープ作りが始まったのである。

 1週間分の食材を買い込んで、それを小分けにして毎晩鍋にした。翌週はその味にも飽きてきたから、スープにキムチの素を入れて「キムチチゲ」にした。
 2週間もすると、つゆもだいぶ濃厚になってきた。
 3週目にさしかかる日曜日の昼下がりに即席麺の「うまかっちゃん」を食べた。その余ったスープがもったいなかったから、鍋のつゆに混ぜることにした。「うまかっちゃん」の白湯スープとキムチの色が混ざって、スープは微妙な色になった。
 3週目からは、そのピンク色のつゆで鍋を食べた。味は悪くはなかった。
 しかし、その週のある日、突然馬鹿馬鹿しくなって、注ぎたしスープはやめることにした。注ぎ足しはやめたが、鍋戦法は今でも続いている。
 しかも、未だ一度もコンビニのお弁当を買っていない。

 さてさて、話しはとてつもなく、脱線した。
 どうせ、早く帰宅しても、待つ人がいない身。帰る道中、いろいろ寄り道しよう、と思い、まず無作為に途中の駅を下車して、散歩してから帰る、という行動も始めた。
 これが、実はかなり面白い。知らない街を適当に歩き、どこかの駅へたどり着いたら、電車に乗って帰る。そうか、東京ってこういう風になっているのか、東京の知らない姿が次々に見えてきて、やみつきになった。
 そこにはまた、様々な酒場もあった。ふらりと入ってみたくなる、そんな酒場を数多く発見した。
 そこで、思いついたのが、ふらり酒場紀行。紀行といえるものでは全然ないが、しかしこれこそ本来の「居酒屋放浪記」ではないか、と思うこの頃である。

 上野3丁目の会社を出て、とりあえず秋葉原のほうへ山手線の線路沿いに歩いた。 雨足はひどく、傘はほとんど役にたたない。ちょっと、歩いただけで、ズボンの裾は既にぐっしょりだ。
 新築のダイビルを過ぎたところで、左に折れ線路の高架をくぐる。すると右手には巨大なヨドバシカメラが現れ、ネオンをちかちかと灯らせている。そのまま、昭和通りまで出た。

 昭和通りの信号を渡ると、もう電気街の面影はない。
 首都高速の高架橋によって、このあたりはややくすんでいる。
 信号を渡り終え、南に向かった。つまり、都営線の岩本町の方向である。
 それにしても、ひどい雨だ。
 「どこかで雨宿りをしたいな」と思っていると、JR線の秋葉原駅を過ぎたあたりで、「百飲」という立て看板を見つけた。
 わたしはすぐさまピンときた。昨夏頃、100円均一の立ち飲み屋がオープンしたと聞く。もしや、この店のことではないか。
 そう思い、店の様子を探ろうとしたが、店舗はどこにもない。
 よくよく、看板を確認すると、どうやらビルの2階にあるらしい。
 すぐ目の前のビルに飛び込み、2階の店を目指した。

 今日は給料日でしかも、金曜日。だが、この雨ならお客もいないのでは、と思ったのは、ビルの階段が人気もなく、ひっそりしていたから。
 しかし、2階のそっけない自動ドアを開けてみて驚いた。多くのおっさんでごった返していたからである。
 15坪ほどの狭い空間に人、人、人。
 果たして、飲む場所を確保できるか、きょろきょろと辺りを見回す。
 どうやら、簡単にはいきそうもない。
 もし、ここに複数の人数で訪れていたならアウトだった。一人だから何とかなるさ、と店の中央ににじり寄っていくが、新参者への視線は厳しい。この雰囲気、JRAのウィンズの食べ物屋の雰囲気に近い。
 しかし、ここで怯んではいけない。カウンターで生ビールのジョッキと目の前にあったアメリカンドッグを買って、すぐ傍の丸テーブルを一人で占領しているおっさんに近づき、「ここ、いいですか」と強引に自分の場所を確保した。
 そうこうするうち、店奥の壁側が空いたのですかさず、ビールジョッキとアメリカンドッグを急いで手に持ち、速攻で移動。ようやく、安住の場所を探しあてたのだった。
 しかし、ここでは移動するだけで難儀だ。なにしろ、人が多すぎる。

 まぁ、いいさ。とりあえず、生ビールでまず、グイっとやろう。
 ゴクリ。
 おっ、ウマイぞ。これは正真正銘のビールではないか(後日、調べたら同店の生ビールはサントリー・モルツであることが判明)。
 生ビールのジョッキが200円。それ以外の飲み物、食べ物は全て100円というから驚きだ。生ビールは「グラス」も用意されている。これももちろん100円だ。もしかすると缶ビールよりも安いのではないか。
 周りを見渡してみると、熱燗をお銚子で飲んでいる人が多い。そりゃ、そうだ。たとえ1合とはいえ、一体どこで熱燗を100円で飲めるというのか。しかも、消費税取らないから、ホントのワンコインだ。

 店の壁やカウンター、丸テーブルなどはモノトーンで統一している。その雰囲気は洋風だ。店の名前に冠しているのは「スタンディングバー」。あくまでも日本の「立ち飲み」と言ってはいけない。
 すると、わたしの横に異国の男性グループがきた。一人は大柄な黒人。他の3人は小柄な白人のようだ。皆、それぞれジョッキをかざし、談笑している。よくよく、聞いてみるとその言葉は英語ではない。ポルトガル語だろうか。
 しかし、マグロの刺身などをつまみにし、箸も見事に操っている。お見事!

 しばらくすると、頭上のテレビで野球中継が始まった。
 そうか、今晩は「ワールドベースボールクラシック」の壮行試合だったか。
 しかし、こうしてスタンディングバーで野球を見ながら、アメリカンドッグを食べる、気分はもう「めざましテレビ」(CX系)の「Oh My ニューヨーク」だ。

 ジョッキが空になった。
 人波を掻き分け、カウンターへ。レモンハイと煮込みをゲット。これらももちろん100円だ。
 人と人に揉まれながら自分の巣に戻ってテレビを見上げると、先頭打者のイチローが右前にクリーンヒット。うんうん、幸先いいじゃん。
 
 外は冬の雨(演歌『氷雨』かよっ)なのに、この空間はひどくご機嫌だ。
 結局使ったお金は700円のみ。僅か、このお金でかなり幸せな気分になれる。
 また、一人で過ごす御仁が多く、気兼ねしないところがいい。但し、ゆっくりできる空間をいかに確保できるか。
 これは、やっぱり俊敏な若さではなく、狡賢さとふてぶてしさを併せ持つ歳の功であろう。

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14 コメント

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独り身なのね (怪鳥)
2006-03-13 10:18:32
ういっす。そうですか、奥さん里帰り中ですか。君は「熊猫レシピ」とかやってたから料理は達者で良くやってるのだとばかり思っていました。鍋のくだり、面白いじゃない。インスタントラーメンのスープが入ってしまったのがもったいない!終わったよ、そのスープは・・・・。「ピンク色」ってのが不気味で可笑しいね。

東海林さだおもやっていない10年スープ、ぜひともやってみて下さい!
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鍋に (熊猫刑事)
2006-03-13 13:46:13
 反応か。

 10年スープ?1ヶ月でも大変なのに。

 ちなみに昨夜も鍋でした。

 多分、今夜も。



 怪鳥、「百飲」に行ってみたくなった?

 どうでしょう?秋葉原の立ち飲み屋は?
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100円なり (怪鳥)
2006-03-13 17:02:23
一度行ってみてもいいかなあ・・・。安かろう、悪かろうでは無さそうですね。それにしてもこれで利益が出るのだろうか?全く他人事ながら心配です。どのように利益出してるのか興味深いですね。その点でも行かないとな~!
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土鍋にゃ (今p)
2006-03-13 21:20:09
土鍋にずっと汁?を入れておくのは良くないみたいよ。一晩おきっぱとかも良くないとか。



ところでWBC、グダグダさ加減が露呈してるけど

熊猫先生の辛辣なごイケンを賜りたくお待ち申し上げております。
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7時間待ちのヴェトナムから (フライングフリーマン)
2006-03-13 23:44:11
格安チケット、おっさんの体にはズーンとくるよしかし。



全てが100円の居酒屋、いいねー。円がすっかり弱い昨今、デフレ日本の物価安をかみしめたよ。



今年の豪は全てが高かったからなー。物価上昇&円安のダブルショック。マクドでセット食ベて700円以上だもんね。



ただ、90%以上は自炊だったけど。俺達は、スープ・サラダ・肉ものの炒め、もしくはステーキ系でメインっていうパターンが多かったな。農業国だからかスーパーの食材はまだ日本より安いんだよね。



あと、鍋で米炊くのが更にうまくなった。朝晩炊いてたからね。豪には日本米の様な短種米が2kg300円という、奥さま驚きの価格で売ってるんだ。



それにしても、「たしたしスープ作戦」終ってしまって残念だ。黒ずんでるけど味は激しくうまい!っていうような世界まで持っていって欲しかったよ。



是非再チャレンジしてくれ、師よ!
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うおぅ! (熊猫刑事)
2006-03-14 07:47:23
 基本的にはあまり料理しないからね。オイラ。

 でも、くだらないことはよく考えるのはいつものことか。

 

 いつか、「百飲」行きましょう。今年の「立ち飲みアワード」(そんなのあったっけ?)の優勝候補です(ってまだここしか行ってないけど)



 まとめて料理作って小分けで売っているから、食べ物はそこそこ利益があるかも。

 しかし、分からないのは飲み物の利益率。

 これはどうなってんだ?



 ところで、土鍋にスープ入れておくのはダメなの?

 何で?

 ちなみにウチのは土鍋じゃないよ。

 こないだ今ウチに来て鍋やったから知っていると思うけれど・・・・。

 WBCに関しては今のところ、こんなものかと。

 昨夜、韓国戦も見たけれど、韓国やっぱ強いよ!

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師よ。 (熊猫刑事)
2006-03-14 08:52:22
今ベトナムか。ベトナムのどこだ?そして、そのままバカンスして行くのか?どうなんだ師よ。日本はさみぃゾ。さぶさぶだぁ。しばらく、そっちにとどまっている方がいい。絶対いい。バインセオ食べてビアホイで英気を養ってきなよ。
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土鍋 (怪鳥)
2006-03-14 10:59:16
にスープを入れたまま一晩も放っておくとすぐ割れる可能性大です。所詮、「土」から出来ているので本来は水分に弱いのですね~。で、使ったらすぐにきちんと洗ってすぐ自然乾燥状態にしないといけない。洗ってすぐしまったりしても良くないんですよ。一個ダメにしてるモノより・・・・。

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あれ (今p)
2006-03-14 12:14:23
あれ? 土鍋じゃなかったっけ。

頭が「鍋もの=土鍋」になってるなり。
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サスガ (今p)
2006-03-14 12:21:27
怪鳥! ものしり~。

ついついシンクに放置しがちだったりするから気をつけないと。
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