「BBB」

BASEBALL馬鹿 BLOG

居酒屋さすらい 1055 - 人の記憶と歴史が静かに流れる - 「かね久」(品川区旗の台)

2016-08-24 09:31:45 | 居酒屋さすらい ◆東京都内

親父が退院したと思ったら、今度は叔母が緊急入院した。

ボクはその日、急いで昭和大学病院に駆けつける。

旗の台という駅をボクは初めて降りた。

 

味わいのある駅前だ。再開発されてなく、生活臭を感じる。商店が並び、すれてない。

叔母は思ったよりも元気だった。

 

病院の帰り道、どこかで酒を飲もうと、旗の台駅の周囲を散策した。

立ち飲み屋は見つからなかった。そのうえ、「これは!」というお店もなかった。

比較的、酒場が少ない駅である。酒場は散発的だった。

 

味のある酒場を探していた。

条件に叶う店はなかなか見つからなかった。

ただ、気になる店はひとつだけあった。

商店街にぽつんと灯りが点る「かね久」という店である。

のれんに、焼き鳥、茶めし、おでん、とある。

茶めしとはなんだろうか。

お茶で炊いたごはんのことだろうか。

 

店のひなびた感じがいい。

かなり、古いお店なのだろう。

ボクは店に入ってみることにした。

カウンターだけの小さな店。

予想通り、常連さんが数人座る。

店主は長年、この店と歩んできたのだろう。おじいさんが一人で店を守っている。

 

メニューは黒いプラスチックの札に白く書かれている。

「オムレツ」や「にらたま」といったメニューもあるが、体裁としては居酒屋である。

店に入る前から決めていた、「おでん」と日本酒をオーダーした。

お酒はコップ酒。

大将は、一升瓶を持ち、コップになみなみと注ぐ。

 

店内のあらゆるものが古かった。

店の大将も、厨房も、調理器具も、みんな同じ時間をここで費やしてきたのだろう。

厨房にある漬物石。

それが何故か美しいオブジェに見えて、ボクは思わず写真に撮った。

それを見ていた常連さんが、「この店は年季が入ってるでしょう」と話しかけてきた。

そのうち、店内は誰もが懐かしむように、昔話になった。

20代の始めに、転勤で東京に来たという初老の男性は、そのままずっと東京勤務で過ごし、その間約40年も、この店に通っているという。

「もう、すっかり東京の人間さ」。

「最初、この店に来はじめたときは、自分がいちばん若手で、緒先輩らに可愛がられたけど、今では自分が古株だよ」

と豪快に笑った。

 

小さな営みがここにあった。

店とおじさんの記憶。

 

「緒先輩らは、もうだいぶ鬼籍に入ったね」

 

ボクはお酒をグイと飲んで、次の一杯を求めた。

「おでん」は東京の出汁とは思えない薄味だった。

 でも、抜群においしい。

 

独特の時間が流れている。

それは必ずしも、ゆるやかではない。

あくまで、独特だ。

多分、その時間に会いたくなって、人はここに通うのだろう。

人の記録や記憶を凝縮した時間。歴史を刻んでいる空間。

それぞれの思いを集めて、人は酒に酔う。

まるで、店が一本のフィルムのように。

 

ボクにもこういう店があればいいなと思う。

けれど、その一端、いやエッセンスだけでも感じさせてもらえたのは、きっと幸せなことだったのだと思う。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 居酒屋さすらい 1054 - 驚異... | トップ | 喫茶さすらい 044 - 人生は偶... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お、旗の台 (怪鳥)
2016-08-25 10:32:37
そう、散発的に良い店があるらしいのだが、わざわざ行く店は無いかも(というか知らない)ですね。たしかこのには自分は成田のごんべえで飲んでいた気がします・・・・。
返信する
Unknown (熊猫)
2016-08-25 12:10:49
怪鳥、生誕の地だもんね~。

互いの縁ある土地で、それぞれ飲んでたっていうのが面白いね。
返信する

コメントを投稿