角打とは挑戦的な屋号である。
山口宇部空港の出発ロビー。いつのころだったか、この店が出来たのは。
角打といっても、酒屋ではないし、ましてや居酒屋といった風情でもない。強いていえば、うどん屋。
ただ、山口県が誇る日本酒「獺祭」ののぼりがあって、唯一それが角打らしさをかろうじて演出する。だが、もしかするとこの「鍋島」の経営は「獺祭」の旭酒造なのではないかとの疑問もわく。もしそうだとすれならば、角打と名乗っても不思議ではない。
その角打だが、基本的には、これから宇部を離れる、つまり飛行機に搭乗する人が客である。見送りに来た人のほとんどがクルマを運転する人だから、ここでわざわざ酒を飲むことはないだろう。中には、複数の人で見送りに来て、運転者を除いて、酒を飲むという人もいるだろうが、それでもそう多くはないはずだ。東京に向かう者だけがこの角打を利用するのである。
わたしも長らく、この角打を利用したかった。だが、それはそう簡単なことではなかった。
義母、あるいは義父が見送りにきてくれるのだ。その義父母をさておいて、酒を飲むことなどできない。
そうやって、何年もこの小さな屋台のような店をスルーしてきた。
だが、ようやくその願望をかなえる時がきた。
義母がちょっとした用事で帰宅したのだ。
その隙を狙って、わたしは神楽の山車にも似た、店舗に向かった。家族に「ちょっとビール、飲んでくる」といい残して。
「獺祭」を飲む勇気はない。これから飛行機に乗るというのに。
生ビールは山口萩の「ちょんまげビール」。
まさに「花燃ゆ」。これがジョッキで600円だ。
つまみも豊富。
「蒲さし」が150円。宇部のかまぼこは他とはちょっとちがう。歯応えがあって、この食感がたまらないのだ。
そして、ふぐ。山口らしい。
「燻製」も「酢の物」も150円。
山口では、ふぐをふくと言う。恐らく、福とかけた縁起を担いだ言葉なのだろう。
そして、「ビーフジャーキー」(150円)は見島産無角牛というもの。
まさに、山口をぎゅっと凝縮したような店舗といえる。
その「ちょんまげビール」はピルスナーとペールエールの2種類。
とりあえず、前者をいただいたのだが、これがうまかった。
実に正統派のピルスナーだった。最近のクラフトビールは、ホップをやたらきかせているのが多いが、ホップに惑わされずに、すっきりと飲める代物だった。
何故、空港に立ち飲みが?
いや、ANAフェスタのようにスナック的店は空港に必ずあるが、本格的立ち飲みは珍しい。
しかも、一日10往復の地方空港で。
ともあれ、山口が誇る日本酒と今最もホットな街、萩のクラフトビール。そして、おいしい珍味たち。まさに地産地消の立ち飲みなのである。
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