この日は東十条の「新潟屋」に行こうと最初から思っていた。過去何度もタイミングが合わず、未訪の店だ。何度か訪ねた折り、満席で断念したことがある。かなりの人気店なのだ。
ちょっと仕事が長引き、16時20分にお店に着く。開店から20分後、果たしてお店はもう満席だった。こりゃいかん。どうしたらいいかとまごまごしていると、お店のお姉さんが、「ちょっと待っててね」と言う。助かった。
居酒屋の人気店では満席状態で入店しても助け船を出してくれないケースがある。進退極まったら、店を出て行くしかないことも。だが、「新潟屋」は「待ってて」と言ってくれる。実は後から来た他の客にも必ずそう言っていた。必ずお店に入れるのだ。
入口手前のテーブル席の老人と相席になった。
まずは「ボール」(350円)と「煮込み」(500円)をオーダーした。焼酎ハイボールが「ボール」で通称されるのが嬉しい。その「ボール」はやや黄色く、確実に下町系だ。これはもう痛快である。
一方、「煮込み」も素晴らしい。味噌仕立てのこってり系。もつはシロだが、つゆがとにかくうまい。恐らく、相当煮込んでいるはずだ。
焼き物も同時にオーダー。「ハラミ」は既に売り切れており、「カシラ」と「レバー」(各100円)をタレでオーダーした。
しかし開店から僅か20分なのに、この盛況ぶりといったら。しかもまだ17時前、一体この人たちはどんな人種なんだ。ぐるりと店を眺めまわす。約半分くらいの人はご隠居組だが、残り半分はどう見てもまだ現役。自由業なのだろうか。
焼き物がどかっときた。
身が大きい。早いうちから満席になる理由が分かった。たっぷりつけられたタレもまた絶妙だった。
ふと、厨房内の壁を見ると開店時間が書かれており、そこには15時半とあった。16時開店とばかり勝手に思っていたが、そうではないらしい。なるほどそれで納得。そうなれば自分としてもむしろ使い勝手がいい。
「飛葉」も「杯一」も開店は16時で、自分としてはもう少し早く開けてほしいと思っていた。それならもう「新潟屋」一択だ。しかもここには「ボール」があって、串焼きが安くてうまいときてる。
そう考えると東十条は結構もつ焼きの激戦地ともいえる。南口は「新潟屋」と「埼玉屋」がマッチレースで、北口は「飛葉」がいる。いずれも17時前に開店し、コアなファンを持つ。しかし、この南口で凌ぎを削る新潟と埼玉って。県名を冠する屋号が軒を連ねているのも何か深い訳でもありそうだ。両店ともおやっさんが近いご年齢のように見えるし。
「ボール」がとにかくうまくてスイスイいっちゃって、かなり危険である。
下町ボールの最高峰はやっぱり立石の「江戸っ子」だと思う。濃さと秘伝のシロップはあの店しか味わえない。それにつぐのが、森下の「山城屋」と今はなき曳舟の「三祐酒場」か。そのお店以外でも「ボール」を名乗る飲み物は何度かお目にかかったが、いずれも物真似程度。久しぶりに本物の「ボール」に出会えたような気がする。
この半年間、東十条の昼飲みで試行錯誤を続けてきたが、もはやこれにて決着。これから平日の半ドン休みは「新潟屋」に決まりである。
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