強欲なリキシャーにまる1日振り回され、ジャイプルの3日目が終わろうとしていた。アーグラーも、このジャイプルもわたしにとって、リラックスできず、不自由な時間を過ごした気がする。ワクワクすることはなく、むしろ不愉快なことばかりが起きた。インドに入国して、2週間あまり、わたしの旅は急減速した。
インドは3ヶ月のヴィザを持っている。苦行のようなインドで、わたしは3ヶ月も耐えられるだろうか。いや、そもそも耐える必要もなく、わたしは次の国を目指した方がいいのではないだろうか。宿に戻ったわたしはベッドに横たわりながら、そう考えた。
だが、たった2週間で、このインド亜大陸を判断してしまうのはもったいなかった。インドに慣れなければ、この先の旅はもっと困難になるのだろうと思う。泣き事を言うのは、しっかりインドを見てからにしようと、わたしは自分に言いきかせた。
それにつけても、ジャイプルはとっつきにくい町だった。自分のペースを掴めず、楽しくもない。そろそろ次の町に移動する時が来たのかもしれない。
ベッドに横たわって、インドの地図を広げてみたが、集中できず、わたしはシャワーを浴びることなく、そのまま眠ってしまった。
翌日、目を覚ますとすぐに、わたしはザックを担いでジャイプルインを後にした。そのまま、バスターミナルに向かって歩いていると、一人の男に声をかけられた。英語が下手な若い男だったが、どうやら自宅へ来ないかとわたしを誘っているようだった。わたしはアーグラーのウィッキーの一件で、すっかり懲りていたので、やんわりと断った。けれど、その若者は見かけによらず、執拗にわたしを家に誘った。
ますます怪しい。
その彼から逃げるつもりで、露天の店に立ち止まり、わたしは煙草を買うことにした。
だが、その彼も立ち止まり、わたしの横にくっついた。
「ゴールドフレイクをエクパケット」。そう言って8ルピーを店主に渡したが、露天の男はそのうちの1ルピー札を一枚出して、受け取らない。はじめは、8ルピーでは売らないと言っているのだと思い、わたしは「オンリー8ルピー」と断固とした口調で言った。だが、相変わらず露天の男は1ルピー札をひらひらさせながら、わたしに突きつける。すると、わたしの横についていた若者が口を開いた。
「そのぼろぼろの札は受け取らないよ」。
「何故?」
わたしが言うと、「汚い札は誰も受け取らない。それがルールなんだ」。
と彼はポツンと言った
仕方ない。ポケットを探し、まともそうな札を出して、露天の男に支払った。
なんとなく後味の悪い買い物だった。まさにババ抜きのババを掴まされている気持ちだった。
お礼の意味を込めて、若者に買ったばかりの煙草を一本薦めた。彼はそれを受け取り、自分のマッチで火をつけた。
一口目のタバコの煙を吐き出しがら、彼はまた言った。「ウチへおいでよ」。
わたしは少し彼に対する警戒感を解いた。さて、どうしようか。
「君の家は遠いのかい?」と、ニューデリーでボブネッシュに尋ねたように、わたしは尋ねた。
すると、彼は、「すぐそこだよ」と答えた。
やっぱ「寄ってくんなオーラ」と、怖い顔のせいだろうな。(苦笑)
しかし、インドは慣れるまで時間かかるよね。当時、俺らが若かったからというのもその理由として多分にあるなあとは、オッサンになってスレた今、凄く思うことでもあるけどね。
本当は、今回でジャイプルの回を終わらせようと思ってて、この若者の家に誘われた話しは割愛するはずだったけど、ボロい紙幣のことを教えてもらったから、省略もできず。だから、何の事件もなく、ジャイプルを脱出するよ(予告)。