しばらく空き家になっていた、隣家の解体工事が始まった。
更地にして、当分はパーキングにしておくらしい。
隣家には、私の幼友達が住んでいた。
離婚後、子供を連れて実家に戻り、母親と3人の暮らしが始まった。
10年近く前に、母親はアルツハイマーになり、家を離れ施設に入所。
そして1人暮らしになった友人は、郊外のマンションを買い一昨年に越していった。
その時の、友達のはなし。
実家を手放してから、施設にいる母親を訪ねると、娘の顔も分からない母親がいつになく娘の顔をじっと見て一言、
「ばかやろう!」と小さく呟いたそうな。
隣家は大きい家ではないけれど、部屋から眺められる庭をそれぞれに設え、趣味人だった御両親の愛着の家だった。
「私があの家を手放したことを、母は何となく感じたのかしら」と、友達は言った。
そして、隣家の解体が始まった日の朝に、施設にいる母親が亡くなったという連絡を友達から頂いた。
明日は、そのお母様の告別式。
自分が帰る家がこの世にはもう無いことを悟り、諦めて旅立たれたのかしら……
無人の隣家に棲みついていたらしい黒猫