『平澤かまぼこ』を訪問した翌日、オレはまた王子駅北口に佇んでいた。
いよいよ、立ち飲みラリーの最終地王子神谷に向けて歩き始めるためではない。 その前に、王子駅で立ち寄らなければならない立ち飲み屋がもう一軒あったのだ。
その店とは『立呑 笑和』。
散歩していた際に発見した店でずいぶん前から気になっていたのだ。
駅の東側は『平澤かまぼこ』のある西口とは景観が全く正反対である。西側は、王子神社の鬱蒼とした木々と音無川の小さな流れによって、ここが本当に23区内なのか、にわかに信じ難い錯覚にとらわれるほど静かな佇まいなのだが、東側は目の前にロータリーが広がり、大都会といわないまでも、一応都内の街並みを形成している。
目指す酒場は、サンスクエア前の路地。と、いっても王子の名所「柳小路」ではない。「柳小路」の一本南の酒場だ。
威勢よく店に入ったつもりだが、更に威勢のいいお兄さんが「へい、らっしゃい!」と掛け声をかけてきた。その野太い声と鋭い目つき。恰幅のいい巨体を包む和柄のシャツ。一見、その筋の人のように見える。
まず、生ビール(400円)を貰う。
会計はキャッシュ・オン・デリバリー。
基本的には、カウンターにある灰皿にお金を入れておけばいい。あとは、お兄さんがお金をその都度とっていってくれる。
生ビールはモルツか?ビールが冷えすぎていて、味が判然としない。ビールの温度は2℃くらいにまで冷えているかも。
まず、つまみに「もつ煮込み」(250円)を貰った。
だが、「煮込み」が出てくる時間は極めて遅い。お兄さんは、目の前の厨房調理でアルミの鍋を使って温めているのだが、これがとにかく時間がかかった。大鍋で 「煮込み」を作る店とは違うみたい。ということは、この店において「もつ煮込み」はあまり人気商品ではないのかもしれない。
生ビールを飲み干して、ようやく出てきた「もつ煮込み」は、器こそ小ぶりだが、大盛りが嬉しい代物だった。味は赤味噌ベース。「煮込み」の王道を行く味わいだ。ややマイルドなのは、何か隠し味でもあるのだろうか。大鍋で大量に作るものとは味の深みは違うけれど、この「煮込み」も決して悪くない。
店の看板料理は、新鮮な魚などの一品料理、そして焼き物である。
厨房にある保冷機には、仕入れた魚が整然と並べられている。その魚料理も決して値段が高いわけではなく、「もつ煮込み」の料金からも分かるとおり、非常に安価で食べさせてくれるのだ。
一方、焼き物も1本100円から。基本は2本から頼むことができる。
お店には、既に一人の客がカウンターの、つまりはオレの隣で飲んでいた。
そのお客は常連のようで、店のお兄さんと談笑している。だが、その談笑がとても物騒な話しなのだ。
「王子の飲み屋はどこも景気が悪いみたい」
という話から始まった談義はどんどん熱を帯びていく。
王子界隈のキャバクラの話し、「ぜんさん」という共通の友人の話題。「とんぼ」というスナックで起きた喧嘩の話しには、2人思わずヒートアップして、口角泡を飛ばすほどに2人の世界が展開される。
これには、いささか参った。
なにせ、オーダーしたくとも、なかなか割って入れない雰囲気があるのだ。
「新田(足立区)の店はとんでもないとこばかり」と言って喧嘩になったという「とんぼ」での騒動に「○○が胸ぐらを掴み」「あとで、詫びに行かせた」とか、堅気ではないような血なまぐさい話しが声のボリューム最大にして盛り上がっていくのだ。
「ほりぶんの息子がさぁ」
などと、地元の有名スーパーの名称が出てきたところで、わたしはとうとう痺れをきらして店のお兄さんに声をかけた。
「カシラ」とレバー」(各100円)とビールのお代わりを注文したのだった。
だが、お兄さんの話しは途切れることがなかった。
その地元ではかなり名が知れた有名スーパーの子息の話しで盛り上がっていくのである。
その光景は決して気持ちのいいものではなかった。
騒々しい雰囲気にも増して、店内に2台置いてあるテレビから流れるバラエティ番組も店の雰囲気を軽いものにしていた気がする。とにかく、落ち着いて酒が飲めない雰囲気なのだ。
しかし、焼き物を焼くお兄さんの姿は凛としたものがあり、丁寧に仕事をしている様子ではあった。そのために、お店の雰囲気を台無しにしている点が非常にもったいなく思えるのである。
焼き物は申し分のないおいしさであった。
炭で焼かれたそれはコリコリと程好く焼かれており、具材の新鮮さと併せて思わずオレは唸ってしまった。
そうこうしているうち、ひとしきり喋っていた先客は帰っていった。
わたしは、お酒(400円)と「レバー刺し」(値段不明)を最後に注文した。
いかつい顔のお兄さんだけれど、お喋りが好きなのかな、と思って、「日本酒の銘柄は何ですか」と尋ねてみると、すごい早口で「群馬県の○×だよ」と少し面倒くさそうな素振りで答えた。
「レバー刺し」もやはりおいしかった。
だが、なんとなく物足りない気分で店を後にしたのは間違いなかった。
やはり、お店は料理だけじゃない。
店の雰囲気、そしてお喋りなどが倍加するからこそ、居酒屋は楽しくなるものなのだろう。
残念ながら、同店の場合、名は体を表していなかった。
-09年9月初旬、閉店を確認-
いよいよ、立ち飲みラリーの最終地王子神谷に向けて歩き始めるためではない。 その前に、王子駅で立ち寄らなければならない立ち飲み屋がもう一軒あったのだ。
その店とは『立呑 笑和』。
散歩していた際に発見した店でずいぶん前から気になっていたのだ。
駅の東側は『平澤かまぼこ』のある西口とは景観が全く正反対である。西側は、王子神社の鬱蒼とした木々と音無川の小さな流れによって、ここが本当に23区内なのか、にわかに信じ難い錯覚にとらわれるほど静かな佇まいなのだが、東側は目の前にロータリーが広がり、大都会といわないまでも、一応都内の街並みを形成している。
目指す酒場は、サンスクエア前の路地。と、いっても王子の名所「柳小路」ではない。「柳小路」の一本南の酒場だ。
威勢よく店に入ったつもりだが、更に威勢のいいお兄さんが「へい、らっしゃい!」と掛け声をかけてきた。その野太い声と鋭い目つき。恰幅のいい巨体を包む和柄のシャツ。一見、その筋の人のように見える。
まず、生ビール(400円)を貰う。
会計はキャッシュ・オン・デリバリー。
基本的には、カウンターにある灰皿にお金を入れておけばいい。あとは、お兄さんがお金をその都度とっていってくれる。
生ビールはモルツか?ビールが冷えすぎていて、味が判然としない。ビールの温度は2℃くらいにまで冷えているかも。
まず、つまみに「もつ煮込み」(250円)を貰った。
だが、「煮込み」が出てくる時間は極めて遅い。お兄さんは、目の前の厨房調理でアルミの鍋を使って温めているのだが、これがとにかく時間がかかった。大鍋で 「煮込み」を作る店とは違うみたい。ということは、この店において「もつ煮込み」はあまり人気商品ではないのかもしれない。
生ビールを飲み干して、ようやく出てきた「もつ煮込み」は、器こそ小ぶりだが、大盛りが嬉しい代物だった。味は赤味噌ベース。「煮込み」の王道を行く味わいだ。ややマイルドなのは、何か隠し味でもあるのだろうか。大鍋で大量に作るものとは味の深みは違うけれど、この「煮込み」も決して悪くない。
店の看板料理は、新鮮な魚などの一品料理、そして焼き物である。
厨房にある保冷機には、仕入れた魚が整然と並べられている。その魚料理も決して値段が高いわけではなく、「もつ煮込み」の料金からも分かるとおり、非常に安価で食べさせてくれるのだ。
一方、焼き物も1本100円から。基本は2本から頼むことができる。
お店には、既に一人の客がカウンターの、つまりはオレの隣で飲んでいた。
そのお客は常連のようで、店のお兄さんと談笑している。だが、その談笑がとても物騒な話しなのだ。
「王子の飲み屋はどこも景気が悪いみたい」
という話から始まった談義はどんどん熱を帯びていく。
王子界隈のキャバクラの話し、「ぜんさん」という共通の友人の話題。「とんぼ」というスナックで起きた喧嘩の話しには、2人思わずヒートアップして、口角泡を飛ばすほどに2人の世界が展開される。
これには、いささか参った。
なにせ、オーダーしたくとも、なかなか割って入れない雰囲気があるのだ。
「新田(足立区)の店はとんでもないとこばかり」と言って喧嘩になったという「とんぼ」での騒動に「○○が胸ぐらを掴み」「あとで、詫びに行かせた」とか、堅気ではないような血なまぐさい話しが声のボリューム最大にして盛り上がっていくのだ。
「ほりぶんの息子がさぁ」
などと、地元の有名スーパーの名称が出てきたところで、わたしはとうとう痺れをきらして店のお兄さんに声をかけた。
「カシラ」とレバー」(各100円)とビールのお代わりを注文したのだった。
だが、お兄さんの話しは途切れることがなかった。
その地元ではかなり名が知れた有名スーパーの子息の話しで盛り上がっていくのである。
その光景は決して気持ちのいいものではなかった。
騒々しい雰囲気にも増して、店内に2台置いてあるテレビから流れるバラエティ番組も店の雰囲気を軽いものにしていた気がする。とにかく、落ち着いて酒が飲めない雰囲気なのだ。
しかし、焼き物を焼くお兄さんの姿は凛としたものがあり、丁寧に仕事をしている様子ではあった。そのために、お店の雰囲気を台無しにしている点が非常にもったいなく思えるのである。
焼き物は申し分のないおいしさであった。
炭で焼かれたそれはコリコリと程好く焼かれており、具材の新鮮さと併せて思わずオレは唸ってしまった。
そうこうしているうち、ひとしきり喋っていた先客は帰っていった。
わたしは、お酒(400円)と「レバー刺し」(値段不明)を最後に注文した。
いかつい顔のお兄さんだけれど、お喋りが好きなのかな、と思って、「日本酒の銘柄は何ですか」と尋ねてみると、すごい早口で「群馬県の○×だよ」と少し面倒くさそうな素振りで答えた。
「レバー刺し」もやはりおいしかった。
だが、なんとなく物足りない気分で店を後にしたのは間違いなかった。
やはり、お店は料理だけじゃない。
店の雰囲気、そしてお喋りなどが倍加するからこそ、居酒屋は楽しくなるものなのだろう。
残念ながら、同店の場合、名は体を表していなかった。
-09年9月初旬、閉店を確認-
以前、情報誌を出している出版社に勤めておりました。
居酒屋の潜入取材をし、記事を書かせてもらったコトもありますが…
なにせ、表現力が無く、ボキャブラリーも無くて。
熊猫さんの文章には脱帽です。勉強になりました。
これからも、楽しみに読ませていただきます。
ありがとうございます。
大抵の方には、文章が多くて読まないよと、言われながら、このスタイルでやってきました。
ライチ!さんはライターさんなんですね。
ボキャブラリーの有無が文章の良し悪しではないと個人的は思います。
このブログは、文章の練習用に始めました。当初は実験的な文体など試していましたが、いつしか同じような文体ばかりで書いています(不本意ながら)。
それでも、少しは文が上達しかかなとも思いますし、書くのも早くなりました。
これからも、どうぞよろしくです。
わたしの中では「オレたちの深夜特急」の文体が好きです。どうぞ、こちらもご一読いただければ幸いです。
厳しいご意見も是非下さいね。
もともとはグラフィックデザイナーをしておりました。ある時から、編集デザインと文章を書く仕事も
頼まれるようになりまして。
(いわゆる、なんでも屋デス。)
昔から、書く事が好きだったし、苦にもならないので、
楽しめる仕事でした。今は、休業中ですが。
熊猫さんと同じで、練習用にブログをぽちぽち書いてます。
また、お邪魔したいと思います。よろしく。
でも、そんなたくさんのお客さんを相手に熱い会話を交わしながらも
「他のお客さんの状況を見てる」んですよね。
なんとなしに、向かいのお客さんがソワソワしだしたら、
その動作を見逃さずに「ちょっとゴメンネ」って外したり。
ウチワの会話だけで盛り上がっちゃってて気付いてくれないお店にいると、
ムショウに孤独感を感じて「次は無いかな・・・」って思っちゃったりもします。
なるほど、たくさんマルチな才能を発揮されているようですね。いろいろ、やられるってことはたくさん勉強を積んでいらっしゃることです。
大変ではありますが、何でもやはり修行ですね。
帰宅後に、ブログをゆっくり拝見させていただきます。
まき子さん。
その通りです。
「次はないかな」。
自分の場合、「次はない」。
きっぱり断言です。
ちょっとした気配りなんですよね。
ほんのちょっとでいいんです。
なんか、最近批判ばかりしているようで、自分でも不本意。
次回からは、また初心に戻って楽しいお酒を書いていきます!