1週間に1回程度、中央通りの「SHANGS CAFE'」の前を通り過ぎる。
店の前にあるコーヒーのメニュー表がなければ、カフェとは恐らく気づかないだろう。
そんなお店である。
銀座線の末広町と上野広小路の間。駅近ではない。
極めて地味なカフェである。
その店頭のメニュー表に大きく訴求されているのが、「ブルーマウンテン」。
これがお店の自慢だ。
要するに、良質の豆を比較的安価で飲むことができる。
ブルーマウンテンNp.1が800円。
近年、ブルーマウンテンのクオリティが著しく低下していると聞く。そうとはいえ、この価格はやはり驚く。
いつも通りすぎるだけのカフェ。
ブルーマウンテンの誘いに、ボクはいつも無関心を装った。
ある日のこと、店に入る機会を得た。
突然、雨が降りだしたのである。
人生はいつも予測がつかない。
換言すれば、人生は偶然に溢れているのだ。
店の奥のテーブルに腰かけて、メニューを眺めると、サンドウィッチが目に止まった。
偶然が偶然を呼ぶ。
ボクはサンドウィッチが食べたかった。
偶然の偶然。或いは偶然の二乗。
天文学的な偶然にボクは恵まれた。
偶然は更に続く。
カフェを取り仕切る、2人の女性が美人であること。
しかも、共されたサンドウィッチがとびきりおいしかった。
偶然は更に増幅し、4乗、5乗に膨らんだ。
そして仕上げが、ブルーマウンテン。
おいしい。
元来、酸味のあるコーヒーは好きではないが、その酸味がきりっとした輪郭を形成している。
うまいコーヒーとの邂逅。
はるかブルーマウンテンの頂きから、長い旅を経て、抽出された一滴一滴の雫は、偶然の産物。
ボクは偶然のなかに、生かされている。