しばらく成田には来ないだろうと思っていた。
だが、母の死後から5か月、ボクは成田に降り立った。
父が緊急入院したのである。
父の状況はあまり芳しくなかった。
年齢も年齢であり、それは致し方のないことだった。
ただ、入院が、あと3日以上早ければ、ボクの卒論は提出出来なかっただろう。見えない力が働いているように感じる。
帰路、ボクは成田駅前の酒場に立ち寄った。
朝から何も食べていない。
成田の立ち飲み「寅屋」に行きたかったが、この日は座って酒が飲みたかった。
ボクは疲れていた。
だから「寅屋」の本店に行くことにした。
本店なら、座って酒が飲める。あのうまい「ハラミ」はどうしても食べたかった。
平日の20時過ぎなのに、店は賑わっていた。
店内のメインストリートに長いテーブルがあり、対面できるよう椅子があつらえられていた。
ボクはそこに腰かけ、ホッピーを注文した。
「寅屋」といえば、「梅割り」だが、ボクはこの日あえていっぱい量が飲めるホッピーにした。
三冷。
今時、愚直に三冷も珍しい。
ボクはすかさず、「ハラミ」の若焼きを、わさび醤油でオーダーした。
すると、信じられない言葉が返ってきた。
例の食品衛生法の改正によって、若焼きを出せなくなったという。
これは、ボクにとって、かなりショッキングだった。
仕方ない。
出来うる限りのレアで、ということでお願いした。
本店のメニューは、立ち飲みよりも豊富だった。
とりわけ、立ち飲みにはない揚げ物が充実していた。
「ハムカツ」(300円)
「チーズ揚げ」(300円)
「コロッケ」(300円)
いずれも立ち飲みにはないものばかりである。
更にメニューを眺めると、嬉しい一品がある。
「目玉焼き」(300円)。
「ハムエッグ」(300円)
おぉ。
ボクは「ハムカツ」に「目玉焼き」を追加した。
「ハラミ」は期待に違わない素晴らしい素材だった。
さすが「寅屋」。
肉の柔らかさとジューシーさ。
ボクは、この店の「ハラミ」が日本一だと思っている。
そして「目玉焼き」。
いいなぁ、これ。素朴で。
立ち飲みの店はJR側は抜群にいいが、この本店の雰囲気も悪くない。
ボクは座って飲むより、立って飲むほうが落ち着くが、本店の雰囲気ならばそれはそれで満足できる。
成田の羊羹といえば、「米屋」である。
「とらや」ではない。
成田の「寅屋」といえば、「ハラミ」と「梅割り」だ。
もし、自宅が成田のままであったなら、ボクは毎日「寅屋」に通うだろう。
自分は成田の大衆酒場の二番手です。ハラミはハーフでも充分な量だよね~。
でも、3杯で限界なんだよなぁ。
JR成田の立ち飲み「寅屋」が自分の成田ナンバーワンです。
あぁ、「ハラミ」が食べたい。