2週間に1度は訪問すると決めていたが、なかなかタイミングが合わず、一ヶ月のご無沙汰となった「光栄軒」。扉を開ける前に少々緊張した。忘れられているということはないにしろ、「お名前何でしたっけ」となったらどうしようかとか。でも、そんなのは杞憂だった。
「あら、熊猫さん」とママ。
嬉しいです。素直に嬉しいです。「居酒屋さすらい」は定点観測をせず、常に新しいお店を求めて夜な夜なさすらってきたが、こうして名前を呼んでくれるようになったのは2店目。その喜びを知ってしまうと、もっと通いたくなる。
しかも今回、ママが常連のO庭さんや洗い物をされているM本さんに自分を紹介してくれて、輪の中に入れてもらった。たかだか月に1~2回しか来店しないライトユーザーの自分を歓待してくれるのは、ひざげりさんのおかげだと、改めて感謝したい。
ます、「紹興酒」常温を2本。必ず2本は飲むんだし、常温なんだから、もう最初に2本、先にオーダーしてしまう。ちびちびと「紹興酒」を舐めながら、次の展開を思案する。
「『唐揚げ』いきたいな」。
漠然とそう思っていた。実は自分、単独で「唐揚げ」をいただいたことがない。「唐揚げ」大好きな者として、いつかは腹一杯食べたいが、なかなかそのタイミングが訪れない。だって、お通し、「唐揚げ」、「半炒飯」コースをやってしまったら、多分また腹がはちきれそうになるのは必至だ。だから、まずはお通しで様子を見なければならない。そう思っていると、とても信じられないものが眼前に現れた。
いやその前に、マスターが何かを作っているのが見えていたのだが、それが余りにも巨大だった。誰か、何かの大盛を頼んだのだろう。その時はそう思った。しかし、まさかその料理が自分のものとは。
マスターが、「はい、熊猫さん」とカウンター上部にお通し出してくれた時、自分は、驚きの表情をしていたはず。本当は歓喜の顔をしたかったが、それが出来なかった。本当に仰天したのだ。
これでもかとごまだれがかかった山。一体。これは何なのか。ごまだれを崩すと、豚肉が現れた。「冷しゃぶ」だった。
果たして、これをいただいていいものか。前述したように、僅か月に1~2回しか来ない自分が。
早速いただいてみる。たっぷりのごまだれがきいて、うまい。豚肉の下にはセロリ。これが爽やかで、すっきり感を煽る。
そういえば、お通しが来る前に、マスターはこう聞いてきた。
「セロリ、食える?」。
「大好きですよ」と自分が言うと、ママが横から出て来て、小指を立てながら、「こっちは?」と聞く。一瞬、よく分からなかったから、キョトンとしていたら、ママはもう一度同じゼスチャーをした。
「マスターほどじゃないですよ」というのが、精一杯だった。
O庭さんと知り合ったことで、世界はまた広がった。驚いたことにO庭さんとは少なからず、ご縁があった。自分の勤め先のビルと大家さんをO庭さんがご存知だったのである。その昔、O庭さんは、そのビルの裏手で働いていたらしい。世間はなんと狭いのか。
O庭さんが、その当時よく行っていたのが、御徒町ガード下の「かっぱ」。自分も何度かお世話になったし、もちろん「居酒屋さすらい」でも、数回登場した。昨年、O庭さんが、「かっぱ」を訪ねると、「店がなくなっていた」と寂しい表情になった。
「そうなんですよ。『かっぱ』は、一昨年の暮れに閉めちゃいましたよ」。
聞くところによると、「かっぱ」の店長さんとは、昔から、名前で呼び会う仲らしい。
「はっちゃん、今頃何なってんのかね」。
O庭さんはしんみりとした顔になった。
巨大なお通しにより、オーダーのプランは大幅な変更となった。いつもは、〆の「半炒飯」の前に、もう一品挟むが、今夜はいきなり「半炒飯」で。
もちろん途中から「緑茶割」で一気に加速。途中から、例によって記憶が曖昧になる。お支払いは約2,400円だったから、「緑茶割り」は3杯飲んだか。
人から人へ繋がっていく縁とは、なんとも不思議で、なんとも楽しい。O庭さんとの会話で、つくづく思った。また次回の「光栄軒」が今から楽しみである。
町中華のホイコーローとかマーボー、バンバンジーはオリジナルとは違うんだけど、そういう料理だと思えば安くて美味しくて良いですよね。
とにかく、セロリがアクセントになっていて、抜群の旨さでした。