伊香保の街を散策した。
廃業して、そのまま夜逃げしたようなホテルがあちらこちらにある。狭い路地を歩くと壊れかけた木造の家がいたるところにある。
伊香保温泉名物の石段沿いの店舗は埋まっているが、ひとたび一本裏道に入ると、その廃れっぷりは激しかった。
観光客もまばらだった。
街そのものが廃墟のようだった。
伊香保、2日目の夜、昨夜の「眞楽」で1杯ひっかけて、ボクは2軒目を探した。
適当な居酒屋がない。
そこで見つけたのが、狭い路地に店を構えていた「山幸」だった。
店は暗く、とても営業しているようには見えなかったが、店内には2人のおじさんがいて、ひそひそと話しをしていた。
店の人がなかなか現れなく、ボクはカウンターに座ったまま、しばらく待った。
店は田舎の食堂というあんばいだった。店の柱には「ラーメン」と書かれていた貼紙がある。
やがて、現れたのは割烹着を着たお婆さんだった。
「お待たせして悪いね」。
お婆さんはそう言った。
ボクはお酒の熱燗と「つけもの」をもらった。
「つけもの」はいかにも田舎のおばあちゃんのが漬けたもののようで、きゅうりとキャベツの浅漬けだった。
昨夜と同様、ボクはそれをしんみりといただいた。
聞こえてくるのは、おばあちゃんの洗う皿の音と、背後で井戸端会議をする2人の男性の声だけである。
男性らは地元の人で、何かの相談をしているようだった。
ふと、ボクが後ろを向くと、男性のうちのひとりに声をかけられた。
大学のゼミで来ていること、昨日から泊まっていることを告げると、2人の男性は驚いた。
「えぇ?連泊?」。
どうやら連泊の客は今や珍しいらしい。
それほど、この温泉街は疲弊しているようだった。
かつて温泉街として栄華を誇った伊香保とは思えない凋落ぶりを見た気がした。
お酒を追加し、〆にラーメンをいただいて店を出た。
ラーメンはちょっとしょっぱかったけれど、素朴な味のラーメンだった。
旅館に帰る道は真っ暗で少し怖かった。
かつて人で賑わっていただろう、この地の衰退ぶりがただただ不気味だった。
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